第38話『タタワル砦』
「おいおいおいおい、タタワル砦が半壊してるじゃないか!」
「してますねー」
坂道の途中まで上り俺たちはタタワル砦の見える場所へとやって来た。そして、そこから見えるタタワル砦は左半分が崩壊し、くすぶるように煙を上げていた。
――一体何があった?
風に運ばれて匂いが漂ってくる。咽返るほどの血の匂いだ。
「おい、オルト。行って見るぞ」
「はい」
砦が破壊されるほどの攻撃……。ここまでの攻撃力のある魔物はドラゴンくらいしか思い浮かばない。しかしこの国にドラゴンはもういないはずだ。ノース山のドラゴンの話は百年前にはすでに伝説になっていた。だとするとそれに匹敵する災厄は……。もしかして、魔王か? 魔王の使っていた
俺たちは岩陰に隠れながら慎重に砦の方へと近づいていった。
「おや、何か居ますよ」
歩きながらオルトがそう言った。流石山育ち目が良いな。俺にはまだ見ることが出来ない。
「何が見える」
「小さいのが動いています……。いや、あれは人ですね」
「生き残りが居るのか」
「はい、何人か動いています」
これほどの状況だ。もう検問どころではないだろう。これは救助に向かった方が良い。
「行こう」
「はい」
俺たちは駆け足で坂を上り始めた。次第に俺にも見えてきた。確かにあれは人だ。恐らく騎士団の従者だろう。銀色のフルプレートメイルを身にまとっている。そして、ゆっくりとした足取りで……。
「待て! オルト! 様子が変だ」
俺はその場に立ち止まった。オルトは立ち止まることが出来ず俺の背中に突っ込んで来た。
「ふぎゃ! 何ですか急に!」
「おい、あれ見ろ」
「あれって鎧を着こんだ兵士ではないですか」
「よく見ろ」
「ううんー……。あ、大変です! 右手が無い」
「そうだ、右腕が無いのに歩き回ってる」
「それって……」
ここから見える兵士の一人には右の腕が無い。もう一人のフルプレートメイルは歪な形に潰れている。それなのにのそのそと動き回っている。
「あれはゾンビだな」
「え? ゾンビが砦を壊しちゃったんですか」
「いいや、ゾンビにそんな力は無い」
「だったら何が」
「さあ、わからない」
確かにゾンビの力は強い。だがそれは人体のセーフティー機構が壊れているので常に全力で動いているからに過ぎない。とても石積みで作った砦を破壊するほどのものではないのだ。それは階位を二つ上げたレヴェナントでも同じ事である。だとすると砦を壊したのは別の何か……。
――いかん、ゾンビたちに気付かれた。今は考えている場合ではない。
「聖なる光をもってこの者の穢れを払い清めよ。浄化!」
俺は魔力を抑えるために浄化の魔法を使用した。元兵士たちの身体が光に包まれる。二人は糸が切れた様にパタリと地面に崩れ落ちた。しかし……。
崩れた砦の壁からわらわらと兵士の姿が現れた!
――ちいっ、数が多い……。五十人くらいはいそうだ。
「おい、オルト。俺だけじゃ魔力が足りない。破壊魔法を放て」
「え、でも。もしあの中に生きてる人がいたら……」
「アレは
「は、はいー」
「数がいるから魔力は押さえろ。一匹ずつ確実に仕留めろ」
「はい! 破壊魔法!」
オルトが右手を前に突き出し魔法を発動した。ボッッと火が付く時のような音がして、手を向けた先の直線状、重なり合った三体の兵士に三十センチばかりの穴が開いた。瞬間兵士たちは地面に倒れ動かなくなった。
通常であればゾンビたちはこの程度のダメージでは倒せない。しかし、この破壊魔法は光の属性を帯びているので体のどこに当たっても呪い自体を浄化することが出来るのだ。
「よし、良いぞ。次々倒せ! 聖なる光をもってこの者の穢れを払い清めよ。浄化!」
「はひー! 破壊魔法! 破壊魔法! 破壊……」
俺たちは迫りくる五十体ほどのゾンビの群れを倒し続けた。
「意外にあっさり方が付いたな」
「はひー」
「どうした魔力が尽きたのか」
「いえ、精神的にきつくて……うぷっ」
ゾンビは一応、魔物に分類されているがこれの元は人間の死体なのだ。まあ、仕方ない。俺の感覚は既に麻痺しているが……。
目の前には死屍累々といった光景が広がっている。今、ゾンビとして倒した者たちだけでなく元からそこにあった遺体もあるようだ。近づいて覗き込んでみる。
成る程、火で焼かれた者や頭を潰された者はゾンビになる事はない。そういった死体がここに残っていたようだ。それにしても焼死したらしき遺体が結構ある。一体なぜだ? 誰かが魔法を使ったのだろうか? それに、何かに潰されたような遺体もある……。
「これは……」
何者の仕業だろう? これを見る限りは嫌な想像しか出来ない。どこかに生き残っている者はいないのか?
俺は辺りを見回した。ん? 今……。
「あのー、ナオヤさん。なんだかすごく嫌ーな音が聞こえました」
「ああ、俺も聞こえた」
「それに地面も少し揺れてる気がします」
「ああ、揺れてるな」
音は崩れた砦の裏手から聞こえて来る。
「何か来ますよ」
「ああ」
そして、そいつは壁の隙間からのっそりと顔を出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます