第1376話 【エピローグオブ逆神六駆ファーストステージ・その2】気ままにお仕事! ~ついに(そこまで)お金に執着しなくなった(みたいに見える)最強の男~

 まずはアメリカ探索員協会の本部からお届けしよう。

 ジャック・クレメンス上級監察官、この半年の間にお誕生日を迎えて63歳。

 そんなアメリカ探索員の長がそろそろ帰りたそうにしていた。


「アームストロングくん」

「はい。上級監察官。レモネードですか」


 この山根くんから愛嬌を抜いて冷たさをマシマシチョモランマにしたみたいな男はアームストロングオペレーター。

 基本的にいつ見てもアメリカ本部の司令室には彼がいる。


「いや。私は帰って妻の焼いたピザを食べたい。レモネードはその時でいい。君も1度招いてあげたじゃないか。我が家に」

「ええ。奥様は想像よりもずっとお太りになられておられました。日頃から食にはこだわりがあるのですね。ピザは美味しかったです」


「歯に衣を着せろ!!」

「これは上級監察官。日本語がお上手になられましたね」


「娘の彼氏が日本人だって言っただろう」

「ああ。あの痩せておられる方の」


「痩せておられる方ってなんだ!! 私の娘は1人だけだが!? 貴様! さては太っているか痩せているかで私の妻と娘を判別してるのか!? もう2度と呼んでやらんからな!! 腹の立つ男だ!! ふっとい腕しやがって!!」

「ところで南雲上級監察官から連絡がありました。ロッキー山脈について私どもは何も存じませんが、子飼いの部隊を派遣したので大穴の対応をさせて頂きます。との事です」


 クレメンス上級監察官がコーヒーを啜ってから感想を口にする。



「日本人というのは世界で1番親切な種族なんじゃないか?」

「左様ですね」


 国際問題を起こしたのも日本本部。

 国際問題を解決するのも日本本部。

 日本人は勤勉で親切で礼儀正しく、言わなくて良いことは言わない。



 「だったら作業完了の連絡が来るまで待つか」と椅子に座り直したクレメンス上級監察官。

 アメリカ人と日本人の友好関係はこうして深まっていく。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 現場のロッキーダンジョン跡地にいる六駆くんたちの様子はどうか。


「これ、周りを僕が殴って崩すからさ。瑠香にゃんがビームで平らにして終わりにしようか?」

「グランドマスター。それをすると煌気オーラ反応が残ります」


「呉のばあちゃんたちの煌気オーラ反応が残滓って言うのも厚かましいくらい残ってるし、いいんじゃないかな?」

「にゃっはー! 六駆くん、六駆くん! ダンジョンの残骸殴ってるとこのデータ採られて、あれ? こいつらのパワーだと、穴空けたのもこいつらだな? って思われるのはまずいぞなー」



「うわぁ! クララ先輩、あったまいいなぁ!! じゃあ瑠香にゃんに全部任せましょうか!!」

「瑠香にゃん、正式な探索員として登録されてないもんにゃー。バレんぞなー」

「ステータス『兵器が負の心を持ちそう』を獲得しました。左のおっぱいに格納します」


 すぐに作業は終わりそうである。



 瑠香にゃんが『瑠香にゃんドリル』に右手を換装させて削岩を始めた。

 ガガガガガガガと心地よい地鳴りが響く。


「瑠香にゃんってさ。経済学部だよね? 僕、後期は他学部履修でそっちの講義もいくつか受けたいんだけど、何かおすすめある?」

「ステータス『瑠香にゃん働かせている状態で雑談が始まった』を獲得しました。アプリケーション『ぽこますたぁに投げる』を実行します。瑠香にゃん、まだ大学生になって1ヶ月です。ぽこの方が詳しいです」


 瑠香にゃんのリソースは穴埋め作業に割かれているので、ロボ子とはいえこのくらいのミスは致し方ない。

 致し方ないが、どら猫に「おすすめの講義ある?」と聞くことの無意味さ。

 味のなくなったガムだってまだ「噛める」という役割くらいは与えてあげられるが、どら猫は「にゃはー!!」と鳴いたら終わる。


 嚙んでも嚙んでも味のしないスルメ。

 それはもうプラスチックか何かではなかろうか。歯が折れる。顎が疲れる。


「六駆くん、六駆くん。楽して単位取れる講義を先輩に聞くのが正しい新入生のやり方だぞなー?」

「僕、別に単位いらないんですよね。というか卒業しなくてもいいし。飽きたら辞めるでも全然問題ないんですよ。今はとにかく知らない事を教えてもらえるのが楽しいんです。大学って良いところですね!」


 この時、クララパイセンは心の底から震え上がった。

 胸部もプルプルを通り越してバルンバルン震えた。

 どら猫には六駆くんの言っている事の意味が分からない。

 それが果たして日本語なのか、知っている言語なのかの判別もつかなかった。



「にゃはー!! 工学部にある売店のソフトクリーム、ラインナップがものっすごく豊富でおすすめだにゃー!!」

「うわぁ! さすがクララ先輩だなぁ! 今度、莉子を連れて行ってあげよう!!」



 そしてクララパイセンは考える事をヤメた。

 もうおっぱいは震えなくなった。


 危険思想は去ったのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 瑠香にゃんが1人で、いやさ1機で、1匹で頑張って岩盤を破壊して回った成果が形として現れたのは15分後だった。

 これを「すげぇ! 速ぇ!!」と見るか、「瑠香にゃんなら2分でイケたやろ」と感じるか、如何様な感想を抱くにしても、それは見た者にしか与えられない特権。


「えっ!? 大学の近くに800円で食べられるトンカツ屋さんあるんですか!? ご飯とお味噌汁とキャベツはおかわり自由なんですか!? それって莉子にも適用されます!?」

「ラグビー部とかアメフト部の人も行っとるらしいから平気だぞなー。六駆くん、六駆くん! これ、貸しにしとくにゃー!!」


「ありがとうございます!! いつも学食で済ませると莉子のしょんぼりした顔を見なくちゃいけないので! かわいそうになるんですよね。後期が始まったら連れて行きます!!」

「にゃっはっはー!! 大学に行ってご飯食べて帰る!! これがあたしのやり方だにゃー!! どどん!!」


 どら猫の鳴き声をメモしているグランドマスター。

 にゃーにゃー鳴いて立派過ぎる胸を張るぽこますたぁ。

 瑠香にゃんは悟った。


「ステータス『ここは瑠香にゃんに任された』を獲得。瑠香にゃん砲、チャージ開始します。充填率31%。もうこれで良いです。照射モードに換装します。……発射しました。良い感じに岩が溶けたので穴がなくなりました。ミッション完了です。ステータス『こいつら気付いてもない』を獲得。帰ってご主人マスターに言いつけます」


 そして六駆くんの懐には200000円が入る。

 瑠香にゃんはロボット人権について少しだけ深刻に悩んだという。


「あ。終わった? じゃあ帰ろうか!!」

「にゃはー! 楽な仕事だったぞなー!!」


「ステータス『これが人か』を獲得」

「あ。そうそう。瑠香にゃん」


「はい。グランドマスター」

「南雲さんからもらうお金、全部あげるから。それで莉子たちとイオンに行ってさ。一緒に服でも買って来なよ」


「………………………………? ………………………………??」

「えっ!? だって僕、何もしてないじゃない!!」



「ステータス『綺麗なグランドマスター』を確認。これが隠居。瑠香にゃん、隠居したくなりました。瑠香にゃんも綺麗になりたいです」

「にゃはー!! 瑠香にゃん、瑠香にゃん! あたしと毎日過ごしてたらそれ、もうほとんど隠居しとるようなもんだにゃー!!」


 六駆くんは綺麗になった。



 この世界の歴史と共に汚い、綺麗、汚いと白くなったり黒くなったりを繰り返し、ついに漂白剤にじっくり漬け込んだみたいな白さを手に入れた逆神六駆。

 それでは学ぶことの喜びに目覚めた最強の男、その瞬間を見に行こう。


 プレイバック。4月。

 大学デビューしたての逆神六駆。


 次回。

 でぇ学生だ。逆神六駆。

 ぜってぇ見てくれよな。

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