第40話『妖精の繭』
一瞬虹色に輝いた球は何事も無かったかのようにすぐに白色に戻った。
「なっ……」
――なにっ! レジストしただと! どういう事だ!
そういえば以前に完璧な魔法障壁を持った魔道具の話を聞いたことがある。あれは確か森人の魔石加工師エバンドル・アンリから聞いたはず。名前は確か〝妖精の繭〟……。だとするとこの小さな骨は妖精の骨……それを集めて作った球だ。本当に趣味が悪いな。
――いや、今はそんな事言っている場合ではない。
俺はすぐさま左手の剣をその白い球へ向けて振った。スケルトンドラゴンが慌てた様子で後ろに跳び退った。そういえば先程も剣で斬りかかったのを避けたよな。
――成る程、物理攻撃が弱点か……。だけどまずいぞ。動きも早いしこの巨体に飛び込んでいくのは容易ではない。それにスケルトンは骨をバラバラにしてもすぐに魔力で復活する……。
俺は地面に埋まった足を引っこ抜いた。どうする?
スケルトンドラゴンがこちらを警戒してか、値踏みするように睨みつけながら横へと歩く。
あの繭へ物理攻撃を加えるならこいつの動きを止めるしかない。だとすれば今度は胸元に飛び込んで足へ破壊魔法を放ってやる!
俺は剣を構え身を低くした。
スケルトンドラゴンは近寄ってこない。明らかに何度攻撃を受けても倒れれない俺を警戒している。
かつてノース山に住んでいたドラゴンは人語を解し人と交流を持っていたという伝承を聞いた。きっと高い知能を持っていたのだろう。今のこいつからはそこまでの知性は感じられない。まるで他の生き物を襲うだけの獣のようだ。
このまま見合っていても仕方がない。
丁度スケルトンドラゴンの背後に砦の壁が来た。瞬間、俺は一気に前に出た。全速力で一直線にその胸元へ――。
「へ? あれ?」
――俺、何故か宙に浮いている。今、スケルトンドラゴンの方へ走ってたはずだけど……。
瞼の中の残像で一瞬スケルトンドラゴンがその場でクルリと時計回りに回転した気がする。
「がっふっ!」
俺は地面に叩きつけられた。
――一体何故? いや、何が起こったかはなんとなく分かってる。スケルトンドラゴンがその場で回転し、尻尾で俺を弾き飛ばしたのだ。しかし、そのスピードが異常だった。ま、まさか……。
次の瞬間、目の前にスケルトンドラゴンが居た。骨だけの大きな右手が落ちて来る!
間違いない、こいつは今まで自分の速度を押さえていやがったのだ! ちきしょう! 速すぎる!
「ぐっは!」
周囲の地面と一緒に体が沈みこむ。スケルトンドラゴンはそのまま俺を地面へと抑え込んだ。
――まずい! あまりの重さに右手が動かせない! このままでは破壊魔法を放つことが出来ない!
そして押さえつけた状態でスケルトンドラゴンは俺に向けてその大きな口を開いた。
小さく甲高い音を立てて口の中へ設置された魔法杖に魔力が充填されていく。このまま火炎槍を放つつもりだ!
その時、俺の脳裏に過去のトラウマが鮮明に蘇った。
あれはアビゲイトの魔王城謁見の間。そこで、俺と魔王アルフォレア・デルフォードは戦った。
戦いは長時間に及び次第にその苛烈さは増していった。そしてついに魔王は俺に重力魔法を掛けて動きを封じ自身の最強魔法・
あの時、味わった地獄のような思い――。
「嫌だーーーーーー!!」
俺は思わず叫んでしまった。だが無情にも魔法杖が光を放ち始める。終わった……。
「破壊魔法!」
次の瞬間、スケルトンドラゴンの頭蓋骨が消えた。
わずかに残った破片がぱらぱらと降り注ぐ。
――何が起こった?
「破壊魔法!」
立て続けに軽い音を立てて俺を押さえつけていたスケルトンドラゴンの右の二の腕が消失した。突如支えを失ったスケルトンドラゴンがゆっくりと倒れていく。
「大丈夫ですか、ナオヤさん!」
俺は地面に倒れたまま頭上を見上げた。
スケルトンドラゴンに弾き飛ばされた俺は偶然にもオルトが隠れていた岩陰の前に飛ばされてしまったようだ。
「助かった、ありがとうオルト」
「いえ、無事ならよかったです」
俺は自分の上に乗かったままのスケルトンドラゴンの右腕をどかし、立ち上がった。
大見え切った挙句に結局オルトに助けてもらった。恥ずかしい……。
――さて。こいつ、どうしてくれようか。
先ず俺は右手を突き出し、破壊魔法でスケルトンドラゴンの右足の付け根を消失させた。これでこいつは逃げられない。
地面に散らばった骨がカタカタと音を立て元に戻ろうとしているが、うまくいかないようである。
当然だ。破壊魔法は物体の分解と消失を生じさせる。消失してしまった部分のパーツはもうこの世のどこにも存在しないのだ。元に戻る事はかなわない。
次に俺は左腕の付け根を消失させた。これでもうこいつは動けない。
そして、最後にスケルトンドラゴンの胸元に近づき、勢いをつけて剣を振り下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます