第1416話 【エピローグオブ逆神六駆セカンドステージ・その3】脱輪だ! 坂道発進後退だ!! 仮免試験だ!! 逆神六駆!! ~スキルって万能なんですよという事が分かる回~

 六駆くんが自動車教習所へ通い始めて3日が経過していた。

 彼は夏休みにもかかわらず、今朝も早くから食堂に座っている。


「……みみっ」

「ややっ! ではボクが! 逆神先輩! 免許取得への道はどうですか? 大興奮ですか!?」


 グアルボンの切り身を炙って塩とみりんで仕上げた、なんか日本の朝食における鮭みたいなポジションにちゃっかり鎮座しているミンスティラリア名物を箸で摘まんで、口に放り込みご飯と一緒にモグモグ。

 そして六駆くんは慎重に言葉を選んで答えた。


「難しいね。やっぱり、僕ってさ。自分の力と自分の体で戦って来たからね。メカを操って戦うっていうのは慣れないから、難しい。でもね! 新しいことにチャレンジするのって楽しいよ! 倒した時の気持ち良さっていうのかな? それに向かっていく過程は険しい方が好みなんだよね! さて! 瑠香にゃん! クララ先輩を起こしてくれる?」


 食事を終えた六駆くんが自室に戻った。

 日須美自動車教習所は朝の7時から予約を受け付けてくれるので、6時半には現地に到着しておく必要があるのだ。


「グランドマスター。許可を求めます」


 猫部屋からメカ猫の声がする。

 六駆くんは手早く着替えると部屋から出て来て許可をした。


「充填8パーセントまでなら瑠香にゃん砲を撃っても良いよ!」

「ステータス『コンセントに挿さったままで撃てる出力なのマジで助かる』を獲得しました。目標、1度起きて着替えまではしたのにまたベッドに転がっているぽこますたぁ。瑠香にゃん砲、発射します」


 「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」という鳴き声でおはようございます。

 今日も元気に運転免許を取りに行きましょう。


 六駆くんの試算だとあと2日で取得できるはずなので、もうひと頑張りである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日須美自動車教習所の教習コースに門が生えて来た。

 既に南雲さんが所長宛ての高級羊羹を持参しているので、門が生えて来ても「いつ見てもすごいな、あれ」で済む。


 探索員憲章もネオ国協が始動したらば形骸化していくのだろうか。


「あ! おはようございます! 教官!」

「おはようございますにゃー。千家さん、千家さん。あたしご飯食べ損なっちゃいましたぞなー」


「あ。はい。もうね、私も驚くことはヤメましたから。おはようございます。逆神さん。パイセンさん。パイセンさんには竹輪とカマボコ差し上げますね」

「あたし猫じゃないですにゃー。でもどっちも割と高いヤツだからオッケーですにゃー!! 高い竹輪ってなんでこんなに美味いんですかにゃー! あ、お茶は持参してるのでお気遣いなくですぞなー」


 どら猫、日須美自動車教習所にも居場所を作る。

 このコミュ力でどうして大学でだけあんな大惨事になるのかというヤツはもう何回も、何十回も議論をし尽くしたので省略することとする。

 きっと異論はないと思われた。


「では、ね。もう出席の手続きしてますから。早速ね、教習コースで実車教習していきましょうね。所長に確認したところ、本当に5日で卒業検定を受けさせるつもりみたいなのでね。時間が惜しいですから。はい。まずは坂道発進から始めましょうね。では、乗車してくださいね」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『観察眼ダイアグノウス』!! 教官、問題ありません!!」



「はい。結構です。探索員ってね、存在は知っていましたけど。むちゃくちゃなんですね。怖い仕事ですね」


 安全確認が完了。



 まずは軽く教習コースを1周する。

 直線道路から始まり、止まれの標識できっちり停車。

 ここまでは100点。


 続いて待ち構えるのはUターンしてからの坂道。そしてその上にある踏切。

 踏切では停車して、窓を開けて耳を澄ませる。


「……よし!!」

「逆神さん! 逆神さん!! 良くない、良くない!! ブレーキ踏んでるの私!! ちゃんとブレーキ踏んでください!!」


「えっ!?」

「いや、ブレーキ踏まないと坂道下っちゃうから! 後続車がいたら事故ですよ!!」



「でも、エンストするんですよね。半クラッチとかいう腹立つヤツで!!」

「だから私、言いましたよね? せめてAT車限定にしましょうって」


 アタック・オン・リコはMT車だからイケると思ったと六駆くんはのちに語る。



「にゃはー! 六駆くん、六駆くん!! こういう時こそ知識と経験を活かす時だぞな!! 応用力で突破だにゃー!!」

「うわぁ! クララ先輩と一緒で良かった! そうだ! 教本の内容はもう頭の中に入ってる!! 確か、スキルに関する罰則はなかったはずだ!! ふぅぅぅぅん! 『麒麟チーリン黒色重力陣ブラックゾーン』!!」


 逆神六駆、本編で使っていない極大スキルを駆使して無事に坂道発進を克服。

 千家教官は「スキルって理屈は分からないですけど、国交省に連絡しておきますね」と諦め顔。

 「教本に書いてない事はやっても良い」という暴論。

 そりゃ六法全書も分厚くなるというものである。


 さあ、どんどん行こう。時間はない。


「はい、逆神さん。横断歩道が近づいて来ましたよ」

「止まります!!」


「あ、いえ。徐行で大丈夫なんですけどね。明らかに見通しが良くて人もいないので」

「いえ! 僕だったらこの瞬間にも20往復できますから! かもしれない運転ですよね!! 僕が飛び出してくるかもしれない!!」


「飛び出して来ないですよね? 今、あなた運転してるんですから」

「いえ! 教官!! 僕、分身できるんです!! 他にも分身できる人を知ってます!!」


「あ。はい。じゃあね、逆神さん。あなたはもう横断歩道を見かけたら全部止まって結構です」



 後続車が追突事故を起こさないように、徐行したのちに止まろう。

 千家教官との約束だ。



 ここまで難関を突破して来た六駆くん。

 無事に仮免試験へと移行する。

 時刻はお昼過ぎであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 引き続き千家教官と後部座席にクララパイセンを乗せて、午後からは仮免試験。

 もう六駆くんに恐れるものは何もない。

 一通りのことはやった。

 この男、戦いにおいて1度経験した事は全て己の血肉へと変換できる、天才的な素質を持っている。


「次はクランクですね。脱輪しないようにしてくだん゛ん゛ん゛」

「教官!! 待ってください!! これ、莉子と一緒に見た頭文字Dでやってた、溝落としってヤツです!! 脱輪じゃないです!!」


「逆神さん!! ここは峠じゃないし! あれやったら車が壊れる!!」

「次はS字クランクですね!! ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」


 ガガガガガガガガガガガガガ。


「逆神さぁん!! 溝落としとかいう次元じゃなくなってる!! あなた途中で諦めて、直進してるじゃないですか!! それね、昔、銀魂の教習所回で私、見た! 戻って戻って!!」

「バックします! 後方確認よし!!」


 ガガガガガガガガガガガガガ。



「なんでバックで戻るの!!」

「えっ!?」


 回り直すという発想はなかったと六駆くんは試験後に語った。



 こうして仮免試験は終了した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから2日後。


「逆神さん。あなたは卒業という事になりました……」

「うわぁ! ありがとうございます!!」


「時間を巻き戻して? それから実技教習をしてまた巻き戻す? 私ね、全然記憶がないんですけどね? モニター見たら、何故か逆神さんの運転が上達してるんですよね。それから、ちゃんと規定時間の教習受けたって事になってるんです」

「にゃはー!! 千家さん、千家さん! 10日分くらい人生が長くなっとりますにゃー!! 副作用はないから、ご安心くださいですぞな!」


 おわかりいただけただろうか。

 『時間超越陣オクロック』を広域発現する事で、教習所の時間を巻き戻す。

 その効果範囲の中に六駆くんとクララパイセンは含まれておらず、電子機器も含まなかったので、時間は経っていないけど教習という経験値は得たと、こういうことになるのである。


 よろしゅうございますな。


 異議申し立ては日本本部の南雲上級監察官室が窓口となっております。

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