第111話 ドナドナ 4
いきなりの帝の訪れと、ただならぬご様子にとまどった光る君は、適当な理由をつけて、
年の頃は十歳前後だろうか? 少し興味が沸いた。横にいた左大臣家のもうひとりの女房が、彼女に「第二皇子でいらっしゃいます」そう耳打ちしている。
「名前はなんというの?」
「……
光る君の興味ありげな視線に対して、紫苑の方は、なんとも思っていなかった。それどころか皇子様を相手に失礼なことを考えてすらいた。
お手紙騒動の時は“皇子様”という肩書に、つい舞い上がってしまったが、よく考えれば、この第二皇子は、葵の君とのご結婚がなくなった以上、完全に姫君のライバルなのだ。(左大臣家の女房たちの視点。)
『これが第二皇子! ふーん、まあ、可愛いは可愛いケド、うちの姫君の相手じゃないわね、尊さが違うわ! 』
光る君は一瞬、幼い女房の瞳に浮かんだ自慢げな表情を見て、少し眉を寄せるが、紫苑の視線は、皇子のうしろの女房に釘づけだった。
『“
『あの時の恨み、いつか万倍にして返してくれる!』
とは言っても、さすがに皇子の前なので、紫苑は取りえず右大臣顔負けに、腰低く対応した。
自分にほほえみかけ、姫君の話を聞きたそうな皇子を「関白をお待たせしております」の一点張りでなんとかやり過ごし、うしろの女房に精一杯のガンを飛ばしてから、精いっぱいおしとやかに後宮をあとにする。
牛車を止めてある、内裏の車止めに向かう途中、少し向こうにある大内裏の中に
周囲には大勢の人だかり。
『あれ? ひょっとして、姫君があげた“
気になった紫苑は、これは姫君にご報告せねばと、
どうせ内裏と左大臣家は目と鼻の先、牛車なんてないほうが早いのだ。
「……切り倒せ」
「え?」
内裏の門を抜け、
「ちょっと待ってください! その
「……はて? 装束から、左大臣家の女房殿と見受けますが、ここは
「えっとその……」
思わず止めたが
紫苑は服の色から、彼が一応は殿上人の
そんな紫苑に、官吏は苦笑しながら自己紹介をする。
「わたくしはこの
「あ……!」
『昨日、左大臣家にきていた、名医と評判の
平安の夜は暗い。いくら灯りをふんだんにもちいている左大臣家とはいえ、昨日の夜に左大臣家にきた、彼の印象は
「まだ実もなっていない、この木が
「あ、それは、その、種が左大臣家の物で……その、特別な
「わたくしが預かり知らぬまま、
彼は紫苑に親切そうな顔を浮かべ、そう問いながら、
「関係あるような、ないような……」
ここは大内裏にある大切な薬草園だ。さすがに「そのうち
「おや? 額の
「え、大丈夫です! ほんとに!
本当は、怪我なんてしていないので、紫苑は伸ばされた手をさけ、慌てて右手で膏薬を隠すと、袴を踏んでコケただけだと言いはり、もう片方の手で蜜柑の枝を持ち、裾を持つ
「………」
「どうかなさいましたか?」
斧を持った下働きを連れて、待機していた
勝手に植えられた
「いや、
「はい?」
「この木には、なにか特別なものを感じたのだよ……いまね」
「はあ……」
いつもこの
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