第8話『鉱山の村』
村に入った俺たちは食事の出来る店を探した。村で出会った人に聞き、たどり着いたお店は宿もやっていたのでそのまま宿泊をお願いした。朝夕二食付きで銀貨四枚。物価が安定したせいだろうか百年前より安く感じる。
「もう駄目です。動けません。お腹すきました~~」
オルトが食堂のテーブルに突っ伏している。その姿からはとても聖女と呼ばれていたようには見えない。俺の方も返答する余裕はない。腹減った。
「おやおや、どっから来たねあんたたち」
お店のおかみさんがそう声をかけてきた。
「王都からです」
顔を上げてオルトが答えた。
「違う、ブラセラの町だ」
「そうでした……」
「まあ、ブラセラかい。昔はよく峠を越えて行き来があったんだけどね。この先の鉱山が閉鎖されてからはあまり人が通らなくなっちまったんだよ。ひどい道だったろ」
「ええ、確かここは銀鉱山でしたよね。閉鎖されたんですか」
俺はおかみさんに聞いてみた。
「よく知ってるね、もう銀が出なくなっちまって閉山しちまったんだよ。もう十年になるかね」
「そうですか」
「あのー、その鉱山と言うのはもしかしてナオヤ様が……」
「オルト、黙ってろ」
「はい……」
前にこの村を通りかかったときにその鉱山で魔物の退治を依頼された。鉱山の奥にゴブリンが住み着き多くの犠牲者が出たという話だった。王女の取り巻きたちは反対したが正義感の強い王女はその依頼を受けてしまったのだ。俺は丁度破壊魔法を手に入れたばかりだったのでノリノリで乗り込んだ。その結果、鉱山は半壊した――。
その後、王女と取り巻きたちにめちゃくちゃ怒られたのだった。
良かった、その後もちゃんと再開できたみたいだ。
「そんであんたたちはこんな辺鄙な村に何しに来たんだい」
「いえ、旅の途中です」
「なにも無い村だよここは」
「あれ? ここからオストルの街に抜けられましたよね」
「いつの話をしてんだい。あの道は何年も前から通行止めだよ」
「え?」
「峠を越えたあたりで魔物が出るようになっちまって、何度駆除してもまたすぐ出て来ちまう。だから誰も通らなくなっちまって通行止めにしてんだよ。まあ、それでも腕に覚えのあるハンターは行っちまうけど、あんたはこんな小っちゃい神官さん連れてんだ、悪い事言わないから迂回しな」
「はあ」
「ああ、ご飯できたようだね。よし、たっぷりとお食べ」
料理が運ばれてきた。
このイスタニア王国の料理はドイツ料理に似ている気がする。主食はパンでソーセージとジャガイモをよく食べる。俺は飲まないがビールもよく飲むみたいだ。
茹でた山盛りのジャガイモをソーセージと一緒に油で炒めた料理とミルクのシチューと丸くて大きいフランスパンが運ばれてきた。
オルトはよだれを垂らして目を輝かせていたが、料理が運ばれてくると両手を胸に当て祈りを捧げ始めた。
「天上におわす神々よ、本日も美味し糧をお恵みくださり心より感謝します。願わくばこの糧が明日を生き抜く血肉になりますように……」
俺は頂きますだけして食べ始めた。
ジャガイモは塩と唐辛子の味付けだがソーセージに爽やかな香りのハーブが練り込んである。ケチャップのような酸味のある赤いソースをつけて頂く。ミルクのシチューはタマネギと鶏肉のようだ。パセリに似たハーブが少し添えてある。どちらも田舎の家庭料理ぽい味で食が進む。
オルトもよほどお腹が空いていたのかがつがつと食べている。俺は食べながらオルトに質問した。
「なあ、今この国はどうなってるんだ」
「私もずっと神殿に囲われていたので詳しくは知りませんけど、聞いた話ですと今代の国王はレイデイン・フォーリア・イスタニアさまでまだ成人してないそうです。なので実際の政務は宰相のゼルタニス様や臣下の方々が仕切っているそうです」
「傀儡政権というやつか」
「はい、そのためかどうかは知りませんけど各地で魔物の被害が頻発しているそうです」
「それは魔族との戦争の所為なのか」
「どうでしょう? 私もイスタニアンに来るまでは戦争の事を知りませんでしたし、召喚魔法の準備も戦争に備えてと聞かされましたけど……」
「おい!」
「ふぁい!」
「召喚魔法の準備は戦争の始まる前だったのか?」
「少なくとも私はまだ戦争が始まったとは聞いていませんでした」
「……」
明らかにこれはおかしい……。流石にそんな話では俺を説得できないと分かりそうなものだ。
だとすると、最初から俺を説得するつもりは無かったという事だろうか……。俺は青の洞窟に閉じ込められる目的で召喚されたのだ。
「ゼルタニスの野郎、俺を殺すつもりで召喚しやがったな……」
怒りが沸々と湧いて来る。スプーンを持つ手がわなわなと震えた。
理由はまだ分からない。しかし、行く先は決まった。
「これから俺は魔族の国アビゲイトへ向かうぞ」
「へ?……えーー!」
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