第47話 輪舞 5
「まあ、本当に素晴らしい輝きですわ……」
「夜空の星を散りばめたような輝きでございます」
女房たちは、そんな賛辞を口々にしながら、葵の君の髪を乾かして、
自分の
そして紫苑との何気ない会話から、その教えを思い出した自分も偉い!
紫苑が実家に帰る前、彼女の故郷の話をしている時に「“
いまの時代では
そりゃそーだよね、わたしだって、いきなりコンクリートの粉で、髪が洗えるとか言われたら、頭おかしいと思っちゃう!
“
大学の近くで一人暮らしをしていた彼女のワンルームに泊まりに行って、髪を海藻を溶かしたお湯で洗っているのを知った時は、頭の中にワカメでも詰まってるんじゃないかなどと、かなり失礼なことを思っていたが、いまになれば本当に感謝しかない。
自分は緩めにかけると、肩こりに効く関節技を、頻繁にかけて上げていたけど、全然お礼が足りてないと前世を振り返る。
彼女がいまここにいれば、どんなに助かるかとも思ったが、このふたつを思い出しただけでも大収穫であった。
せっかくの休みだというのに、わたしの“
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもないです。本当に艶々ですね……」
いつの時代も、いや、この平安時代というのは『黒髪、超ウルトラロング&ストレート信仰』とでも言えばいいのだろうか? 髪に対する執着は、そら恐ろしいほどで、湯シャン&米のとぎ汁よりも“
そして紫苑の実家の特産品、“
いわゆる“左大臣家姫君の
ちなみに紫苑にプレゼントした“
ひょっとしたら、運命に逆らって光源氏との結婚と、それによる死を回避しようとするわたしへの、運命の女神からの贈物だったのかもしれない。
歴史の授業の中で、昔の
必要は発明の母。出仕すると、ほぼ毎日、
自分が抱えている問題はふたつ。(何気に増えてないか?)
1.光源氏との結婚阻止
2.帝と自分に取り憑いているらしい怨霊退治(
もちろん一番の課題は光源氏との結婚阻止だ。
彼女は、葵の君と自分の視点で見ると、妻を愛人に祟り殺させた挙句、その後も被害者面で、やりたい放題の人生を送っていた光る君を、
『誰が結婚なんてするもんか! こっちが生霊になって取り憑いてやりたい!』
出仕に際しての勉強地獄は本当につらかった。だがしかし、つらい話ばかりでもない。
関白に提出した財政健全化をテーマにした、税収のあり方に対する論文、『救済物品税の新規設立と財源の安定的確保』
(簡単にまとめると、貴族や寺社仏閣が主な購入先である贅沢品に、貧民救済に使用目的を限定した税を、新規に設立する法案と運用。)を、大層に気に入ってくれたらしく、なんでも欲しいものを褒美にやろうと言われたので、“
ついでにと宇治の別邸ももらった。
こんなにポンポンもらって、いいのだろうか? とは思ったけど、ここまできたら、もらえるモノは、もらっておこう!
葵の君は“
実際、日本で採掘される“絹雲母”は、前世でも高級ブランドが、わざわざ輸入するほどの品質だと聞いた覚えがあったので、勝機は十分にあった上に、重金属に蝕まれる世の女性を助けられたら、との思いもあった。
壮大なビジネスプランを立てた彼女は、左大臣家の蔵に保管してあった、献上品の“
人払いをした上、声を潜めて相談する姫君の姿に、尋常ならぬことと認識した
紫苑にプレゼントした“
出来上がってすぐ、自分と母君の分を確保して、母君を通して日頃から親交のある元内親王や先帝の血を引く、やんごとなき方々にも暮れのご挨拶と一緒に、“
歴代の当主の中で、もっとも傲岸不遜で頭が切れ、政治的権力だけでなく、莫大な財を積み上げることにも成功していた彼は、再び姫君を大いに褒めたたえ、鉱山の早期の採掘規模の拡大と、大規模な製品製造ラインを整える約束もしてくれたのだ。
女の美に対する執念は、世の古今東西を問わず恐ろしいほどであることと、なぜか
関白は、鉱山自体は、いまは姫君の山であるのだからと、純利益の半分と採掘権として製品の一部を、毎年配当としてもらえる、破格の条件内容の正式な契約書も用意する。
やっぱり勉強以外は優しい! その時の葵の君は思った。
これは自分が老い先短い年寄りであり、大切に育てられた高貴な身分の姫君であっても、なにかしらの事情で、実家からの援助が絶え、悲惨な人生を送る姫君も、この時代には、ままある話であるのと、いままさに国家の屋台骨が揺らぎつつあることを知っている、関白である自分にすら予測できぬ不測の事態が起こった時を想定しての、冷静な判断と、己の掌中の珠である姫君への関白の思いやりであった。
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