第110話 ドナドナ 3
『はー、怖かった!!』
紫苑は、帝がどこに消えたか、なにを話していたかなんて頭にはなく、心臓をバクバクさせながら、ひたすら自分の上にある嵐が、なにごともなく過ぎ去るのを、うつむいたまま、じっと待っていた。
やがて帝が立ち去ると、平然とした顔の関白を見上げ、このあとの朝議への参加を大納言が関白の元に、うかがいにやってきたのを、ボンヤリとながめていた。
そんな彼女は、せっかくきたのだからと、
『本当に渡殿(廊下)ぞいに殿舎(御殿)が並んでる。ここが
なにかとうわさの
幼い頃から、贅沢な寝殿造りのやかたで働いている紫苑は、まったく臆することもなく、「たまに檜扇が飛んでくるって本当かな?」などとうわさを思い出し、御簾の向こうを、チラチラ見ながら歩く。
右大臣家と左大臣家は、
『一応は隣なんだ……』
その更に奥の渡殿(廊下)を曲がった先に、葵の君が所属する予定の
「
「そうなのよ、後宮をご存じの大宮はともかく、葵の君は、しばらく戸惑いなさるでしょうね」
狭いと言っても
「狭いと言っても、まだ広い方なのよ」
「そうなんですか?」
紫苑は広い左大臣家と、質素ながらも、田舎なので無駄に広い自分の実家しか、ほとんど知らないので、
『
もし来世、不動産の営業マンになった
が、平たく言ってしまえば、清涼殿から一番遠くて狭い上に、帝に呼び出されても、
「もっぱらのうわさによると、帝は
「だめなんですか?」
“
紫苑の視線の先に、
「
『一体、どんな恐ろしい
生まれてこの方、左大臣家に仕え、大宮や葵の君といった、美しくて優しい女主人に恵まれている紫苑には、想像もつかなかった。
女房の
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