第7話『呪われた魔法』
「へへへ、どうですか、ナオヤ様」
聖女が微笑みながらささやかな胸を張った。さっきまで泣きそうになってたくせに。
「うん、よく頑張ったぞ。それで、魔法は覚えられたのか」
「え? あ、はい、多分……。何かの知識は頭の中に入ってきました」
「そうか……」
俺は努めて真面目な顔を作ってオルトに聞かせた。
「……その魔法は〝破壊魔法〟と言う」
「破壊魔法ですか」
「ああ、一応、光属性に属する魔法なのだが、ほぼ無属性に近い魔法だ。そして、その威力がヤバい」
「ヤバい?」
「ああ、まあ、込める魔力で威力はある程度調整できるが、ほぼ無詠唱で発動して対象を破壊することが出来る。そして、魔法障壁以外は大抵何でも破壊できる」
無言でオルトがゴクリと喉を鳴らした。
そう、この魔法はどこかのヒーローが使う超破壊光線並みにヤバい代物なのだ。ほとんど何でも壊してしまえるので攻撃魔法は最終盤までほぼこれ一つだけで事足りる。
「それで、この魔法は生物に向けて使ってはいけない」
「え? 使うとどうなるのですか」
「大惨事が起きる」
「大惨事……」
この魔法は純粋に対象を破壊する。具体的に言えば分解と消失を引き起こす。恐らく原子分解とか陽子崩壊とかの類だろう推測している。そんな、魔法を生物に放てば当然……スプラッター。
「とにかく何でも破壊してしまう魔法だから使いどころは考えろ」
「はい……」
オルトはわなわなと震えている。呆然としながら「な、何というとんでもない魔法を私は……」とかと呟いている。中二病かな?
まあ、成り行き上仕方ない事とはいえこれでオルトも順調に人外に近づいてしまった。
「ちなみに勇者伝にはこの魔法の事は書いてなかったのか」
「いえ、多分ですけど女神に封印された禁術とか古の呪われた魔法とかと書いてありました」
「あー」
そういえば、この魔法を使うたびに同じパーティーメンバーのシルディア王女にそんなふうに言われて怒られたっけな……。懐かしい思い出だ。
ちなみに俺一人でこの試練に挑んだ理由は、王女をこんな危険な場所に行かせられないと取り巻きたちが騒いだせいである。だったら俺が一人で行くとこの洞窟へ飛び込んだのである。今となっては良い思い出だ。まあ、俺にとっては一年ほど前の記憶だが。
「さて、もうここには用もないし出るとするか」
「はい」
そう言って俺たちは祠に触れた。眩い光が二人を包み込む。
気が付くと俺たちは小高い丘の上に立っていた。眼下には神殿の建つブラセラの町が見渡せる。草原を渡る風が少し肌寒くて心地よい。
「あの、ここは……」
「あの祠の丁度真上だ」
周囲には崩れて廃墟と化した小さな神殿の跡が残っている。太陽の位置から察するに丁度お昼を過ぎた時刻だろう。
「町は警戒されてるかもしれないから隣村まで行こう」
「はい」
俺たちは町の見えるのとは反対側の方角へ向けて歩き出した。
太陽が傾き夕暮れの時刻になってようやく隣村へと到着した。麓へと続く山道の先に五十軒ほどの家々の集まった集落が見える。この世界には魔物と呼ばれる危険な生物が存在している。なのでこうやって一か所に集まり集落を作って生活をしているのだ。
「ナオヤ様もう駄目です。お腹すきました」
歩きながらオルトが情けない声を上げた。
「ああ、俺もだ。村に着いたら先に何か食べよう」
幸い俺のポケットには青の洞窟で拾った小銭が入っている。小金貨もあったので食事くらいは出来るだろう。
「そういえば今のこの国の貨幣はどうなっている」
「銅貨十枚で銀貨一枚。銀貨十枚で小金貨一枚。小金貨十枚で大金貨一枚です」
「そうか」
その辺は随分と変わったようだ。前の時にはこのイスタニア王国の貨幣は随分といい加減だったのだ。街ごとに交換比率が変わったり、何種類も金貨が存在した。国が貨幣経済の事をよく理解していなかったのだ。そのためお金が大変使いづらかった。
「魔物の素材の買い取りはどうなっている」
「ある程度の街なら買取屋がありますけど、小さな町なら道具屋で買い取ってもらえると思います」
「買取屋?」
「はい、狩猟組合の買取屋です」
「ふーん」
狩猟組合も以前は無かった。あの当時は町や村の自警団が魔物を狩猟するのが当たり前で、素材の買取は道具屋や薬師に直接売りに行っていたのだ。今、俺のポケットには青の洞窟で倒したジャイアントスパイダーとアラクネの素材が入っている。これならそこの村でも買い取ってもらえるだろう。それでしばらくは食いつなげられそうだ。
「よし、とりあえずあの村に入ってご飯を食べるとしよう」
「はい」
俺たちは夕暮れの迫る山道を急いで村へと向かって歩いた。
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