第5話『封印の守護者』
あれから三匹のジャイアントスパイダーと大きなフナムシのラージスレーターを一匹倒した。
あきらかに前に来た時よりも魔物の数は減っている。これなら最深部までは何とかなりそうだ。
ポケットからスマホを取り出し確認する。歩き始めておよそ六時間。何とか最深部が見えるところまで到達したようだ。
「少し休憩しようか」
「はい」
オルトにあまり疲れた様子は見られない。魔力もまだ切れてないようだ。
「疲れてないのか」
「はい、私は元々北の辺境地の農家の生まれなので、歩くのには慣れてます」
「ふーん、どうして聖女になったんだ」
「私は十歳で成人してすぐに村の貴族様の屋敷の奉公に行きました。ですが、一年ほど前に急に国中に御触れが出て魔力を計測され王都に連れてこられました。聖女と呼ばれるようになったのはそれからです」
「ふーん」
あれ、今の話、何かがおかしい……。
そういえば魔族の侵攻が始まったのも一年前だと言っていたな。そうだとすると御触れを出すタイミングが早すぎないか? 被害があってから召喚の準備を始めたのではなく、最初から俺を召還するつもりで御触れを出したのだ。くそっ! ゼルタニスの野郎め、最初から俺を騙すつもりじゃないか! ふざけやがって! 生きて帰ったら絶対ぶっ殺す!
「後、残り一戦だ。俺が呼びに来るまでこの辺りで隠れてろ。いいな」
「私も付いていかなくていいのですか」
「ついてこられても足手まといなだけだ」
「はい……」
言い方は悪いが仕方ない。この先に居るのは只の一体。封印の守護者だ。そいつの名前はアイトワラス。尻尾に炎を纏う巨大な蛇の幻獣だ。魔法も使えないこの場所では普通の人間には絶対に勝てない相手なのだ。
「多分、戦闘は一時間くらい掛かる。その間、ここで身を潜めて待っていろ」
「はい、わかりました。一時間は半鐘ですね」
「そうだ。もし、それでも俺が帰ってこなかった場合や何かあった場合はとにかく全力で走ってあそこの岬の突端にある祠に触れるんだ。そうすればとりあえず外には出れる」
「はい、全力で走って祠に触れる……わかりました」
「それじゃ、行ってくる」
「はい。あ、あの、お気をつけて」
「うん」
オルトはこの世界の人間にしては素直でいい子のようだ。もし無事ここを出ることが出来たなら、もう少し優しく接することにしよう。
俺の戦い方は前回と同じだ。とにかく耐久力に任せて相手に取り付きひたすら剣で叩く。十分に弱ったところで止めを刺す。
俺はオルトを一人その場に残し、この青の洞窟の最奥地点へと向かった。最奥地点は地底湖へ張り出す形の岬になっている。その突端には小さな祠が設置されている。そして、そこへ近づくと……。
天井に大きな赤い光を放つ魔法陣が展開される。その魔法陣から光の粒が降ってくる。全長約七メートル。尻尾の先を灼熱色に輝かせた黒くずんぐりとした体の巨大な蛇が姿を現す。
〝アイトワラス〟魔法によって召喚された封印の守護者だ。
これが二度目なので別に驚きはない。鎌首をもたげこちらに近づいてきた。俺はジャンパーを脱ぎ捨てた。
「よお、また会ったな。何度でもぶっ殺す!」
俺は剣を振り上げてみせた。アイトワラスが大きな体を起こし俺の前に立ち塞がる。まるで『力を示せ』と言っているみたいだ。
地底湖に滴る水滴がぴちゃぴちゃと音を立てている。アイトワラスの吐きつける息が熱い。さて、戦いの時間だ。
緊張感が高まった。次の瞬間。
アイトワラスが俺の見えない位置から尻尾を振って横殴りで叩きつけてきた。俺はそれに合わせて剣を振り下ろす。剣が激しい金属音を上げて弾かれた。軌道のずれた尾先が俺の脇腹を掠めていった。
すぐに次の攻撃が来る。頭を横にしてアイトワラスがその大きな口を開き噛みついてきた! 俺は弾かれた剣を強引にもう一度叩きつける。アイトワラスは鼻先を斬られながらもそのまま突っ込んでくる。今度は体ごと弾かれた! 俺は剣を持ったままゴロゴロと地面を転がった。痛い! ちきしょう!
地面を転がったままの俺に今度は上から焼け付いた尻尾が降ってきた。潰されながらも剣を振る。尾の付け根を斬りつける。固いウロコのせいで傷はあまり深くない。横に転がり隙を見て起き上がった。
普通の人間であれば今の攻撃だけで死んでいただろう。だが、あいにく俺は無傷だ。感じるのは痛みだけなので心が折れない限り戦い続けられる。
再度、噛みついて来た。俺は剣を両手で構え突き出した。アイトワラスは上顎を突かれながらも俺の左腕に噛みついた。俺は剣を引き抜き叩きつける。一回、二回……。そのままアイトワラスが体をねじる。ねじりながら体に巻き付いてきた。俺は剣でその体をバシバシと斬りつけた。
すぐにその攻撃が無駄だと分かったのか、アイトワラスは巻き付きをほどき距離を取った。
様子がおかしい。前回は執拗に巻き付き攻撃をしてきたが今回は違うようだ。もしかして、学習している? 召喚獣のくせに! 百年前の話だぞ! いや、違う……。
こいつは召喚獣だ。この百年の間にここへ到達した人間はきっとごく僅かなのだ。こいつにとって俺との闘いはごく最近のものなのかもしれない。まずいな……。
横殴りの尻尾が来た! 俺は剣を縦てそれを防ぐ。だが、全然勢いを殺しきれず体ごと弾き飛ばされた! 焼けた尻尾の先がものすごく熱い。
次は尻尾が突いてきた! 一メートルほどの距離から尻尾の先が槍のように迫ってくる。何も出来ずに左の肩をどつかれた。ちきしょう! 痛いし熱い!
嫌がっているのがばれたのか今度は連続して突いてきた! 俺は剣を横に振って叩きつけた。
ちきしょう! じり貧だ! 心が折れそうだ。
その時、俺の視界にこちらへ駆け寄ってくる少女の姿が飛び込んできた。
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