第41話『セイン領』
繭の中からはソフトボールほどもある大きな魔石が転がりだしてきた。ただしこの魔石は魔核の加工品だ。色々な色がマーブル状に混ざり合っている。
同時にスケルトンドラゴンの身体が魔力を失いカラカラと音を立てて崩れ始めた。
俺はその魔石を拾い上げ背負い袋の中へと収めた。ついでに牙と爪も回収しておいた。アビゲイトの連中に良い土産になるだろう。
「さて、行くか」
「はい」
本当の事をいえばここに散らばった遺体も何とかしたいが、流石に数が多すぎる。砦の中に入れば金目の物や食料もあるだろうが、一応勇者である俺は火事場泥棒みたいなことをするわけにもいかない。まあ、何もしなくても砦からの定時連絡が無ければすぐにでも王国軍がやってくるだろう。ここに残って捕まる訳にもいかない。
こうして俺たちはタタワル砦を後にした。
峠を登りきりセイン領へと無事たどり着いた。その頃には日が沈み辺りが暗くなり始めた。
セイン領――。
かつてのパティ―メンバーであったコルトバンニ・セインがこの領地を受領した経緯を俺は知らない。前回召喚された時にはこの場所はシャルディスク領と呼ばれていた。そして、俺がこの世界に召喚された時点ですでにシャルディスク領は魔族軍によって占領されていたのだ。それにより魔族軍はこの国の王都イスタニアンにマルソン川をはさみ二日ほどの距離にまで迫っていたのだった……。
――確かセイン領側の関所は麓の村にあったはず。今からたどり着くのは少し難しそうだ。俺は辺りを見回した。
街道の脇に手ごろな建物が建っているのを見つけた。高さ約八メートル吹き抜け二階建ての展望台のような建物。梯子で登るようになっているので恐らく緊急避難所だろう。
二人ではしごを登り屋根のある二階へ陣取る事にした。二階には木製のベンチとテーブルと簡素な竈が設置されていた。
「よし、今晩はここで夜を明かそう。俺は薪を集めて来るからオルトは適当に寝床を造っといてくれ」
「はーい」
俺は荷張り用の紐と剣だけ持って梯子を下りた。この周囲は岩山なので少し先に見える林まで歩いた。この街道の利用者が少ないせいか薪はすぐに集まった。集めた薪をひとくくりにして抱えた。
そういえばこの山に来てゾンビとスケルトンドラゴン以外に動くものを見かけていない。あのスケルトンドラゴンが追い散らしたせいだろうか? それに、そもそも何故あのスケルトンドラゴンがタタワル砦を襲ったのか謎である。国軍とネクロマンサーは手を組んでいるのではないのだろうか? 違和感を感じる。あれを操ったネクロマンサーの意図が分からない。
俺は薪を抱えてオルトの待つ避難所へと戻った。
「オルト帰ったぞ」
「あっ、お帰りなさいナオヤさん。寝床作っておきました!」
そう言ってオルトはビシッという音と共に敬礼をした。
「……」
勿論、この国の兵士たちが敬礼をするところなぞ見た事も無い。百年の間に変わったのだろうか? それとも、こいつ実は転生者か何かだろうか……。
「どうしました?」
「いや、何でもない。ありがとう」
しかも、その寝床はそこにあったベンチを並べて毛布を掛けただけのもので当然のように一つしか造っていない。こいつ同衾する気満々だ……。まあいいか。
俺は竈に火を熾し鍋を火にかけた。干し肉で出汁を取り大麦で粥を作った。この国ではこれに干しブドウやヨーグルトを入れて甘くして食べるのが普通らしいが、俺は苦手なのでタマネギを刻んで入れ塩とハーブで味付けた。
「オルト出来たぞ」
「はい、では、早速頂きます」
オルトはそう言うと素早く両手を組みお祈りを済ませて食べ始めた。
「あれ? 甘くない……。でも、スープみたい」
「別にいいだろ。俺、甘いご飯苦手なんだ」
「これはこれで美味しいです。でも、これだと物足りないです」
「干し肉ならいくらでも残ってるぞ食べるか」
「いいです」
「あっそ。なあ、セイン領ってどんな所なんだ」
「うーん、私も来た事ないのでよく知りませんが、この国の中で唯一森人を通じてアビゲイトと交易があって活気があると聞いています。特に領都のシャルディーにはいろいろ珍しいものがあるらしいです」
「ふーん。俺のイメージだとシャルディーは静かな古都なんだけどな」
「それは昔の話ですね。今は最先端のおしゃれな街です」
俺の中でシャルディーの町のイメージが京都から秋葉原へと変わった。そういえば船の中で出会ったティドルさんはシャルディーの事を毎日がお祭りみたいと言っていたっけ……。納得。
食事を終えた俺たちは手拭いで簡単に体を拭き眠る事にした。
「おい! あんまりくつっくな。寝苦しい」
俺たちは互いにマントを羽織り一枚の毛布を掛けて横になった。
「えへへ、寒い日によく兄弟姉妹で一つのベッドへ入って眠ったのを思い出します」
「ん? お前の家は弟までいたのか」
「弟二人は村の引き取り子だったので父の死後、他の家に引き取られましたけど、姉と妹もいました」
「何だか大人数の家だな」
「そうですかイルクーの村では家族同士が一緒の家で暮らしたり、繁忙期に子供をよその家に預けたりは普通でしたよ」
「ふーん。というかマジにくっつくなよ! 背中にあばらが当たって痛いんだよ」
「ひどいです。これは私の胸です」
こうして俺はゴリゴリと当たるオルトの胸の感触を感じながら眠りについた。
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