第12話『破壊魔法』
トンネルの出口が近づいてきた。外の眩い光が差し込んでくる。俺はあふれる光に目を細めた。
入り口側の幅の広い道とは違い、こちら側から続く道は幅三メートルほどの山道になっている。険しい崖に沿って曲がりくねった道が続いている。
この道はブラセルとオストルを繋ぐ最短ルートとして造られたそうだ。しかし、かなり無理をして開設したために本来の目的である交易ルートしての実用性は低くなってしまい利用者は少ないと以前に聞いた。確かに馬車などで移動するには危険な道だ。
俺は周囲を見回した。魔物がいると聞いたが、この辺りの山肌は岩ばかりで魔物が潜んでいる様子は無い。
深い谷底の下に小さな川が流れているのが見える。周囲の高い山々が連なっているのが見渡せる。
「何だか懐かしいです。私の住んでいた北の領地もこんな感じでした」
「そうなのか」
「はい、草木もあまり生えておらず、雪もすごかったです」
そういえばこのイスタニア王国の北の領地は山岳地帯だった。瘦せた土地が多く環境は厳しいと北の出身であるコルトは言っていた。
「家に帰りたいのか」
「いえ、私の母は物心つく頃にはいませんでしたし、父ももう他界しています。姉妹たちもそれぞれ別の所に奉公へ出ていますから帰る家ももうないです」
「そうか……」
中々ヘビーな身の上だった。オルトの多少おちゃらけた態度もその寂しさを紛らわすためなのかもしれない。俺たちは曲がりくねった道を峠へと向かい進んだ。
見晴らしの良い場所に出た。小さな石碑が建っている。どうやらここが峠の頂点のようだ。
「この場所ならいいかな」
「はい? 何の事ですか?」
「破壊魔法の練習だ」
「ああ」
周囲には人気は無い。ここなら思い切りぶっ放しても誰の迷惑にもならないだろう。少し離れたところに大きな岩がある。うん、あの岩が手ごろそうだ。
「よし、先ずは右手を突き出してあの岩に向けてみろ」
「はい、こうですか」
「そして右手の甲に魔力を少し集める」
「はい、こうですか」
「そして〝破壊魔法!〟と唱える」
「こうですね、〝破壊魔法!〟」
オルトは突き出した右手をプルプルと震わせた。その瞬間、オルトの右手の甲に赤い魔法陣が浮かび上がった。
「あっ! 馬鹿!」
「ふにゃ~」
オルトは地面にパタリと倒れた。俺は慌てて駆け寄った。
「おい、大丈夫か」
「あれ? 何が起こったのですか」
「急激に魔力を大量に失ったから立ち眩みをおこしたんだ。少しって言ったろ、魔力を込めすぎだ」
「すみません、つい力が入って……。あ、岩が……」
「ああ、見事に消し飛んだぞ」
「へ?」
岩は綺麗に無くなった。ついでに後ろの山肌も抉れている。抉れた山肌が崩れていく。
「あわわわわわわわ、大変なことになってますー!」
「まあ、こういう事だ」
俺はしたり顔で頷いた。
「この破壊魔法は魔力を込めた分だけ威力が増す、純粋に対象を破壊する魔法なんだ。欠点は魔力消費が多い事。威力の微調整は出来ない事だな。音も光も無く対象を分解、消失させる。魔法抵抗の高いもの以外は大抵何でも破壊できる。加えて光魔法の特性も持っているからアンデッドにも有効だ。まあ、魔力消費が多いから使いまくる訳にはいかないが使えば大抵の相手は倒すことが出来る。どうだ、すごいだろ」
オルトは涙目になりながら何やらぶつぶつ言っている。右手を抑えながら「我は死神なり、世界の破壊者なり」とか言っている。やはり中二病を患ってしまったようだ。
俺たちはしばらくの休憩の後オストルへ向けて再び歩き出した。
周囲は岩山で多少草は生えているが樹木はほとんど生えていない。確か峠を越えたあたりに魔物が出るようになったと聞いたがそれらしき気配は感じない。少し先に石造りの建物が見えてきた。左程大きくはない円形の石積みの建物だ。こんな人気のない場所にどうしてこんなものが建っているのだろう?
「あの建物は何だ」
「あー、あれは神殿ですね」
「神殿? こんなところに?」
「墓所ですよ。冥界の神ネフューム様の神殿です」
「ふーん」
この世界では色々な神様が信仰を集めている。それぞれの神様によってそれを祭る神殿の形状が違うと聞いたことがある。日本で言えばここはお寺のような物なのだろう。
あれ、今、建物の裏手の方で何かが動いた気がした……。
そういえば宿で話を聞いた時、何の魔物が出るのか聞いていなかった。墓所にいるという事はアレか。
「おい、オルト、剣を構えろ」
「へ? はい」
俺は剣を抜いた。慎重に建物へ近づく。そしてそっと裏手を覗き込んだ。
黒いっぽい肌をした身長六十センチ程度の生き物が五匹いる。想像していた魔物とは違う。あれはゴブリンだ!
どうしてゴブリンがこんな所に? あまり人のいるような場所に出て来る魔物ではないのだが。墓所に骨でもあさりに来たのだろうか? だが、少し様子がおかしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます