第1428話 【エピローグオブ南雲のバックトゥザフューチャー・その4】未来の雑談 ~ちょいちょい垣間見える仄暗い可能性~

 その頃の芽衣ちゃん。

 私立ルルシス学院で4時間目の授業を終えたところだった。


 3時間目と4時間目は家庭科であり、芽衣ちゃま制服エプロン仕様は男子生徒のいない学院なのに四方八方から「きゃー!!」と歓声が上がる。

 家庭科の先生が言った。


「木原さんはこの後、早退なされるのでしたね? どうされますか? 授業で作った料理、パックに詰めて持って帰りますか?」

「……みみっ」


「芽衣さん、帰ってしまわれるんですの!?」

「仕方ありませんわ! 芽衣様は探索員ですもの!!」


 こちらは隣県含めても屈指のお嬢様学校のため、ジェネリックな小鳩さん口調のご学友がたくさんいる。

 そして芽衣ちゃま、せっかくクライメイトたちと作った手ごねハンバーグとコンソメスープを食べる機会を逸する。

 苦渋の決断を下そうとしている芽衣ちゃまの脳内に無機質な声が響いたのは、そんなタイミングだった。


『ピュアマスター。こちら瑠香にゃんです。未来から南雲上級監察官の子供たちが来ていますが、そのうち帰るそうです。グランドマスターからの言伝です。『芽衣、来ても来なくても特に変わんないからそっちの都合を優先して良いよ!!』を付与します。あと、ピュアマスターはあっちではバルリテロリ新皇帝とか呼ばれているらしいと瑠香にゃんは付言しておきます。瑠香にゃんリモートを終了しますか。終了する場合はスマホの1を押すか、脳内で消えろと念じてください。オーダーを承諾しました。瑠香にゃんリモートを終了します』


 芽衣ちゃんが元気に言った。


「みみっ! 先生、早退する必要がなくなったです!! 芽衣のせいで授業中断させてしまってごめんなさいです! ご飯食べたいです!! みっ!!」


 芽衣ちゃんは学友に囲まれて美味しいご飯をモグモグしながら思った。

 「みみみみみみっ。ちょっと何言ってるのか分かんないです! 芽衣、子供だから役に立てそうにないです!! みみみみみみみみみっ!!」と。

 無自覚に出ていた芽衣ちゃまアラート。


 芽衣ちゃま、危険が危ないには近寄らず。

 未来とか知らないです。

 自分で切り開くから興味ないです。


 そう言わんばかりに大きなお口でハンバーグを頬張る芽衣ちゃん。

 彼女は難を逃れた。

 これもアカシックレコードに刻まれし決定された事実なのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃあ適当にぶっちゃけトークしてもらって大丈夫ですよ! 僕、もういつでも記憶抹消スキル使えますから!! ノアは瑠奈ちゃんと京一郎くんを送り返す穴、もう出せる?」

「ふんすふんすっ!! 未来のボクにできて今のボクにできない事はないです!! 手紙によるとボク、煌気オーラ総量とか使えるスキルの数とか12年でまったく変化してないです!! 大興奮です!!」


 逆神流の中でも特にヤバい師弟コンビが何言ってんのか分からずに小鳩さんは「……莉子さん。何かお二人に質問ありませんの?」とそっちはそっちでヤバい逆神流に話を振ったが「えー? えへへへへへ! ないですぅ!!」と満面の笑み。

 クララパイセンは「うにゃー」と鳴きながら「莉子ちゃんは仕上がったせいで未来に対する不安も興味もナッシングになっとるぞなー」とほんのり分析をキメる。



 パイセンは未来でも大学生ですかと聞かなくてもいいのだろうか。

 現在22歳で12年を加算すると、少なくとも2回大学に入り直している計算になる。



「お父さん。ぼくが産まれた時の話を聞いてもいいですか?」

「京一郎……!! やっぱり私の息子だなぁ!! そういうの! そういう話がしたかったの、私!! ねぇ、瑠奈もそうだろう?」


「え。別に。あたし、今の生活で割と満足してるし。まあパパに会えた瞬間がテンションの最高潮だったよね。あ、こんな感じなんだってだいたい分かったから。うん」

「……娘が冷たい」


 12歳の娘とお父さんなんか割と関係が冷え込む時期なので致し方ないかと思われた。

 むしろ南雲さんはこの瑠奈ちゃんの反応を糧にすべきである。


 記憶は六駆くんによって消されるけれども。


「姉さん!! 意地張るのヤメなよ!! ぼくたちはお父さんに会えるの、これが最後なんだよ!! 家ではいつもジキラントで素振りしてるじゃないか!!」

「えっ!?」


「ちょ、ヤメてよ!! あれは、違くて……。ママ! そう、ママがなんか喜ぶから!! だから嫌だけどパパの遺していったチャオ刀で素振りしてるだけだし!!」

「る、瑠奈……!! パパの刀、そんな名前じゃないんだけどね!? 嫌だなぁ、本当に!! 私、どんな遺り方してるの!? 半端に面白要素強く遺ってるなら忘れられた方が良いまでありそう!! 私、これから頑張ってネオ国協を組閣しよう!! その未来には行かないように!!」



「えっ!? 南雲さんだけ記憶消さない方が良いですか!? 僕は自分の記憶も消すので、その選択をしたらもうどうにもならなくなりますけど!!」

「逆神くん、君ぃ!! なんで私の今生まで孤独を強いるの!? 最悪じゃないか!! 自分だけ自分が死んだ後の未来とかいう哀しい記憶持って生きていくの!! ヤメてよ!!」


 京一郎くんが「ぼくたちの産まれた時の話、始まらないな……」と思った。



 それから瑠奈ちゃんによって「あたしと京一郎、莉子先生に習ったので『苺光閃いちごこうせん』撃てますよ?」という衝撃の事実が語られたり、京一郎くんの「逆神姓の人たちは皆さんお元気ですよ。あ、はい。大吾さんもお元気です」という情報で六駆くんの心が曇ったりした。

 「キサンタ? それは知らない人の名前です」と京一郎くんは付け加えたが、そんな事はどうでも良かったらしく誰も反応しなかった。


「けれど、皆さんご理解していると思いますけど。ぼくたちのいる未来に到達する確率って1パーセント以下らしいですから」

「そそっ。だからパパもみんなも落ち込まないでください!」


 六駆くんも「どこで何したら分史に枝分かれするかなんて怯えてたら何もできませんよ。僕たちの時代が本史だと考えること自体ナンセンスですし」と頷く。

 この男が時間跳躍スキルについて完全に理解しているという事実で「昔の六駆さんからすると絶対に到達していない未来ですものね。わたくしたちの現在地」と小鳩お姉さんが納得する。

 クララパイセンも「まったくだにゃー。100000円以上は数えられなかったもんにゃー」と同意。


 未来は無限大なのだ。

 1つの可能性を掴まえて「あばばばばば」と嘆くだけでいくつかの未来の可能性は消えてしまう。


「そういえば、マザー仁香すわぁんはもう結婚されてますか?」

「あ、それ気になってた!! この時代のマザー仁香すわぁん!! お会いしたかったなー!!」


 とんでもねぇ異名の付いている2人の未来の仁香すわぁん。

 真っ先に退席した彼女の選択は正しかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の水戸監察官室。


「仁香すわぁん!! 見てください!! 書類仕事を済ませました!!」

「はいはい。偉いですね。おっぱいはあげませんよ」


「自分、新しい装備を思い付いたんですよ!! 土門Aランクの装備から着想を得まして!! このデザイン見てください!! 白ビキニの部分を下着にしてみたんですよ!! 良くないですか、これ!! ねぇ、仁香すわぁん! 仁香すわぁん!! 仁香すわぁ」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 『神速しんそく八神拳はっしんけん』!!」


 宿六がイドクロア製のガラスを突き破って8階から落ちて行った。

 「はぁ……」とため息をついてから仁香さんは部屋を出る準備。


「お昼食べに行こ。南雲さんのところは絶対に通らないようにして。……宿六のお昼はここに置いてっと。多分壁をよじ登って来るパターンだよね。今の落ち方だと」


 放っておけないお姉さんが放っておけないマザーに進化する未来はきっとない。

 来ない。きっと来ないのである。


 次回。

 そろそろ満足したし、未来へ帰ろう。


 南雲の子供たち、バックトゥザフューチャー。

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