第1417話 【エピローグオブ逆神六駆セカンドステージ・その4】はじめてのドライブだ! 逆神六駆!! 免許は昨日取った!!

「えっ!? 嫌だよ!?」

「えっ!? なんでですか!?」


 南雲上級監察官室からお送りしております。


「南雲さん、いいじゃないっすか。逆神くん免許取ったんすねー。おめでとうございまっす」

「ありがとうございます!! とてもいい挑戦でしたよ! 戦場が変われば、戦型も変わる……。僕とS字クランクの死闘はね、周回者リピーター時代を含めても五指に入るベストバウトでした……」


 S字を無視して直進していました。


「おめでとう。逆神くん」

「ありがとうございます! それで南雲さん!」


「嫌だよ!!」

「車貸してください!!」


「嫌だって言ってるのに!! 君ぃ!! 知ってる!? ドライバーが事故起こした時にね!? 所有者にも責任が発生するの!! 私、知ってるんだからね。また無茶して教習所にご迷惑おかけしたの。羊羹持って行ったんだから、私!」

「そうだったんですか! 南雲さんってやっぱり僕にとって理想の上官だなぁ!! 車貸してください!!」


「私への尊敬を枕詞にして、最終的にはそれじゃないか!! 嫌だよ!! 愛着あるんだよ! 大事に乗ってきたし!!」

「いいじゃないっすか、南雲さん。言ってたじゃないすか。ファミリー向けの車に買い替えるって。チャイルドシート2つ置いたら狭いからって」


「やぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇ!! 今それは関係ないんだよ! やーめーろーよー!! 事故られた時の心配をしてるの!! 分かるよ!? 仮に事故ってもこの子、スキルで有耶無耶にするんでしょ!? そうしたらもう、国家を巻き込んだ陰謀の片棒担ぐことになるじゃないか、私ぃ!!」


 六駆くんは「そうですか……」と寂しそうに目を伏せた。

 南雲さんは「騙されないぞ」と身構えた。



「じゃあ、小鳩さんに借りますね」

「はい、これ私のインプレッサの鍵!! ガソリンも好きに使って、給油しないで返してくれていいから!! それはさぁ! あんまりにも塚地くんが気の毒だよ!! 断れないもん、彼女!! 小坂くんとドライブ行くんだね!? いってらっしゃい!!」


 南雲さんは理想の上官だった。



 嬉しそうに鍵を受け取ってから六駆くんは言う。

 割と大事なことを雑に言う。


「実はですね、莉子とドライブに行って、その時に婚約指輪をサプライズで渡そうかと思ってまして! でも、初めてのドライブが莉子と2人だけっていうのも不安なので! 今回は誰かを誘って練習って事にしようかなって! さーて! ミンスティラリアに誰がいるかな!!」


 六駆くんがウキウキで上級監察官室を出て行った。

 南雲さんが山根くんに告げる。


「山根くん」

「うっす」


「魔王城のサーベイランスに繋いで」

「うーっす」


「あと、私の今日の予定、全部明日以降に調整しといて。万が一死んだら、記憶なくなるからね。その時は私、死んだ時用のノートつけてるから。時間巻き戻った私にそれ見せてね。そうすれば未来の私が、あ、私死んだんだって分かるから」

「デスノートで月くんがノートの記憶失った時みたいっすね」


 スマホを手に取る南雲さん。

 白衣を脱いで、スーツの上着も脱いでクールビズ仕様になってから、愛する妻へ大切なことを伝えた。


「あ。京華さんですか。ちょっと地獄までドライブして来るので、今晩帰って来なかったら明日、今日の私が帰ります。はい。はい。気を付けますけど、気を付けてどうにかなった事ないので。はい。ちなみに晩ごはんってなんですか? パインサラダ? 分かりました。では」


 南雲さんの白いワイシャツが死装束に見えると山根くんは思った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんはミンスティラリアに戻ったが、何故か魔王城には誰もいなかった。


「あれ!? クララ先輩は絶対にいると思ったのに!! ダズモンガーくん! みんなどこに行ったか知らない?」

「ぐーっはははは! 先ほどサーベイランスが」


「黙るのじゃ! ダズモンガー!! 『石牙ドルファング』!!」

「ぐあああああああああああああああああああ!!」


 ファニコラ魔王様は実年齢3桁なのに、精神年齢は12歳。

 それから考えるとなんと大人びたロリババアだろうか。

 チーム莉子の乙女たちはアトミルカ団地に避難済みである。


 莉子ちゃんはバニングさんの狩ったモンスター肉をバッツくんが照り焼きにする事でフィッシュオン。

 彼女だけは後に控える莉子ちゃん回のために今回のドライブから離れてもらう必要があり、他の乙女たちには恐怖を味合わせたくないという南雲さんの配慮によるもの。


「あ! 瑠香にゃんがそこにいるじゃない!!」

「………………………………?」



 瑠香にゃんは食堂のコンセントに挿しっぱなしで、パイセンが回収を忘れたらしかった。



 こうして瑠香にゃんを連れて日本本部の駐車場に戻ると、インプレッサの前には南雲さんが待っていた。

 「急に午後からの予定が全部キャンセルになったんだよ」という大嘘を携えて。


 逆神六駆、はじめてのドライブへ出発す。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 瑠香にゃんの無機質な声がインプレッサの中で響く。


「ぽーん。次の交差点を左折してください。ステータス『普通に通過した』を獲得しました。ぽーん。経路を再演算します。次の交差点を右折してください」


 瑠香にゃんは南雲出産回でナビアプリをインストールされたので、カーナビもできるようになった。

 南雲さんがそのナビに異を唱える。


「ヤメよう!! 矢印式の信号機がないところでの右折は初心者には危険が大きい!! 瑠香にゃんくん! そもそもどこに向かってナビしてるの!?」

「ぽーん。ステータス『雰囲気でナビしてるだけで目的地を決めてなかった』を獲得しました。ぽーん。次の交差点をUターンしてください」


「なんでまたそんな高難易度の指示出すの!? ああ、もう右折レーンに入ってるぅ!! 逆神くん、ゆっくりだよ!? 減速してね!? スピード出してUターンとか、もう横転事故だからね!? ……なんで君、運転始めてから一言もしゃべらないの!?」

「えっ!? あ、すみません! お腹空いたなって考えてました!!」


「嘘でしょ、この子!! 初めて道路に出て、三車線三車線の国道走りながら、Uターンする時にご飯のこと考えてたの!? 瑠香にゃんくん! 目的地をマクドナルドに!!」


 瑠香にゃんが「ぽーん。候補地が約2950件あります」と答えた。


「なんで日本全国が範囲なの!? 最寄りのマクドナルドだよ!! あ! 分かった! 瑠香にゃんくん、君ぃ!! 瑠香にゃんウイングで行ける場所がナビの範囲になってるでしょ!? じゃあごめんね!? インストールした私のせいだ!!」

「ぽーん。目的地を確定しました。ぽーん。次の交差点をUターンしてください」



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ホントだ!! あそこにあったよ! マクドナルド!! またUターンするの!? いや、そこの道を!? 狭いよね!? 逆神くん! ナビに従うだけが運転じゃないんだよ!!」

「えっ!? すみません! ビッグマックにしようかダブルチーズバーガーにしようか考えてました!!」


 「好きなだけ買ってあげるから!!」と南雲さんが叫んで、瑠香にゃんが「ぽーん」と鳴いた。



 マクドナルドの駐車場で無事にバック駐車をキメた六駆くん。

 駐車してから「あ! 南雲さん!! 僕、ドライブスルーってやってみたかったんですよ!!」と言い出して、瑠香にゃんが「ぽーん。経路を確定しました。まず左折して、次の交差点をUターンしてください」と無機質に告げて、南雲さんは「瑠奈! 京一郎!! 次の車にはお父さん用のチャイルドシートも付けるからな!! チャイルドじゃないね! アダルトシートだな!! 安全が一番だ!!」と叫んだ。


 それから無事にドライブスルー注文をキメた六駆くん。

 「あ。店内で食べます」という彼の言葉を聞いて、店員のお姉さんが苦笑いをした。


 諸君。

 忙しい時間帯では、などとは言わない。


 どんなに閑散としていても、ドライブスルーでしょうもない事をするのヤメよう。

 やられた方は割と殺意が湧く。


 それはさておき、その日のビッグマックの味は格別だったと六駆くんは笑顔だった。


 さあ。

 莉子ちゃんドライブデート回へとシームレスに移行するんですよ、皆さん。

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