第2話『青の洞窟』
「いてて……ここはどこだ?」
俺は辺りを見回した。神秘的に蒼く輝く地底湖。見たことがある。ここは女神アレイヤ様の第二の試練で使用された魔法無効化エリアの中にある青の洞窟!
先程、俺の足元に広がった魔法陣。あれは恐らく転移の魔法陣だったのだ。それによってここに飛ばされた。俺は嵌められたのだ! あの宰相のゼルタニスの野郎は最初からいう事を聞かなければこうするつもりだったのだ。俺の中に沸々と怒りの感情が込み上げてきた。
この世界ルフトリアにおいて勇者とは神の加護によって授けられるものである。地球から召喚された時点ではあくまで勇者候補なのである。
では、なぜわざわざ地球から勇者候補を召還するのかといえば、地球から召喚された人間にはあらゆる攻撃が通用しない所為なのである。魔法攻撃も物理攻撃も通用しないし毒も効かない。全てにおいて強い耐性を持っているのだ。そして、その中で最も魔力の強い人間が勇者候補として召喚される仕組みなのだ。
そんな攻撃の効かない地球人を殺す方法で一番簡単なのは――〝餓死〟なのである。俺はここに閉じ込められたのだ。
せめて、かつて習得した魔法が使えればどうにかなるのに、ここは魔法無効化エリアだ。身体強化などの内魔法以外はほとんど使うことが出来ない。
「このド畜生がーーーー!!」
お俺は大きな声で吠えた。洞窟内で声が木霊した。
――絶対に復讐してやる!
「ひぃ!」
――え? 振り向くと俺の背後には聖女オルトがいた。
「どうして、お前まで飛ばされてるんだよ!」
「さ……」
思わず怒鳴ってしまったので黙り込んでしまった。
「おい、何か答えろ」
「さ、最初から勇者の召還に失敗した場合は処刑されると言われてました……」
「なっ……!」
二人まとめてお払い箱か! さっき、泣いていたのはこの所為か! もしかすると勇者を召還した事実さえ隠蔽しようとしてるのかもしれない。一体どうなってやがるこの国は!
どうやら俺の居なくなった百年でこの国は腐ってしまったようだ。昔から階級意識の強い国だったが、それでもここまでではなかったはずだ。
国王は一応国を憂いていたし、王女は国民を愛していた。そして、なによりあの当時は生き抜くための必死さが皆にあった。だから俺も最終的には進んで手を貸したのだ。それなのに……。
俺も泣きたくなってきた。
恐らく出口は閉じられているだろう。ここの出入り口は神殿の中にあるのだ。扉を閉じれば簡単に出入りを制限できる。それに外で待ち伏せされている可能性もある。
しかし、ゼルタニスは俺がここへ来たことがあるとは知らないはずだ。なぜなら女神様の試練の内容は口外しないと皆で決めていた。
だとすると、この洞窟から出るためには最奥の祠まで行って、そこにある転移門を使えば外に出れる可能性がある。
よし、ここで待っていても仕方ない、動けなくなる前にとっとと先に進むとしよう。
「なあ、お前は身体強化は使えるのか」
「い、いえ、私、魔法は使えません」
「そっか……」
別に驚く事でもない。この国において魔法を使う技術は貴族によって秘匿されている。一般市民はおいそれと魔法を覚えることは出来ないのだ。この聖女は本当にただの魔力供給源として使われていたのだろう。
だが、まずい。この洞窟には危険な魔物がいるのだ。攻撃を無効化できる俺はまだ良いが、武器も無し身体強化も無しのオルトはここを抜ける事は無理かもしれない。
「まいったな……」
当時、持っていた聖剣は地球に帰還する際に王女にくれてやったし、魔剣は記念に魔王にくれてやった。今の俺は武器らしい物は何一つ持ってはいない。恰好も召喚された時、普段着だったのでジーンズに緑のジャンパー姿だ。
仕方ないので俺は周囲に落ちている石を拾い集めポケットへ入れた。
「石を集めてどうするのですか」
おろおろとした様子でオルトが聞いて来る。
「身体強化を発動して投げつける」
「誰にですか」
ああ、そうかこの娘はここがどこか知らないのだ。
「ここは魔獣の跋扈する青の洞窟だ。だが、ここを出るのには最奥の転移門を使うしかない」
「……」
やっと状況を理解できたのか、オルトは今にも泣きだしそうな表情をしてうなだれた。
「おい、泣いている暇はないぞ。こんなところで死ぬのは嫌だろ。だったら前を向け、今は生き残るための行動をおこせ」
「はい……」
無茶を言っているのは重々承知している。だが、いくら攻撃を受けても死なない俺でもうまく脱出出来るかは分からない。なにせ攻撃を受けてもダメージは無いが痛みは感じるのだ。斬られれば普通に痛いし焼かれれば当然熱い。それでも高い耐性のお陰で怪我をしない。何度、戦場で痛みにのたうち回った事か……。
そんな状態で俺はこの少女を守りながら最奥の祠にたどり着かないといけない。状況は絶望的。それでも生き残るためには前に進まなければいけないのだ。
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