第1386話 【エピローグオブ南雲家の出産前夜・その3】リアルタイムで進行中な南雲家助力隊 ~やっと出て来た京華さん~

 動く。

 逆神六駆。


 彼から連絡を受けた者たちの反応は様々だったが、その理由が「南雲さんとこ! 産まれるんですって!!」だと付言されたらば一様に表情が、声のトーンが、変化したのち最終的には一致した。


「ちっ。……んな事をよぉ。聞かされてぇ? 断れねぇんだよなぁ。あの人にゃ、特別世話になってっからよぉ。いや……あそこの夫婦、かぁ? うちからはガムたちとよぉ。あとは辻堂のおっさん連れて行くぜぇ」


 現世から1組、奇跡のように正規の探索員が1人もいない部隊が完成。


「あららー。南雲くんのとこ、予定よりちょっと早いんだねー。大変じゃないの。おじさん、今はもう予備探索員だからねー。やらかしちゃっても資格停止とかで済むんじゃないかなー。私も資格なくなって困らないしー。あ。おばあ様、イケます? 了解だよー。逆神くん」


 とある異世界からも1組、指揮官経験豊富なおじさんがダンジョンぶっ壊さない程度にコントロールできる部隊を編成完了。


「ぶーっははははは!! なんでワシが白衣のために骨折らんといかんのじゃ! バカがぁぁ!! 赤ん坊なんか放っといても産まれるでな! ん? オタマ! ワシと子作りするけ!? なんで拳を振りかぶるんや!? オタマ? オタおぎゃああああああああああ」


 よく考えたら陛下はいらない。

 電脳戦士とか皇宮秘書官とか合法女子高生とかでダンジョンの1つくらいイケる。


 これで3つほど急造かつ、日本本部および各国の探索員協会には直接的な影響のない、つまり「やらかしても被害は最小限でどうにかなるかもしれん」な人員を集めきった六駆くん。


 タイムは驚愕の22分。

 意外と人徳もあった六駆おじさん。

 これこそがエピローグの収束。


 重ねて来た縁の集大成。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 主のいなくなった南雲上級監察官室では。


「逆神くん。各地に【稀有転移黒石ブラックストーン】を送る準備、完了っすよ。ちゃんとサーベイランスがあるところを選ぶあたり、今回の逆神くんはガチってるっすねー」

「うふふふふふふふふふ! 僕ね! 今の生活がすごく充実してるんですよね!! これって南雲さんがいなかったら成立しない充実なので!! そりゃ頑張りますよ!!」


 つまり、売れる恩は先でも後でも構わないので、できるだけ多くの種類を売っておきたい。

 今がその時。


 六駆くんの采配、そのタクトの冴えは留まるところを知らない。

 彼のスマホが震えた。


『もしもし? 六駆くん? わたしー。どうしたの?』

「あ、莉子? よかったー! 連絡ついて! あのね、南雲さんのところ! 赤ちゃんが産まれるんだって!!」


『えー!? そうなの!? もうちょっと先かと思ってたよぉ!!』

「ねー。それでさ、今ってミンスティラリアに誰がいるかな?」


『わたしとね、クララ先輩と……。わたし!!』

「あ。……ちょっと待ってね」


 六駆くん、スマホを一旦テーブルの上に置いて一呼吸。



「しまったなぁ」


 少しばかり計算とは違ったらしい。



 だが、戦いの中で計略通りに進まぬからと言って足を止めるは愚の骨頂。

 あかんと思った時にどうやってリカバリーをするか。

 それによって勝敗は決まると、この最強の男は知っている。


「よし! 莉子はクララ先輩を連れて、南雲さんのところへ! 今ね、瑠香にゃんが病院へ連れて行ってるはずだから!! きっと手が足りないと思うし! 近くでお手伝いしてあげてくれる?」

『うんっ! 分かった!! クララ先輩! 服着てくださいっ! 行きますよー!!』


 六駆くん、わずか30分ほどで3つのダンジョン攻略の人員確保と、南雲夫妻お手伝い係の選任を済ませる。

 山根くんが「まずはお疲れ様っす」と言って淹れてくれたコーヒーを「ありがとうございます」と受け取った六駆くんは、ズズッと啜ってから独り感想戦めいた言葉をぽつりと呟いた。


「……1つだけやっちゃったな。ギャンブル。僕、賭け事は絶対に向いてないと思うんですよね。親父がアレだから。……ギャンブル、1つだけやっちゃった」


 どれの事なのかは分からないが、現在ミンスティラリアでは莉子ちゃんがクララパイセンと共にお出かけの準備を整えたところであった。

 南雲家の一大事はリアルタイムで進行している。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の南雲さんオンザ瑠香にゃん。高速飛行で移動中。

 既に南雲家のマンションを視界にとらえており、瑠香にゃんは搭乗者の指示を乞うた。


「南雲上級監察官。許可を頂けますか」

「うん。まあ、そうなるだろうなって思ってた。マンションの屋上か……。それって払ってる共益費でどうにかなるかな」


「南雲上級監察官。瑠香にゃんウイングを一旦格納して、瑠香にゃんホバーを展開します。瑠香にゃんホバーは高熱なのでコンクリートくらいだと溶けます」

「私の家にそのまま行かれたらね、妻が!! 妻がというか、私の身も危ないから!! 屋上に着陸して!! もう知らない!! 貯金はあるし!! 最悪、引っ越すから!! ご近所さんたちには羊羹配ってご迷惑をお掛けしましたって謝るから!!」



「瑠香にゃん、オーダーを確認しました。『屋上に着陸せよ』と命令を復唱。実行します」


 その時、南雲さんちのあるマンションがものすごく揺れたという。



 瑠香にゃんは再び瑠香にゃんウイングを展開して、南雲さんからインストールされた産婦人科の情報を確認。

 瑠香にゃんシートを瑠香にゃんリクライニングシートに換装して、京華さんを連れに行った南雲さんを待つ。


「ステータス『瑠香にゃん、過去1番で人の役に立ってる気がする』を獲得しました。アツアツの動力炉おっぱいに格納します」



◆◇◆◇◆◇◆◇



 8月にスーツ姿で階段を駆け下りる修一くん。

 汗をかくのはとっくに慣れたが、今日のは格別だったという。


 子供が産まれるという未体験の吉事と、予定日よりも早いという想定外の事態。

 なにがなんだかもうサッパリ分からずに、南雲さんの脳内ではアドレナリン的な興奮物質がポコポコ湧いては弾けている。


 見慣れたマンションの扉も今日はなんだか他人の家のように感じる。


「く、くそっ!! どうして開かないんだ!! どうして!!」


 鍵を取り出してガチャガチャやっているのに、家のドアが開かない。

 隣の家のドアから顔を出した女性が呆れたように言った。



「おい。修一。うちはこっちだ。そこは吉田さんのお宅だろうが」

「えっ!? あっ、えっ!? あっ!! 申し訳ございません!! 吉田さんも、すみません!! 後ですごく良いところの羊羹をお持ちして! 改めて謝罪に伺いますので!!」


 他人の家のように感じたドアは他人の家のドアだった。



 どうにか身重の嫁さんと合流する事ができた、南雲さん。

 京華さんに駆け寄って体調の確認をすると、頬が赤く息は荒かった。


「だ、大丈夫ですか!? もうずっとこんな感じですか!?」

「あ、ああ……!! 今な」


「は、はい!」

「どのカメラを持って行こうか考えていた! そうしていると、なんだか興奮して来てな……!! やっぱり、アングルを考えると2台は欲しいと思うだろう? なぁ!?」


「えっ!? 撮影するんですか!?」

「するだろう!! そんなもの!! 人生で1度しか……あ、こいつぅ! 次もあるから慌てるなと、そう言いたいのか? ……ば、ばば、バカ者め」


 予想よりもずっと余裕のある京華さん。

 そりゃそうである。


 この人はこの世界で最初に女傑と呼ばれた、日本本部を率いる上級監察官。

 うっかり大吾に師事してしまった事だってあるし、過酷な任務だって幾度となく乗り越えて来た。


「待て! 修一! まだカメラが!!」

「瑠香にゃんくんのカメラで撮ってもらいましょう!!」


「ほう? こいつめ。頼りになる……!!」

「私のセリフですよ、それは。もっと体の事とか考えてください。余裕があるなぁ」


 京華さんをお姫様抱っこして、いざ。

 マンションの屋上へ。

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