第1377話 【エピローグオブ逆神六駆ファーストステージ・その3】大学生だ! 逆神六駆!! ~急に時系列を乱し始めるエピローグ時空~

 大学生とは。

 行くも帰るも、知るも知らぬも逢坂の関。

 人の生涯を賭しても得られないであろう圧倒的な情報で溢れており、それを拾うか、無視して往くかは個々人の判断に委ねられるというボーナスステージ。


 就活の面接では挨拶代わりに繰り出される「学生時代に最も力を入れた取り組みはなんぞや?」であるが、そんなもん「全部です」と答えは決まっている。

 1番は2番以下よりも上位だから1番。

 だけれどもナンバーワンが1つとは限らないのが大学生。


 やりたい事をやりたいように、やりたいだけする。

 それが許された時間である。


 大学生といえばこの世界ではクララパイセンが真っ先に出て来るものの、彼女だって自分の稼いだ金で自分のやりたいように無意味な学生生活を延長エンジョイしているのだから、「なにやってんねん」と困惑するのは良くとも「バカ野郎が。お前もう船降りろ」と命令する権利は哀しいかな、誰にもないのである。

 自分の一生、自分の財産、自分の時間、自分の学生生活。


 パイセンだってこの先、どこかのステージでひょっとしたら聞かれるかもしれない。

 「大学生の頃って何してました?」と。

 そしてそんな時、諸君がもしも彼女の近くにいたとしたら、声を大にして言ってあげて欲しい。



 しゃらくせぇ事を聞くんじゃねぇ。



 さて、久しぶりに時系列が乱れて、本日は4月の第2月曜日。

 日須美大学の入学式である。


 初々しいスーツ姿で期待に胸を膨らませているカップルがそこにはいた。


「うわぁ!! いよいよ僕たちも大学生だよ! 莉子!!」


 胸膨らませてワクテカな六駆くん。


「えへへへへへへへへへへへ!! わたしも六駆くんとお揃い!! 南雲さんに無理言ってお願いして良かったぁ!!」


 胸膨らませているが、多分そこはおっぱいじゃなくて横隔膜。

 また4年間六駆くんと同じ学び舎にいられることが嬉しい。

 既に大学生としての動機がちょっと怪しい莉子ちゃん。


「六駆ぅぅぅぅぅ!! パパがここで見てるよぉぉぉぉ! ほれ、こっち向けよ、おい!! 莉子ちゃんの母ちゃんにも頼まれてんだよ!! ビデオ撮って来てってよぉ!! ぐへへへ! 1万円もらっちまった!! 車代だってよ! ここには『ゲート』で来たから丸儲けじゃい!! ちょっとこっち向いてチューしろ!! 六駆ぅぅぅぅ!!」


 この後「ふぅぅぅぅぅぅん」が飛び出して、新入生代表挨拶よりも目立ってしまった逆神六駆。

 南雲さんが午後から羊羹を持参して謝罪に伺う旨を決めた瞬間、我らが主人公の新たな学びもスタートした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 六駆くんと莉子ちゃんは人間社会学部。

 主に心理学を専攻する予定なのは六駆くんが高校在学中の頃から決めていた事。


「えっ!? 単位って42までしか取れないんですか!? こっちはお金払ってるのにですか!? じゃあ学費を倍積むので、もう少し履修させてください!!」


 入学式が終わるとその足で諸々の資料を受け取る。

 翌日には新入生に向けたオリエンテーションを取り行われる。

 日須美大学では学籍番号の順番でいくつかのクラスに分けられて実地されるため、逆神六駆と小坂莉子はここでも離れ離れにならない。


 これがカップル力。

 ラブコメの煌気オーラである。


 担当講師が困ったように頭をかいて「ふざけんなよ! こっちは金出してんだぞ!!」と迷惑客の常套句でコーティングした「もっと勉強させろ!!」という勤勉な学生の独りシュプレヒコールに応じた。


「いやぁ。何というか。ルールだからねぇ」

「えっ!? 日須美大学って私立ですよね!? 安くない学費払って、心行くまで勉強させてもらえないんですか!?」


 厄介おじさん、逆神六駆。いつ振りかの再臨。

 言ってる事は意欲に満ち満ちているのに、言われる側からしたらクソ迷惑。


「あ、ちょっと待ってね? 単位は取得できないけど、聴講という形で講義を受けるのは問題ありませんよ? ただ、それは履修していないと単位として認められないから、場合によっては2年続けて同じ講義を受けたりする事になってね。無駄になるかもしれないっていうだけで」

「えっ!? そんな事が許されるんですか!! うわぁ!! 最高じゃないですか!! 人の5倍くらい勉強しても学費は同じなんですか!? うわぁ!! お得!! 1年目に予習、2年目に復習ができるんですか!? ありがとうございます!!」


 六駆くんは探索員の身分を隠しておらず、なんならキャンパス内に門を生やしてミンスティラリア魔王城からダイレクトにやって来ているので周囲の学生の注目はどうやったって集まるに決まっているが、このパッショナブルでアグレッシブ、センセーショナルな問答で「なんかすげぇヤツがいる」と完璧に同輩たちから認識されるに至った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして履修登録期間がやって来る。

 大学にもよるが、だいたい4月の中頃から下旬に設けられており、自分に合った、あるいは自分の興味惹かれる、そんな講義を見つけて登録して学生課に提出するのだ。


 浮足立って「ヒャッハー!! 大学生だぜー!! そんな最初っから履修だなんだって眠てぇこと言ってられっかよ! こっちは入試が終わってプレッシャーから解放されたってのによぉ!!」と迸る衝動に身を任せると、その者はだいたい6月くらいから見かけなくなり留年コースか、休学からの中退コースが待っている。

 迸るなとは言っていないのだ。


 まずは学生の本分をこなしてから迸ろうと言っている。



「にゃはー!! 4月は出会いの季節だぞなー!! ハロハロにゃー。ボイチャ、イケますかにゃー? あたしジャパンの大学生ですにゃー!!」


 パイセンだって本年度の履修登録は済ませている。

 済ませてから引きこもってネトゲしている。



 六駆くんは厳選した履修科目を3回ほど見直して「よし!!」と力強く頷いた。

 莉子ちゃんも全講義を一緒に取るのかと言えば、答えは意外にもノー。


 「だって同じ大学に通うんだもん! 会いたい時に会えるもん!! 六駆くんのお勉強の邪魔しちゃったら悪いし!! わたし、デキた奥さんになりたいし!! えへへへへへへへへへへへ!!」と旦那に過干渉はしない嫁の修行を開始する。

 よって、莉子ちゃんは無難に前期は20単位ほど履修登録。


 六駆くんは40単位ほど履修登録。

 学生課のお姉さんに「あ、あの。大丈夫ですか? ガイダンス、ちゃんと聞いてました? 後期に履修できる単位、もう2しかないですよ?」と震えながら質問されたが「あ、はい!!」と元気よく答えた。

 お姉さんは「いるのよね。毎年。こういうルーキーが」とハンター試験でメインキャラを侮って自分が最初に脱落する人みたいな感想を抱いたというが、口には出さなかった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ここから始まる、逆神六駆のワクワク大学生タイム。

 思わずスキップしちゃう。そんな彼の肩を叩く者がいた。


「ん? どなた?」

「オレ、中島ってんだ! なぁ、お前って探索員なんだろ? すっげぇ稼いでんの?」


「まあ、それなりにって感じですかね」

「顔も結構イケてるしよ。どうよ? 明日とか、時間ある?」


「仕事は入ってないですけど」

「マジか! じゃあさ、合コン行かね!? 新入生だけで3対3の合コン! 男のメンツがあと1人足りなくてさ!! お前目立ってたし、掴み完璧じゃん!」


 六駆くんは考えた。

 もはや現世復帰後の「メールとラインって何が違うの!? ねぇ、莉子ぉ!!」と叫んでいた頃の彼ではない。

 合コンの意味も、その役割も、熟知している。


 だから六駆くんは考えた。

 そして答える。



! ぜひ!!」

「マジか! 逆神、お前結構ノリいいな! じゃ、明日! ラインするからID教えて!!」


 「磯野、野球しようぜ」と言っておけば。

 雉も鳴かずば撃たれまいを地で行く男。中島くん。



 次回。

 合コン事変。


 降る雨の色は赤か、黒か、それとも苺色か。

 桜は咲くのか。裂いて散らされるのか。

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