第39話『スケルトンドラゴン』
成る程、既にいないのなら復活させればよいという事か。確かにネクロマンサーならそれが出来る。
今、目の前の崩れた壁から巨大な白い頭蓋骨が覗いている……。
〝スケルトンドラゴン〟
呪いと魔法によって甦らされた骨だけのドラゴンだ。
「オルト!」
「はい!」
「あいつは俺が引きつける。お前はどこか離れて身を隠せ」
「え? でも……」
「俺の事だったら気にするな、こんな程度の奴には負けない」
「……」
「行け!」
「はい!」
俺は荷物を地面に置きマントを脱ぎ捨てた。その隙にオルトが坂を駆け降りる。
砦の崩れた壁の隙間からのっそりとした動きでスケルトンドラゴンが這い出てきた。
――でかい。
二足で立ち上がれば高さは十メートルを超えるだろう。頭蓋骨だけでも一メートルは超えている。骨だけになった翼。体の所々には石のように固くなり黒く変色した皮が残っている。
だがおかしい。こんな骨と皮だけの状態でブレスが吐ける物なのだろうか? ドラゴンブレスはこの世界特有の謎器官である火炎袋で作られると聞いたことがある。見た限りではそんなものは残っていない。だったらあの焼死体は何だ?
俺は剣を抜き身体強化を発動させた。
近づいてきたスケルトンドラゴンがはるか上から睨みつけて来る。
「かかってこい! この骨格標本野郎が! がっは!」
何をされたか分からない! 俺の身体は突如、地面へと叩きつけられた。目の前を白くて大きなものが通り過ぎていく。
――あれは尻尾だ。後ろの方から尻尾ではたかれたのだ。
俺はすぐに剣を拾い立ち上がった。そのままスケルトンドラゴンの左腕に斬りかかる。
――そのぶっとい骨を断ち切ってやる!
しかし、剣が骨に当たる直前スケルトンドラゴンは後方に跳び退った。ズシンと大きく地面が揺れた。
――ちくしょう、思った以上に動きが素早い! これだけの巨体が人と同じくらいの速度で動いている。これでは頼りの破壊魔法も避けられるかもしれない。それにこの巨体だ。二三発当てたくらいでは倒せないかもしれない……。
スケルトンドラゴンが大きく右手を振りかぶり上から叩きつけてきた。俺は地面を蹴って右へ跳ぶ。地震のように地面が揺れた。そして空振りした手が大きく地面を陥没させた。
――なんていう威力だ! 砦が壊された理由はこれか!
「え? まさか……」
次にスケルトンドラゴンがこちらに向けて大きく口を開いた。
「ドラゴンブレスか!」
――いや違う。口の中に何かが見える……。あれは、魔法杖! こいつ口の中に魔法杖を仕込んでやがる!
大きく開いた口から真っ赤な炎が伸びて来る。これは
俺はそのまま右へと駆け出した。背後に炎が迫る。
「あちち」
炎が左腕を掠めた。耐性があるので怪我はしていないが熱さは感じる。それに、服の左袖が燃えてしまった。ちきしょうめ! 片手だけワイルドな格好になっちまった。
しかし、何だあれは! ブレスが使えなければ魔法で代用だと……ふざけてる。
近づけば爪と尻尾の強攻撃。離れれば魔法による火炎槍。
砦を破壊するほどの強力な攻撃力。こちらの攻撃を軽くいなす俊敏な動き。加えてスケルトンはアンデットなので不死だ。砦の兵士がやられてしまったのも頷ける。だが、相手はスケルトンだ。やりようはある。
「聖なる光をもってこの者の穢れを払い清めよ」
俺は右方向へ走りながら呪文の詠唱をした。
「浄化!」
天から光が降り注ぎスケルトンドラゴンを包み……込んでいない! 体が大きすぎて範囲外にはみ出している。僅かに頭蓋骨の一部に黒い染みが出来だけだ。その染みもすぐに元の白へと戻ってしまった。
「この野郎!」
――それはそうか……。
このタタワル砦には騎士団の人間もいたはずだ。光魔法の使い手も一人くらいはいただろう。すでに誰かが試している。さらに言えばこういった砦には対アンデット用に聖水も常備してあるはずである。こいつはそれらでも浄化しきれないほどの大きさなのだ。こいつは厄介だ。だが、スケルトンにはまだ弱点がある。
スケルトンの身体は魔法によって動いている。これだけの威力を出すのなら相当な魔力の出力が必要だ。だからどこかにその魔力を溜めておく必要がある。
――あれか? あれだよな……。胸の内側。あばら骨に守られてバレーボール大の白い球が見えている。近づいてあれに破壊魔法を放てば倒すことが出来る! よし、行くぞ!
俺は剣を掲げて駆けこんだ。スケルトンドラゴンが体を捩り尻尾を振っる。
ものすごい勢いで尻尾が眼前に迫まってくる。俺は迫り来る尻尾に合わせて跳び上がる。ベリーロール。見えないほどの速度で尻尾が眼下を通り過ぎていった。
次にスケルトンドラゴンは体を捩った態勢のまま右手を上げる。そして、その大きな爪の付いた手の平で俺を叩き潰しに来た。
――よし! ここだ!
俺はそのままの勢いでスケルトンドラゴンの胸元に迫った。
同時に頭の上から右手が落ちてきた! 意識を失いそうなほど物凄い衝撃だ。足が地面にずぶずぶと埋まっていく。しかし、それを体の耐性だけで耐え凌ぐ。そうすれば……目の前の触れられそうな距離に白い球がある。
その白い球は小指サイズの小さな骨固めて丸く作ったものだった。オブジェにしても趣味が悪い。だが、これで終わりだ!
俺は素早く右手の剣を左手に持ち替え、右手を前に突き出した。
「破壊魔法!」
白い球が虹色に輝きを放った。
――あれ???
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