第1429話 【エピローグオブ南雲のバックトゥザフューチャー・その5】さようなら、お父さん ~「こんな未来にしないようにね、私、頑張ろう」と誓った南雲さん(お父さん)~

 12年後の未来からやって来た南雲瑠奈ちゃんと南雲京一郎くん。

 双子のお姉ちゃんが言った。



「じゃあ、お父さん。あたしたちそろそろ帰るね」

「えっ!? ええっ!? 瑠奈!? パパ、あと3日くらい平気だよ!? まだ来て2時間くらいじゃないか!!」



 「うん。もういっかなって」と続けられて南雲さんは黙った。

 そして世界平和への思いが強くなった。


 残念ながらその決意も六駆くんの記憶操作によって消されるという、何の糧にもならなかった時間が終わろうとしていた。


「お父さん。ぼくはもっと聞きたい事、話したい事、あったんですけど」

「そうだよな!? そうだろう! 京一郎!! 言ってごらん!! 早く!! なんかお姉ちゃん冷たいから!! もう会えないんだし!!」


「あの。なんでぼくたちって5回に3回くらいの頻度でナグモって呼ばれるんですか?」

「えっ? ……逆神くん。ノアくん。名残惜しいが、準備を始めてくれ」


 京一郎くんは思った。

 「お父さん、聞いてた以上にすごく苦労している人だったな」と。

 多分あっちの未来でも南雲家苦労人の血脈は受け継がれていきそうな気配を12歳の少年から感じるのは嘆くべきなのだろうか。


「2人とも、なんか持って帰りたいものとかあったら拾っていけばいいよ! なくなったものの記憶も消しとくからさ!!」

「何持って帰ってもいいから、逆神くんやノアくん。あと小坂くんは……ダメだった。この子たちの未来の先生なんだった……。とにかく、逆神流の思想は持って帰らないでね」


 瑠奈ちゃんの瞳が輝いた。

 南雲さんと出会った瞬間最大キラキラを超える輝きを見せた。


「いいの!? じゃあね、あの! エクスカリバーが欲しい!!」

「私の装備にあったかな? そんなの」


「ママが言ってたよ!! パパのエクスカリバーはすごかったって!!」


 刹那、まずどら猫が察する。

 続けて察してしまったのが小鳩お姉さんだったのは彼女の成長と評して良いのか、それともピュアピュアお姉さんの消失というこの世界から1つなくなってしまったオンリーワンを悔やむべきなのか。


「えっ!? 南雲さん! 京華さんにそんな呼び方させてるんですか!? うわぁ!! ……うわぁ!!」

「おいぃぃ!! 違うよ、逆神くん!! しかも君ぃ!! うわぁ! の後にいつもなら大概なんか言うのに!! うわぁで絶句するなよぉ!! 私が本格的にヤバいみたいじゃないか!!」


「ねー! パパ! パパのエクスカリバー!!」

「瑠奈ちゃん! 瑠奈!! ヤメなさい!! エクスカリバーの話はヤメなさい!! パパ、こっちの時代でも死んじゃう!!」



「うにゃー。久坂さんが言っとったぞなー。修一の修一はせいぜいどうのつるぎだってにゃー。昔はよう修業のあとで一緒に風呂入ったもんじゃのぉって、にゃはー!!」

「嫌ですわ。南雲さん。久しぶりにこんなことわたくしに言わせるんですのね。……このお排泄物!!」


 南雲さんの名誉のために訂正しておくと、夜のチャオった南雲さんはエクスカリバー使いです。お風呂に入っている時は封印しているのです。



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『模造刀エクスカリバー』!! はい、瑠奈ちゃん! これが南雲さんのエクスカリバーだよ! 持って帰っていいよ!!」


 最終的に六駆くんがなんか聖剣っぽいものを雑な構築スキルで創り出して瑠奈ちゃんにプレゼントした。

 在りし日の京華さんがセイバーのコスプレで致し始めた頃に止めれば良かったと南雲さんは少し悔いたが、「でもなぁ。あのコスプレがないとこの子たち産まれてないかもなぁ」と思い直して、バックトゥザフューチャー理論による未来の双子の消滅を防いだ。


「わー!! これがエクスカリバー!! 帰ったらママに見せてあげよっと!! ありがとう、逆神さん!!」

「本当にありがとう、逆神くん」

「………………………………」


 京一郎くんは無言で1つ賢くなった。

 12歳にしてはあまりにも利発。

 「ぼくも将来はお前のどこらへんがエクスカリバーなんだよ」とか言われるんだろうなと覚悟キメたという。


 安心して欲しい。

 12歳ならまだ全然アレがナニしてイケる。


「よし!! もうね、2人もアレだろうから!! そろそろね! お開きにしようか!! 私、なんだろう!! 成長した2人に会えてすごく嬉しかったけど!! 同じくらいね!! 早く記憶消したい!!」

「ふんすふんすっ!! 南雲先生!!」


「さすがだね! ノアくん!! もう準備出来たんだ!!」

「はい! ところで南雲先生! ボクはこの時間跳躍できる穴ちゃんの記憶を残してもいいですか!!」


「うん。絶対にヤメて?」

「分かりました! どうせそのうち今のボクも到達する気がしますし! もう少し未来のボクにこの新スキルは預けておきます!!」


 ノアちゃんがこのタイムトラベルを可能とする超穴を開発するルートに分岐するためには、辻堂さんをネオ国協の一員として迎え入れる事とペヒやんを呉から借りて技術部門の文官として登用する、少なくともこの2点が求められる。


 本格的な組閣はまだこれからのネオ国協。


 南雲さんはこの世界線に至るルートを回避できるのか。

 それはまだ分からないが、こんなに苦労してここまで頑張ってきたのだから早世ルートだけは避けて欲しいと願わずにはいられない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ノアちゃんが「ふんすー!!」と気合を込めたらば、紫色の穴が南雲上級監察官室に口を開けた。

 これに飛び込むのは相当な勇気が求められると皆が感じ、瑠奈ちゃんと京一郎くん、12歳の子供にそんな覚悟をキメさせてしまう未来にはしたくないとこの場にいる大人たち全員が思った。


「じゃあ、2人とも。あっちで頑張って……というのは無責任だね。何というか、申し訳ない。私、ちゃんと父親として見守ってあげられなくて」

「お父さん……!!」


 堪らず京一郎くんが父親に抱きついた。

 続けて言う。


「お父さんは立派な人でした!! お父さんの守った世界、今度はぼくや姉さんが守って見せます!!」

「京一郎……!!」


 少しモジモジしながら父と息子のやり取りを見つめている瑠奈ちゃん。

 彼女の肩をポンと叩くのは我らがメインヒロイン。


「えっ? 莉子先生?」

「瑠奈ちゃん。大好きな人には抱きつける時に抱きついておく。これって大事なことだよ?」


 さすが、大好きな人に抱きついたままファーストチュッチュして腕をへし折った彼女は言うことが違う。

 まだ六駆くんの右腕は折れています。


「……パパぁ!! なんで! なんで死んじゃったの!!」

「ああ、瑠奈!! ごめんな……!! なんでなのかパパにも本当に分かんないところがまたごめんなぁ!! 心当たりないんだよ! 今年の健康ドックでも異常なかったのにねぇ!!」



「あ。お父さんはリコタンクMarkⅧの起動実験の事故に巻き込まれて」

「逆神くん!! 記憶消して!! 私のだけ先にぃ!! ルベルバックを滅ぼしたいって今ね、思っちゃったから!! 良くない思想と一緒に消してぇ!! 私が戦争起こしそう!!」



 南雲さんに抱きしめられて、瑠奈ちゃんと京一郎くんは幸せそうだった。


 そして紫色の空間が広がる穴の中に手を振ってから呑み込まれて行った。

 続けて六駆くんが「ふぅぅぅぅん!!」とスキル発現。

 南雲上級監察官室は激しい発光に包まれた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。

 南雲上級監察官室では。


「そうなんですか! 未来から南雲さんとこの双子が来たんですか!! へー!!」

「自分と青山さんはお会いする前に退室したので、ちゃんと来たのかは分かんないっすけどね」


 いつもの日常が戻っていた。

 南雲さんが3人分のコーヒーを淹れて給湯室から戻って来る。


「まあ、未来なんて心配したところでどうしようもないからね。今を全力で生きればきっと幸せな未来が待ってるさ。はっはっは」


 端末が鳴ったので山根くんが少しだけくの字になりながら応答した。


「はい。南雲上級監察官室。……上級監察官に伝えておきます。はい」

「山根くん? どこから?」



「ルベルバックからっす。リコタンクのバージョンアップ実験したいけど、やっても良いかって確認でした」

「なんだろう。絶対にやらないでくださいって言ってくれる? 分かんないけど、絶対にやらないでくださいって」



 記憶は消せても絆は消えない。

 未来の娘と息子、パパの命を救ったってよ。


 そののち、ルベルバックでは「いかん。ついに南雲殿に怒られた」と緊急軍国会議が開かれ、リコタンクは今後も現状のバージョンで運用する事が決まった。

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