第1378話 【エピローグオブ逆神六駆ファーストステージ・その4】出るか!? 合コン、事後報告!! ~とても平和な大学生・六駆くんの日常~

 その日、魔王城の自室からいつもより30分早く出て来た六駆くんは珍しく思案顔だった。


「あら。六駆さん、今日はいつもより早いですのね。おはようございますわ」

「ちょうど良かった! 小鳩さん!! 困ってたんですよ!!」


「ええ……。わたくしでお役に立てますの? 自信がなさ過ぎて震えますわ……」

「実はですね。何を着て行こうか考えてて。小鳩さんってオシャレじゃないですか! ちょっと見繕ってもらえます?」


 小鳩お姉さんが5秒ほど呆気にとられてフリーズして、可愛らしく口を開けてポカーンとした。

 我に返って胸の前で手を合わせる。

 嬉しそうに。


「まあ! まあまあまあですわ!! 六駆さんがファッションについてお悩みですの!? わたくし、お金の事か莉子さんのお怒りを鎮める事か、どちらかだと思っておりましたわ! んもぅ、わたくしったら! はわわわわわわですわ!! 六駆さんがオシャレを……。そうですのね。大学生ですものね……」


 喜んだあとにはちょっと涙ぐんだ小鳩さん。

 「ここはわたくし、立つ時ですわ」と腕まくり。


 ちなみに4月時点での小鳩さんはあっくんと致していないものの、それ以外は別の時空の小鳩さんとほとんど変わらないという時系列変化にも強い、頼もしい存在。


「六駆さんはお洋服、どれだけ持っておられますの?」

「ジーパンとTシャツとパーカーですね!! あと親父がくれた汚いジージャン!!」


「……ohですわ。ちょっと『ゲート』出してくださいます? あっくんさんのお宅に行って参りますわ」


 そう言って光り輝く門の中へと消えて行った小鳩さん。

 10分ほどで帰って来た。



「逆神ぃ。てめぇ、朝っぱらからなんだぁ? 大学に着ていく服がねぇだとぉ? くはははっ!! 良かったなぁ! てめぇ、俺と身長体重ほとんど同じでよぉ!! おらぁ! このクソ芋大学生野郎がよぉ!! そこに立ちやがれぃ!! この阿久津様がてめぇをコーディネートしてやらぁ!!」

「あらあら、うふふですわ!!」


 嫁さんに事情を聞いたら土曜の朝6時前なのに「ちっ。待ってろぃ」と自分の服を何着か持って現場にやって来てくれた、自称悪者。



 あっくんは割とオシャンティーな男子。

 服買う時はセレクトショップとかにも行っちゃう系男子である。


「そうだ! 良いこと思い付きましたよ! ジーパンにジージャンってどうですか!?」

「ちっ。なんでよぉ。同系色のデニムにデニム生地合わせんだ、てめぇ。んな上級者向けのファッションに手ぇ出すんじゃねぇ。……てめぇの手持ちのジーンズに、こっちの赤のボーダーシャツ着てよぉ。で、黒のハーフジップニットを合わせろぃ」


「うわぁ! 何言ってんのか分からないや!! ありがとうございます!!」


 ジーンズにジージャンデニムオンデニムは高ランク。

 これだけ覚えておけば大丈夫。


「ちっ。ハーフジップのジッパー一番上まであげてんじゃねぇ。差し色の意味がねぇだろうがよぉ。あとは適当にスニーカーを合わせりゃ、その辺にいても恥ずかしくねぇ大学生の出来上がりだろぃ」

「まあ! ステキですわ! 六駆さん!! あっくんさんの見立ては完璧ですわね!!」


 オシャレ六駆くんが爆誕した。


「これで恥かかずに済みますよ! 小鳩さん! あっくんさん! 助かりました!!」

「いいんですのよ!! 六駆さんが常識的な大学生みたいに見えて、わたくしとってもはわわわわですもの!」


「確かになぁ。おめぇの親父知ってると、ブルドッグ背中に付けたジャージでどこでも行きそうな気がするもんなぁ。……で? なーに色気づいてんだぁ? くははっ! さては合コンにでも誘われたかぁ?」

「そうなんですよ!! さすがだなぁ! あっくんさん! 服買いに行かなきゃと思って早起きしちゃったので、お昼まで南雲さんのところで時間潰してから行きますね! ありがとうございました!!」


 六駆くんが日本本部に繋がっている門の中に消えて行った。

 言葉を失くしていた小鳩さんとあっくんが見つめ合ったまま、ようやく動き始める。


「よぉ。小鳩ぉ。俺ぁ帰るぜぇ?」

「お待ちになってくださいましぃ!! これアレがナニするヤツですわよね!? わたくし知ってますわ!! 5分だけでいいんですの! ちょっとだけ待ってくださいまし!!」


 早朝の魔王城。

 ギィィと不穏な音を立てて扉が1つ開いた。


 時間的に芽衣ちゃんかノアちゃんか。

 あるいは小腹を空かせた寝る前のどら猫か。

 瑠香にゃんはコンセントに挿さっている時分であるし、3人のうちの誰かに違いない。



「ふぁっ? 合コンって聞こえたんでしゅけど!? 六駆くんが!?」

「俺ぁ帰るぜぇ!! 小鳩ぉ!! おめぇも一緒に逃げるんだよぉ!! 急げ!!」


 描いた夢は叶わないことの方が多い。

 描いた嫌な予感は割とズバピタでヒットすることの方が多い。



 それからあっくんは莉子ちゃんを宥めて宥めて、宥め尽くして、気付いたら夕方だったという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 夕方になったら帰って来たのが六駆くん。

 まさかの合コンシーンを全カット。


 下手したら致しちまった可能性すら残る、シュレディンガーの逆神六駆。


 まだ夜じゃないのに夜の戦をしたのだろうか。

 最強の男は丸いベッドの上でも最強だったのだろうか。


 「想い人と致す前に初めてだったらアレがナニするかもしれんので、一旦DTをどっかで捨てて来る」とは、古来から耳にする手法の1つ。

 めぞん一刻で見たことがある。五代くんがやってた。


「逆神ぃ……。てめぇ……やっと帰って来やがったかよぉ……」

「ろ、ろろろろろ、六駆きゅん……!? あの、わたし……。ごめんね! わたしに魅力がないんだよね!! いいの、わたし浮気されても知らないふりするから!! だから捨てないでよぉ!!」


 莉子ちゃんがいつも怒りに任せてリコリコすると思ったら大間違い。

 メインヒロインですぞ。


 恋する乙女は時に社会通念上の公序良俗離婚案件にも盲目的になるのだ。


「えっ!?」

「……誤魔化されたよぉ」


「あ、ごめんごめん。結局ね、すぐに帰って来たんだよね! 合コン? なんか話が合わなくてさ。僕ってやっぱり中身はおじさんなんだなーって実感したよー」

「う、嘘だよ!! じゃあなんで!? もう5時だよ!? あっくんさんの話を総合すると、開始時間ってお昼の1時過ぎだったでしょ!?」


 ちょっとだけ面倒くせぇ女の子になるのもメインヒロインの特権。

 六駆くんは悪びれもせずに答える。


「桜を見て来たんだよね! 『基点マーキング』作ってたんだよ!」

「さくらって女の子とナニしたの!? マーキングしたの!? されたの!?」


「あ。ほら。肩についてた! 莉子に見せてあげようと思って目を付けてた大きな桜の木があってさ! 今年って開花が遅かったから、ちょうど散ってるタイミングでね! 桜吹雪が綺麗だったよ! 莉子、今って暇? 暇だったらこれから見に行こうよ!」


 あっくんから借りた服にくっ付いていた桜の花弁を莉子ちゃんに差し出して、笑顔を見せる六駆くん。


「永遠に暇でしゅ!! 六駆くん、しゅき!!」

「そう? 良かった! じゃあ行こうか! ふぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 『ゲート』!!」


 六駆くんが莉子ちゃんと手を取り合って門の中に消えて行った。


「……小鳩ぉ。久坂のじい様の庭の桜も結構良い感じに散り始めてんだよなぁ。夜桜見物でもするかぁ」

「いたしますわ!! あ、いえ! 今のいたすは致すではなく! いたしますといういたすですわ!!」


「……さて。やっと帰れるぜぇ。猫どもぉ。晩飯はてめぇらで調達するんだなぁ! 小鳩は今日遅くなるからよぉ! くははっ!!」


 六駆くんのその後のお話は一旦ここまで。

 そして繰り返すが、この時系列ではまだあっくんと小鳩さんは致していない。


「にゃはー。致してても致してなくてもたいして変わらんぞなー」

「にゃーです」


 メタい事は猫たちに任せておけば良い。

 世界というのは結構、単純にできている。


 男と女の関係もまた同じかもしれない。

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