第10話『出発の準備』
日の出と共に起きた俺たちは朝食を取りに食堂へ向かった。
朝食は大きなパンとソーセージとサラダとカブのスープだった。ヤギ乳のミルクと一緒に頂く。
「ナオヤ様、今日はどうする予定ですか」
オルトが聞いてきた。俺はスプーンを止めてそれに答えた。
「そうだな、先ずは道具屋に行って素材を売る。そのまま旅支度を整えてオストルへ向かうつもりだ」
「え? オストルの道は通行止めなのではないですか」
「いや、むしろその方が都合がいい。魔物がいるって事は兵士がそこに居ないという事だ。待ち伏せされる心配がない。それに、ゼルタニスの野郎がいつ俺たちが青の洞窟を抜け出たことに気付くか分からないからな、遠回りしてる余裕は無い」
「そうですか……」
「心配するな。俺は魔物にやられる心配はないし、お前だっていざとなればもう破壊魔法が使えるんだ」
「でも……」
「それに周囲に人が居なければ、破壊魔法の練習も出来る」
「はい……」
不安げな表情を浮かべつつオルトは頷いた。だが、まだこいつは気が付いていない、この破壊魔法の凶悪さに……。これさえ極めてしまえば最早魔物は敵ではないのだ。
朝食を終えた俺たちはおかみさんに挨拶をして宿を発った。昨日は気が付かなかったが道具屋は村の入り口にあるらしい。俺たちはそこへ向かった。
建っていたのは申し訳程度の看板を掲げた木造平屋の普通の民家だった。引き戸をひいて店内を覗いてみる。日本の田舎でよく見かける商店によく似ている。鍬や鎌の農具と一緒に帽子や服も売っている。
「いらっしゃい」
店の奥から眼鏡をかけたくたびれた様子のおじさんが出てきた。あれ? この人は昨日道を聞いた第一村人だ。
「あの、ここって魔物の素材の買取できますか」
「ああ、組合価格で良いならやってるよ」
「だったらこれ買取できますか」
「ううむ、それはジャイアントスパイダーの牙だね」
「八つあります。買い取ってください」
「だったら奥で見せてくれ」
店主は店の奥に行くとカウンターの中へと入り大きな虫眼鏡を取り出した。俺はジャイアントスパイダーの牙をポケットから取り出しカウンターへ並べた。
ジャイアントスパイダーの牙には麻痺毒があり、よく魔物退治の
店主はそろばんに似た道具を弾いた。
「銀貨九枚と銅貨六枚……手数料を引いて、銀貨九枚と銅貨一枚だね」
「では、それで。これ以外にも魔核の買取も出来ますか」
「物によるが……。あるのかい魔核が」
「ええ」
そう言って俺はポケットから親指の先サイズで半透明の青い石を出して見せた。その石は魔核といって変異した魔物の心臓からとれる石だ。これはアラクネの心臓から取り出した。
魔核は加工を施し魔石に変えて使用される。魔道具という魔法を使う道具には欠かせない代物だ。
「ほう、色が濃いな……。二階位の代物だね。ウチではちょっと買取できないな」
「そうですか、では牙の方だけお願いします。それと、ここで旅装も整えたいのですが」
「ああ、ウチには色々あるよ見てってくれ」
俺はオルトを連れて店内を見回った。
「マントは茶色でいいんじゃないか」
「いえ、私は黒が好きなので」
俺たちはマントに背負い袋、食器セットに調理セット、替えの下着にその他諸々をカウンターに置いた。ちなみにこの国では女性の下着は黒が定番だそうだ。しかし、あまり色気は無い。スポーツブラにカボチャパンツみたいだ。
「全部で小金貨一枚と銀貨三枚に銅貨二枚……。最近じゃあんまり売れなかった商品だから、大負けに負けて小金貨一枚と銀貨二枚だな」
俺はポケットから銀貨を取り出し、先程の買取金額に銀貨三枚を足して銅貨一枚を受け取った。オルトは俺の後ろでまだ指を折って計算をしている。
「あ、あと、そこの干し肉も貰えますか」
「ああ、これかい」
「ええ、いくらですか」
「サービスしとくよ」
「ありがとうございます」
俺たちはその場でマントを羽織り荷物を振り分けた。そして、お店を後にした。
昨日はお腹が空いてフラフラだったので気が付かなかったがこの村には空き家が沢山ある。前に来た時は銀細工のお店が軒を連ねていた通りもほとんど活気が無く空き家のようだ。僅かに一軒、家具屋だけがお店を開いていた。店の裏口から鋸を引く音が聞こえて来た。
それから俺たちは村の中心に行き井戸で水を汲み水筒を満たした。
これで準備は整った。
「よし、出発だ」
「あのー、オストルへの道は知っているのですか」
「ああ、鉱山入り口のトンネルの先だ」
俺たちは東にそびえる山の方へと向けて歩き出した。
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