第1410話 【エピローグオブ南雲の接待キャバクラ・その4】日米探索員首脳会談 ~????「なんですって? 今、すぐに行きます」~

 高級キャバクラで行われる予定だった日米探索員首脳会談は急遽場所を変更して、高潔な紳士にのみ入店を許される『OPPAI』と呼ばれる桃源郷にて行われていた。

 乳白色のテーブルで向かい合うは南雲修一上級監察官とジャック・クレメンス上級監察官。


 『OPPAI』日須美支店は当然だが本日貸し切り。

 急に場所変更した割にどうして貸し切りにできたのかと言えば、川端さんが貯めまくって、雨宮さんが預かっていたゴールデンおっぱいポイントカードによるもの。

 通常であればおっぱいを愛する紳士たちの社交場である『OPPAI』を個人の都合で、あるいは国家の都合だとしても、貸し切りにする事など不可能。


 だが、おっぱいに、そして『OPPAI』に対して徳を積んだ者、常軌を逸した徳を積んだ者だけは例外とされる。

 覚えておいでだろうか。

 かつてイギリス時代のストウェアが襲撃された際、何故か川端さんは私費を投じて『OPPAI』イギリス店にイドクロアを使いまくった改修工事を施した。


 ストウェアそっちのけで『OPPAI』に集うおっぱいたちを守ったのだ。

 その時の功績は全世界の『OPPAI』で今も語り草。

 しかも川端さんは返礼おっぱいを受け取る訳でもなく、ただジェニファーちゃんのおっぱいを堪能しただけで、以降はストウェアが漂流を始めたのでお店から足も遠ざかり、ナンシーの家にたどり着いてアメリカのニューヒーローになった末に今ではナディア・ルクレールさんのおっぱいを守護する男爵として生きているため、もう『OPPAI』に乳店にゅうてんする事もない。


 そんな伝説的な男のポイントカードを持参した南雲さん。

 すぐに日須美支店長がスライディングしながら駆けつけ「最上級のおっぱいとおもてなしをお約束しましょう」と貸し切りが決まった。


 今、おっぱいに囲まれて、日米探索員首脳会談は進行している。



◆◇◆◇◆◇◆◇



『しかしナグモさんの造られたサーベイランスは素晴らしいですな。まさか翻訳まで出来るとは。これを我が国の協会に技術提供頂けると? 日本人の度量の広さには敬服するばかりです。いえね、私の娘の彼氏も日本人でして』


 クレメンス氏はまず南雲さんの出して来た「サーベイランスの設計図を無償で提供する」というちょっとこいつ頭おかしいんじゃないかと疑いたくなるような提案に感激。

 我々は見慣れ過ぎていて忘れがちだが、サーベイランスは南雲さんの造り上げたスーパーサポートメカ。

 ダンジョン内での通信から索敵、さらには異世界で飛ばしても繋がる電波の強さ、搭載されているマジックアームで遠隔作業も可能、ついでに換装して冷蔵庫を取りつけたらドーナツも保存できる。


 これは日本本部と友好関係にある異世界や、アトミルカに滅ぼされたイギリス探索員協会と川端さんが亡命キメたフランス探索員協会にしか貸与されていない。

 それを「まあまあ、まずはこれをどうぞ」と差し出した。


 その時点で交渉なんか終わったようなもんである。


「山根くん? サーベイランスの翻訳機能、ちゃんと働いてる?」

「何言い出すんすか、南雲さん。今、まさにクレメンス上級監察官にここがすごいぞサーベイランスってアピールしたとこなのに、なんでそんなこと言うんすか?」


「えっ。ああ、うん。そうなんだけどね」


 クレメンス氏が続けて言った。


『我々としてはナグモさんに国協の総理事をお任せする事に異論などありませんよ。いや、国協という名は新しい時代に相応しくないかもしれませんな。ハハハ! ナグモさんの名前でも付けますか! ハハハハハ!!』


 南雲さんが笑顔で頷いてから、隣にいる英語が堪能な副官の耳元でちょっと叫ぶ。



「なんでサーベイランスの翻訳で私の名前がスカレグラーナ訛りになってるの!? 翻訳機能がちゃんと働いてたらさ!? 私、さっきからナグモって呼ばれてない!?」

「なに言ってるんすかー。ハハハハハ。南雲さんってば、ハハハハハ」


 クレメンス氏は山根くんが呼んだイントネーションを「ジャパンの郷に入っては郷に従えというヤツだな!」とすぐに対応しているだけなので悪くないのである。



 山根くんがむちゃくちゃ重要な会談の場でもきっちり南雲さんをおちょくるという、普段通り臨む事が何よりも大事なんすよという意を表明しながらも、そのおかげなのかどうかは判然としないが会談は順調に進んでいた。


 周囲で震える極上のおっぱいには見向きもせずに。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、駐車場のインプレッサでは。

 待機中の川端さんのスマホが震えていた。


「失礼」

「あららー。ナディアちゃんが帰っておいでって言うんじゃないのー? 悪い人ですね、川端さんもー。あんないい子を寂しがらせちゃってねー」


 着信を知らせる画面には『OPPAI』と表示されていた。

 川端さんが慎重に通話ボタンをタップする。



「はい。私です。なんですって? 南雲さんとアメリカ人がおっぱいに満足していない!? バカな!! そんなはずはありません!! 私がロケハンしたんですよ!? 日須美市の『OPPAI』はワールドワイドな評価をしても9点以上ほぼ満点!! ……待っていてください。今、そちらへ向かいます」


 おっぱい男爵として許せない事態であった。



 川端卿は言う。

 おっぱいに対して興味のないふりをするのは良い。

 それは初対面のおっぱいに対するマナーだ。

 むしろ正しい。


 しかし、しかしである。

 おっぱいとはじめましてを済ませて、それを無視するとは何事か。


 何のためにおっぱいが笑顔をたたえていると考えているのか。

 それはまるで「こっち客なんだから、何したって勝手だろう」と宣うかの如き所業。

 思い上がってはならない。



 おっぱいの力を借りずに独りで大人になったような顔をするな。

 そんな人間は有史以来、1人だって存在しないのだ。



「雨宮さん。少し行ってきます」

「あらー。私ね、一応言っておきますよ? 今やってるのってものっすごく大事で、関わるとものっすごく面倒なお話ですからね? そこに突撃するのはお勧めできないなー。私」


「雨宮さん。私を仲間外れにされて寂しく震えているおっぱいを見捨てるような卑劣漢だと思っているのですか。そうだとしたら、私は悲しいですよ」

「あららららー。じゃあ、いってらっしゃい!」


 川端さんは「はい」と短く返事をしてから、インプレッサのドアをちょっと乱暴にバタンとやった。

 その所作には少しばかりの怒気がこもっていたとは、雨宮さんが後日語った感想である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 『OPPAI』の店内では。


「新しい国際探索員協会は日本だとかアメリカだとか、そういう括りに囚われない人間を多く登用したいと考えているのですが。私が参加する事はもう致し方ないとして、日本、アメリカの2国で維持するような形にはしたくありません。山根くん。通訳お願いね。これちょっとサーベイランスの翻訳じゃ不安だから」

『ナグモはこう言っています。日本が中心になって国協を運営するのは絶対に嫌だ。これ以上の面倒が増えると私、死んじゃう』


 山根くんはネイティブな表現を好む。

 公式の会談でその通訳が正しいのかはちょっと分からない。


 そこにやって来た男がいた。



『あなたたちは何をしておいでか!! おっぱいが泣いている!! その狼藉!! どのような立場の者であってもこの私は許しません!!』

「山根くん? 川端さんが流暢な英語でなんか叫んでるけど、これは訳してくれなくていいよ? 和訳聞いたらね、多分だけど私、死んじゃう」



 男、川端一真。

 怒りの『OPPAI』乳店にゅうてん


 クレメンス氏は思った。

 「いやこの人英語上手いなー。きっと重要なゲストに違いない」と。

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