第1418話 【エピローグオブ小坂莉子セカンドステージ・その1】婚約者がドライブデートに誘ってくれたので ~ダイエット回定期~

 9月に入ったタイミングで、逆神六駆が動いた。


 日須美大学はだいたいの大学がそうであるように夏休みは9月の中頃までと定められている。

 高校生以下の学生は夏休みを終えて二学期に突入したので、海も山もカラオケもボーリング場もラウンドワンも一時的に若者の数が減る。

 そんな時こそ大学生の特権が発動される。


 まだ夏休みの大学生組。

 ミンスティラリア魔王城では六駆くんと莉子ちゃん、クララパイセンと瑠香にゃんが食堂で4人揃ってボンバーマンをプレイしていた。


「にゃーっはははははは!! スゴいにゃー! カッコいいにゃー!! あたしの黒ボンは無敵だぞなー!! 爆弾7連投で置き逃げするにゃー!!」

「ターゲットを確認。目標、ポコ。爆弾を持って投げます。ステータス『いい加減ゲームでくらい瑠香にゃんに屈しろ』を実行します」


「うわぁ! なんか流れ弾が飛んできた!!」

「ふぇ!? わたし、なんで四方を爆弾に囲まれてるの!?」


 瑠香にゃんの赤ボンが勝ち残った。

 時刻は午前11時前。なんと優雅な大学生たち。

 芽衣ちゃんとノアちゃんは学校に行っているし、小鳩さんは任務で夜まで帰って来ない。


「ぐぬぬぬにゃー。1枚服脱ぐから、もう1戦するにゃー!!」

「端的モード。このぽこ野郎。1枚しか来てない癖にその1枚を脱ぐな。このぽこ野郎」


 ボンバーマンなんて3時間くらいやって漸く肩が温まってくるものであり、最初の数戦は準備運動のうちにも入らない。

 さあ次戦というタイミングで六駆くんが立ち上がる。


「すみません! 僕、ちょっと用事があるので!」

「うにゃー? 六駆くんにしてはノリ悪いにゃー? にゃんだろにゃー?」


「ちょっと準備したい事があるんですよね! あ、莉子?」

「ほえ?」



「明後日、僕の運転でドライブに行こう! 南雲さんに車借りる話も済んでるから! デートしよう!! あっくんさんに頼んでオシャレするからね、僕! じゃあ、ちょっと行ってきますねー」

「ふぁ? ふぁー? ふぁっ!?」


 六駆くんが離席して莉子ちゃんの理性がログアウトしました。



「瑠香にゃん! 瑠香にゃんウイング出してにゃー!! そして遠くへ!! 少しでも速く飛ぶんだぞな!!」

「ステータス『悪いな、ぽこ。瑠香にゃんはコンセントに挿さる』を実行します。おやすみなさい」


 瑠香にゃんはスリープモードへ。

 背中の端子をコンセントにぶっ挿して目を閉じた。


「く、くららららららららららラァァァ、クララ先輩!!」

「に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛……。ジョジョのオラオララッシュみたいな感じであたしが呼ばれたぞな……。ブチャラティのラッシュが音的に一番近いぞなぁ……」


「わたし!! どうしよう!!」

「あたしには分かるにゃー。聞く前から次の言葉が。莉子ちゃんは次に、わたし太ったかも! って言う! にゃー!!」



「わたし、お出かけ服が全部着られなくなったんです! 多分、全部お洗濯失敗して縮んだんだと思うんですけど!!」

「あたしのほんのり分析スキルなんかクソだにゃー。予想の斜めどころか、真上に逝っちまったぞなー。スマホをポチポチにゃー。あ、もしもし。あたしですにゃー。莉子ちゃんそっち行きますぞなー」


 莉子ちゃん、お出かけ服がないってよ。



 長期休暇は男も女も関係なく太りがち。

 暴飲暴食、昼夜逆転、不摂生と不養生。

 手を伸ばしたらそこに食い物と飲み物がある。

 外は暑いから冷房の効いた部屋から動かない。


 莉子ちゃんとまったく同じ生活をしているのに、出るところはボンバァァァァァで引っ込むところはキュッとしているクララパイセン。

 身の危険を感じたので、その危険をとある御方にプレゼントする事にした。


 さあ、行きますよ。

 彼の地へ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 まず莉子ちゃんが向かったのは水戸監察官室。

 というか、監察官室の主には別に用はないので「あ。どうも」と軽くスルー。


「仁香しゃん!! 痩せさせてくだしゃい!! わたし、頑張りまふ!! モグモグ……。あ。これは大丈夫です。辞世のドーナツなので。モグモグ……こくん。仁香しゃん!!」

「うん。クララちゃんから連絡を聞いて、事情は全部把握してるよ。ドライブデートだもんね。ずっと至近距離に男の子がいるとドキドキするよね。ちょっと分かる」



「えっ!?」

「はぁぁぁ!! 『神速しんそく十六神拳じゅうろくしんけん』!!」


 宿六が六駆くんのノーマル『大竜砲ドラグーン』にも耐え得るイドクロア製の強化ガラスを突き破って8階から転落していった。



 仁香トレーナーは莉子ちゃんの特性をすべて把握している。

 多くの後輩に慕われる彼女だが、莉子ちゃんに関してはもう本当に放っておけないという使命感で寄り添っている。

 夏の終わりに車道と歩道の境目で死にかけのセミが転がっていたら、そっと木陰に移動させてあげる時の気持ちに似ているらしい。


「バルリテロリに行くよ! トレーニングウェアに着替えて! 莉子ちゃん!!」

「……あの」


「うん。分かった。じゃあその、ボディラインが全然分からないワンピースのままでいいや! 腰のところ、それゴムだよね? うん。全部分かった! 行こう!!」


 かつて六駆くんに買ってもらった赤と黒のトレーニングウェア。

 さっき着てみたら、「多分お洗濯をミスしたらしく縮んでいた」と莉子氏は供述した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バルリテロリの門の前では皇宮秘書官オタマさんが待っていた。

 仁香さんはバルリテロリ本国に来るのは今回が初めてだが、戦後処理の関係でオタマさんとは何度も会っている。


「お待ちしておりました。仁香様。こちらも仕上がってございます」

「ぶーっははははは!! おお! お前が仁香すわぁんか!! かわええやんけ!! 17歳のプリティーフェイスな皇帝は好きか!? ワシは仁香すわぁんタイプやで!!」


 仁香さんは「どうも。はじめまして。失礼しました」と簡単に挨拶を終えた。

 はじめまして。さようなら。


 そして莉子ちゃんに言う。


「とにかくスキルだよ! 莉子ちゃん!! 煌気オーラ枯渇になるまでスキルを撃ちまくって!! 四郎さんにお願いして煌気オーラ回復アイテムを」

「用意してくれたんですか!? さすが仁香しゃん!!」


「全部隠してもらったから!! あと、テレホマンさんに頼んで今、この辺り一帯は煌気オーラが吸収される状態のフィールドになってるから!! はい! 苺色の殺人光線撃って、撃って! キサンタ陛下、ちゃんと喰らってくださいね!!」



「ふぁー?」

「なんでや!? なんでワシ、ロリ子に撃ち殺されんとあかんのや!?」


 痩せるためである。



 莉子ちゃんは逆神流の使い手なので、体内の煌気オーラが減ってくるとその辺に漂う煌気オーラの粒子を取り込んで回復してしまう。

 煌気オーラコントロールが中の下程度になったせいで、半端に回復されるとカロリーが消費されない。


 腹減ったタコがてめぇの足を食うように、煌気オーラ枯渇から自分のカロリーを煌気オーラに変換してもらわねば困る。

 それを50セットくらいこなせば、多分3キロくらい痩せる。

 仁香すわぁんがそう判断したのだから、そうなのだ。


「分かりました……。わたし、ヤります!!」

「ばぁぁぁぁぁぁぁ!? ばぁぁぁぁぁぁぁぁ!! アホかお前は!! ダイエットのためにワシが殺されるんか!? そんなんおかしいやろ!! なぁ、オタマ!?」


「はい。陛下。違います」

「どっちや!?」


「あちらです。ご覧ください」


 オタマさんの左手の先にはキャンピングチェアーに腰かけた四郎じいちゃんがいた。


「ほっほっほ。ほっほっほっほ……。ハーッハハハハ!!」

「四郎ぉぉぉ!! お前ぇぇぇ!! なんでそんな子になってしまったんや!? 親は何しとったんや!!」


 バルリテロリで子作りしておられましたね、陛下。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 8時間後。


「ふぇぇぇぇぇ……」

「すごいよ、莉子ちゃん!! 私の見立てだと2キロ痩せてる!!」


 莉子ちゃん、無事にちょっと痩せる。


 喜三太陛下の国葬については日程が定まり次第お知らせいたします。

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