第1411話 【エピローグオブ南雲の接待キャバクラ・その5】ネオ国際探索員協会・乳、発足(予定) ~男爵、理事に内定~

 前回のあらすじ。

 川端さんが『OPPAI』のために立った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲さんは慌てず騒がず冷静に、まずは飛び入り参加してしまったニューカマーについての弁明を試みる。

 隣に座る山根くんの肩を叩いて「分かってるね!? 絶対にヤメなさいよ!? 絶対だからね!?」と念を押す。


 口には出さない。

 文字通り念で押す。

 それけだけで南雲さんと山根くん、この2人には充分なのだ。

 共に過ごして来た時間がそう証明している。


 山根くんが川端さんには少しばかり劣るものの、流暢な英語で事情を伝えた。


『こちらは川端おっぱい男爵です。おっぱい男爵とは、全世界の乳房を差別なく愛し、時にこぼれ落ちぬように支え、時に凝り固まった状態を揉みほぐし、世界の均衡を保つために日夜活動しておられる、世界で1つしかない男爵家です。国籍も持たずに今もこうして、おっぱいのピンチを察知して参上した、乳房のためならばなりふり構わぬ人です。ナグモも大変な信頼を寄せておりまして、先日も夫人の母乳について相談したほどの間柄と申し上げればもうその信頼関係が全て伝わるかと思います』


 長文の英語である。

 英検準2級の南雲さんには全てをリスニングする事は叶わなかったが、1つだけ分かった事がある。



「やぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇ!! やーめーろーよー!! やっただろう、君ぃ!! もうね、初めて聞く単語がいっぱいある時点で分かるんだよぉ!! 訂正しろぉ!! まだ間に合うかもしれないからさぁ!!」

「ハハハハハ。嫌だな、南雲さん。通訳を介してだとしても、公式会談の場で1度口に出した事を撤回するなんて。ハハハ。そんな失礼を働くんですか?」


 「そっちの方がまだ軽傷で済むだろ!!」と南雲さんはもうクレメンス氏が目の前にいようと知った事かと言わんばかりに叫んだ。



 そのクレメンス氏はアームストロングくんの肩を叩いて耳打ちをしている。

 帰るのだろうか。怒って帰るのだろうか。


『アームストロングくん。ちょっと私には難解な表現がいくつかあったのだが。乳房を保護する文化がジャパンにはあるのかね?』


 アームストロングくんが答える前に、川端卿の魂が応えた。


『イエス。オフコース』

「誰かー!! 川端さんを摘まみ出してー!! 私にもハッキリと理解できる英語で、私に分からない事を全肯定してるー!! 誰かー!!」


 あまりにも堂々と何言ってんのか分からねぇ事を「もちろんだ」と言い切る男。

 そもそも首脳会談なのに、こいつは誰なんだろう。

 そんな疑問が浮かんでは消え、もう1回浮かんできたところでクレメンス氏が閃いた。


『なるほど!! こちらの男爵がナグモさんの仰る、国家にこだわらぬ人選か!! 国籍を持たないと副官が言っていたのも、そういう事か!! では、この男は新しい国協の理事……! そうだな!? アームストロングくん!!』

『ええ。そのようです』


 クレメンス氏とアームストロングくんが頷き合う。

 それを見て南雲さんが立ち上がる。


「違いますよ!! なんでだろう!! 分かんないけどね、分かっちゃう! 私!! それ、違いますよ!! くそぅ!! こんな時に限って逆神くんがいない!! ふぅぅぅぅんって叫んでこの場所を焦土化してくれないかなぁ!!」

『ナグモはエキサイティングな形で話が纏まりそうで、大変興奮しております』


 南雲さんは学生時代、英語の勉強を疎かにした事を悔やんだ。

 「そういえば昔、久坂さんも言ってたな。英語くらい喋れんで監察官なんぞやれたもんじゃないわい、ワシの知らんとこで何言われちょるか怖くてのぉって。……帰ったらスピードラーニング買おう」と決意するに至る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから川端さんが「良いですか。まずおっぱいに3度礼をしてください。これが日本式です。それから1度手を叩き、7度拝む。さあ、私に続いて」と有無を言わせぬ姿勢でアメリカ探索員協会の1番偉い人に『OPPAI』の極上おっぱいを参拝させた。

 そのリーダーシップはどう見てもこれから世界を引っ張る男のそれであり、クレメンス氏は「ジャパンってすごいな……」と言葉を失い、最終的におっぱいを拝んだ。


「南雲さん」

「うん。もうとりあえず終わりにしよう。川端さんは自分から飛び込んで来たんだから、今回は助けてあげなくていいよ。それよりも、もう終わろう。大惨事だけどまだ取り返しはつくと思いたいから。山根くん。締めて」


 アームストロングくんが山根くんに向かって言った。

 南雲さんにではなく。

 どうやら「私たちは通じ合うものがあるようですね」「そうっすね」と上官おちょくる副官ニュータイプの感応によって言葉を介さずにお互いを認め合ったらしい。


「山根さん。新しい国協の名前はいかがなさいますか」

「あまり大きく変えてしまうと逆に混乱するんじゃないかと思うんすよ」

「ねぇ? 日本語で喋ってるじゃない? 君たち? なんで私を飛ばして相談するの?」


「なるほど。仰る通りですね。国際探索員協会という名称自体は分かりやすさに特化していました」

「そっすよね。シン国際探索員協会とかどうっすかね? 日本ではシンって付けて昔の名作を刷新するのが定期的にムーブメントをキメるんすけど」


「なるほど。では、『ネオ国際探索員協会』というのはどうでしょうか」

「あー。いいっすね。英語圏じゃない国でも、ネオなら良い感じにハマりそうっす」

「口を挟んで申し訳ないが、どこかに『乳』を付けてくれるか」


「では、『ネオ国際探索員協会・乳』でよろしいでしょうか」

「異議なしっす。略称はネオ国協でオッケーっすね」


「このバカ! 異議しかないよ!! アームストロングさんには初対面で失礼ですけど、このバカたち!! クレメンスさんがポカーンとしてるじゃないか!! なんで私と氏を無視して決めるの!? ……あ! 違う!! あの表情は無視されるのに慣れてる顔だ!! ちょっと!? 結局なにが決まったの!? それでナニがキマったの!?」


 南雲さんが倒れそうなので、こちらで引き取ろう。


 国際探索員協会の解体が正式に決定。

 役割を引き継ぐ組織の名前は『ネオ国際探索員協会・乳』となり、川端一真おっぱい男爵が理事として参加する事が決定。


 以後は川端さんが中心となり、国家にとらわれない人選を速やかに進めて行く事となる。



『それでは、ナグモさん。ネオ国協の総理事はあなたにお任せします。よろしくお願いしますね。いやいや、これで世界も安泰だ! ハッハッハッハ!!』

『アイキャンドゥーノットエニシング!! メイ、ザ、フォース、ビーウィズユー!!』


 とりあえず何か言わないとこのままじゃヤバいという時、人は本当に何言ってんのか自分でも分からなくなるものである。(『嗚呼。ナグモの創りし世界』第4章『もう嫌だ、この仕事』より抜粋 ネオ国際探索員協会乳出版)



 こうして日米探索員首脳会談は終わった。

 お土産に『OPPAI』名物、おっぱい饅頭を持ち切れないほど手渡されたクレメンス氏は笑顔でアメリカへ帰って行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 数日後。

 南雲上級監察官室では。



「逆神くん。私と一緒に世界を変えてみないかな? 君、大学で英語も学んでいるじゃないの。ねぇ? どうだい? 世界の半分は君に任せるよ? 私」

「うわぁ! 絶対に嫌ですよ!! なんで隠居したのにそんな面倒なことしなきゃいけないんですか! 傍から見てる分には楽しいですけど! うふふふふふふふ!!」


 藁にも縋る南雲さんがいた。



 明日はきっといい日になる。

 ナグモの好きな言葉で、ナグモの好きな歌である。

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