第1385話 【エピローグオブ南雲家の出産前夜・その2】逆神六駆の「今回はガチのマジで本気出す」 ~まだ昼過ぎなのに前夜とはこれ如何に~

 ここで二手に別れよう。


 南雲さんは後顧の憂いがすごい事になっているものの、今は何をさておき嫁さんの元へ急ぐべきであり、それは氏も重々承知の緊急事態。

 予定日よりも早く産気づいたのである。

 修一くんのお嫁さんは42歳。


 初産。高齢出産。

 心配なんてそんなもん、なんぼしてもし過ぎるなんて事はないのである。


「さあ! まずは世界中に南雲さんに家族が増える事を伝えてください! 山根さん!!」

「うっす! お任せっすよ! 逆神くん! いや、上級監察官代理!!」



 上官のために本気出してる、既にフルブーストの部下たち。

 六駆くんと山根くん、かつてないほどに気合がノッている。



「……じゃあ、私ね。お言葉に甘えていくけど。何かあったらスマホ鳴らしてね? ねぇ? なんで無視するの? 逆神くん? もう逆神くんはいいよ。山根くん? おい、やぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!! なんとか言えよぉ!! 君は私の部下になって何年になるの!? ここで裏切るなよ!? 絶対だぞ!! 絶対だからな!! くそぅ! じゃあね、私は駐車場に」


 南雲さんが最後の無駄な抵抗おねがいをしてから車のキーを片手に白衣を脱いでいると、六駆くんが「何言ってるんですか!!」と強めで食い気味に声を荒げた。


「ひぃぃぃ!? ちょっとぉ!? 私もう『古龍化ドラグニティ』してないんだから! 殴るのはよしなさいよ!? 死んじゃうでしょう!!」

「何言ってるんですか!!」


「それはもう聞いたよ!?」

「車でのんびり向かうつもりですか!?」


「法定速度を守って大急ぎで向かうよ!?」

「南雲さん! 僕を誰だと思ってるんですか!!」


「そのセリフ、すっごく怖い!! 君ほどそのセリフがピッタリな子もいないよ!! なに!? 私も急ぎたいんだけど! だって『ゲート』は無理でしょう!? 病院に『基点マーキング』がないんだから!!」

「南雲さん。僕ね、これまでずっと……あなたにお礼がしたかったんです。今日は出し惜しみしませんよ!!」


 南雲さんは「お礼参りかな?」と背筋が寒くなったという。

 風雲急を告げる今、いくつかの頼りになる選択肢を六駆くんが差し出す。



「屋上に向かってください! あと、参考までに聞いておきたいんですけど! ぶーっはははは! と、チャオ! と、超高速非行、あ、ごめんなさい。飛行! どれがいいですか!?」

「最初のは絶対に嫌だ! 2番目……いや!! じゃあ3番目!! どっちみち屋上に行けばいいのね!! とりあえずお礼は言っておくよ! ありがとう!!」



 南雲さんが上級監察官室を飛び出して行った。

 残された六駆くんは「うふふ」と笑って、鼻を擦った。


「そこはあれなんすね。へへっ! じゃないんすね。逆神くん」

「その笑い方、親父と被るんですよね。縁起悪いじゃないですか」


 転移スキルのスペシャリスト偉大なる喜三太陛下が選択肢に入っていたのに、今さら縁起がどうこうとかあるのだろうか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 南雲さんはエレベーターで1号館の屋上へ。

 1号館の屋上にはヘリポートがある。


 本当は新しく建設していた研究棟の屋上に造られる予定だったのだが、バルリテロリ戦争のおり、逆神五十鈴が日本本部を襲撃した際にぶっ壊れたのでプロジェクトそのものが立ち消えとなった経緯がある。

 ちなみに壊したのは六駆くんの究極スキルの流れ弾によるものだが、もう誰も覚えていないのでセーフ。


 ヘリポートには人型のシルエットが南雲さんを待っていた。


「南雲上級監察官。瑠香にゃんウイングは既に展開済みです。そして瑠香にゃんシートを乗せて来ました。これでご夫人マスターも相乗りできます。ステータス『この流れで瑠香にゃんが選ばれてなかったら瑠香にゃん砲撃ってた』を確認。熱くなってる動力炉おっぱいに格納します」


 瑠香にゃんが救急タクシーモードに換装済みであった。

 なるほど。

 これならば救急車よりも速く、安全に飛んでいける。


「救急車は飛ばないよ」

「………………………………? ステータス『なにいってんだこいつ』を獲得しました。そのおとぼけ顔に投げつけます。グランドマスターより情報の伝達は完了済み。緊急事態であると判断します」


「瑠香にゃんくん? どうやって乗ったらいいの? 私、これ。君に乗るの? 画的に大丈夫かな? あのね。いや、気持ちは嬉しいし、急いでるんだけど。ええ……?」


 瑠香にゃんは抑揚なく答えた。



「瑠香にゃんウイングは高速で飛びます。振り落とされないように、両足に煌気オーラ力場を構築して瑠香にゃんの背中を踏んづけるモード『桃白白スタイル』が推奨されます。または、取っ手を掴んでください。取っ手は瑠香にゃんのおっぱいから伸びます」

「ほらご覧よ! 人生なんてね、選択肢がいっぱいあるような気がするけど! よーく見たらだいたい一本道なんだよ!! 煌気オーラ力場で吸着すればいいのね! ところで瑠香にゃんくん、うちの住所知ってる?」


 やっぱり瑠香にゃんは抑揚なく「知りません」と答えたので、南雲さんが地図アプリを瑠香にゃんにインストールした。



 南雲さんオンザ瑠香にゃん。

 古龍の戦士・ナグモで行っても良かった気がした南雲さんだが、「うん。冷静さがなくなるのは困るよね。これが正解なんだ、きっと」と自分を納得させたという。


 瑠香にゃんが飛び立った。

 身重の嫁さんが待っている南雲家のマンションに。

 マンションにはヘリポートがないので着陸する時はどうなるのか分からないが、そこは瑠香にゃん。


 アトミルカが開発し、ミンスティラリアの魔技でアップデートされ、逆神六駆が仕上げたスーパーロボ子。

 きっと大丈夫。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 上級監察官代理となった六駆くん。

 まずは南雲さんを安全かつ迅速に送り出す事、このファーストミッションを完了させる。


「よし! ここまでは予定通りですね!!」

「うっす。ダンジョン攻略、どうするっすか? ちなみに今日、監察官で出勤してるの楠木さんと木原さんの2人っすよ」



「うわぁ! 大外れじゃないですか!!」

「歯に衣着せないっすねー!」


 楠木さんは戦力外。

 ゴリラさんはダンジョン壊すから戦力としては申し分ないのに戦力外。



「だったらもう、僕のコネクション使うしかないじゃないですか! うふふふふ!! 腕が鳴りますね!! 山根さん!」

「想定される方々の連絡先を全部カタカタターン、と! どなたからでもすぐに通信状態確立オッケーっす!」


 チーム莉子を、もっと言えば六駆くんを2年もナビゲーションしてきた経歴は伊達じゃない山根くん。

 息がぴったり。

 隠居したあとも入り浸っていたかいがあったと六駆くんも満足気に頷く。


「じゃあ、まずはミンスティラリアの魔王城に! それと、あっくんさんはマストですよ! それでも手が足りないですねぇ。じいちゃんに相談しようかなー。でも、そうなると多分ですけど、ひいじいちゃんたち出て来ちゃうんですよねー。これって怒られますかね?」

「自分はいいと思うっすよ!」


「けど、バルリテロリを頼り過ぎないって決めたんですよねー」

「頼ったことってこれまでにありましたっけ? 自分の記憶にはないっすけど」



「えっ!? ……じゃあ、良いですかね!! うふふふふふふふふ!!」


 諸君。

 バルリテロリを頼りのであって、のではないのである。



 人手不足はいつもの事。

 六駆くんだってちゃんと考えている。

 「自分の権限でギリギリ呼べる人たちだけでどうにかしよう」と。


 どうにかなるかは置いておくとして。

 人生はいつだって、努力目標と努力義務でできている。

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