第1367話 【エピローグオブ辻堂甲陽・その2】辻堂甲陽VS氷鬼のガリガリクソ ~恐ろしく速い仕合。諸君でなきゃ見逃しちゃうね~

 氷鬼のガリガリクソ。

 なんでクーデターに加担したのか、そもそもなんで八鬼衆オーディションで審査員の煌気オーラ核をぶっこ抜いて大量殺人未遂を犯したのか、もっと言えばなんでバルリテロリで投獄されていたのか。


「むぅぅぅぅん。ゼラチンのヤツがバルリテロリを裏切っておった。しかし、そのおかげで脱走できた。馬鹿なヤツめ。私はバルリテロリのセキュリティなら知り尽くしているのだ。うぅぅぅぅむ。しかしこの世界は本当に暑いな。気温を下げるところから始めるか」


 ちょっと出てすぐ退場したヤツを再度登場させる時ほど世界が労力を浪費する事もない。

 お忘れの方しかいないガリガリクソ復習タイム。


 ガリガリクソは雷門さんに吸収されて雷門クソさんになり、その後で雷門クソさんが木原さんと合体してゴリ門クソさんになり、そこから雷門さんだけが弾かれて木原クソさんになった。



 諸君。

 このスピードについて来られているだろうか。



 木原クソさんが分離するためにルベルバックのゴリ門宮に入れられていたのがちょっと前。

 詳しくは木原クソさんのエピローグをご覧いただきたい。


 そこでついに分離を果たした木原さんは現世に帰ったが、ならば剥がれ落ちたクソの部分はと言えば「軍事転用できそうです。キャンポム閣下」と仰ぐ旗を変えた元バルリテロリ八鬼衆の次点、不飲のナタデココがいらぬアドバイスをキメる。

 そして倫理観が割と欠如していて軍事転用が大好きなルベルバック。


 キャンポム少佐が「敗残兵とは実に無常なものだな……」と呟いた後で「なんかいい感じの氷属性の兵器を作ること、許可する。ナタデココ殿」と後ろ手に組んでゴーサインを出した。

 キャンポム少佐は文官として有能であり当地の代理総督の任を立派にこなしているのは諸君も知っての通りだが、ついこの間の事である。


 リコタンク・マークⅢであっくんのメンタルをゴリゴリに削ったのもキャンポム少佐。

 まったく、戦争を商売にするとは無常の至り。


 そして今回、ゼラチンことナタデココが作った牢獄から「よし来た! チャンスだ! 生き返れ、私!!」と脱走したのがガリガリクソ。

 「これは手に負えん」とすぐに日本本部の南雲さんに救援要請を出したのがキャンポム閣下。


 「忙しいから久坂さんお願いします」と丸投げしたのが南雲さん。

 地区の清掃活動に参加していて不在だったのが久坂さん。


 するとどうなったか。


「かっかっか!! 異世界ってのはいつ来てもワクワクするってなもんだねえ!! いっちょ刀の錆落としといくかい!! ゲームも良いが、仕合は本物に限らあ! 腕が鈍っちまう!!」


 日本本部でも扱いあぐねている重要容疑者が出動した。

 ここまで名の出た責任者が誰ひとりとして知らぬところで。


「にゃはー!!」

「にゃーです」

「ふんすー!!」


 チーム莉子の乙女3人と一緒に。


「ぽこ。お伝えしておくことがあります」

「なんだにゃー? 安心するぞな! 瑠香にゃんにもノアちゃんにも、南雲さんから貰えるお給料はちゃんと山分けするぞな!! あたしはガチャ回すんだにゃー! 人のお金で回すガチャは最高だにゃー!!」


「ステータス『現時点で最高責任者はぽこになってる』をぽこに付与します。無駄に大きなおっぱいに格納してください。ハゲマスターが何かをやらかしたら、その瞬間ぽこの責任になります。何故なら瑠香にゃんはただの兵器だからです」

「ふんすっ!! ボクは後輩なのでどこに行っても序列最下位です!! ふんすふんす!!」



「にゃん……だと……。辻堂さん! 辻堂さん! まずは作戦会議す」

「おっ! 奴さん、砂漠のど真ん中にいるじゃあねぇの! 修一の寄越したデータを瑠香にゃんに見せてもらっといて正解だったねえ! 行くぜ!!」


 あっくんが昼間っから乳繰り合ったのはこのためだったか。



 クララパイセンは指揮していないが、久しぶりに『チーム猫』が出動した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 砂漠は身体の大半が氷で構成されているガリガリクソには暑いので、とりあえず氷河期をお迎えすべく広域展開で氷結属性のスキルをブリブリ発現していた氷鬼に向かって、辻堂甲陽が久坂さんちの倉庫から勝手に持って来た刀を振りかぶり吶喊。


「うぅぅぅむ!? 誰だ!?」

「かっかっか! 器用な事をしやがるじゃねぇか! 氷で刀を創ったのかい!!」


 まだルベルバックに「こちら瑠香にゃんです。現着しました」と『チーム猫』の事務手続きも済んでいないのに、斬り結んだ2人。

 ガリガリクソは氷結属性特化の男。

 氷鬼の異名通り、氷を使わせれば悪鬼羅刹の如き強さを誇る。


 ゴリ門クソさんが強かったと言えば、説得力もきっとどこかから生えて来る。


「かぁぁぁ! 冷たいったらねぇや!! おめぇさん! 得物持ってる手をかじかませるったあ! 策士だねぇ!!」

「うぅぅぅむ。……だから貴様は誰だ!?」


「名乗ると叱られるんでねぇ! 語るのは刀でって事にしようや!! 『断絶ブレイク』!!」

「無粋な男め! むぅぅぅぅぅぅん!! 『不味い赤い氷ナポリタン・アジ』!!」


 ガリガリクソがトマト味の氷柱を構築して辻堂さんに突き出した。

 それを見て露骨にガッカリしたハゲマスター。


 氷柱を雑に斬り落としてから言う。


「おめぇさん……。出て来る順番からハブられた口かい? 出て来んのが500は遅え!! 冥途の土産にくれてやらあな!! 『でぇ断絶ブレイク』!!」

「うぅぅぅぅぅっ!? 体が溶ける!! ちょっと待て!! 私はまだ特に悪い事をしていない!! それでも殺すというのか!?」


「ああん? おめぇさん、そりゃあねぇだろう。刀を抜き合ったらもう、そいつぁ仕合の合図ってえもんだ。恨みっこなしだぜ」

「ちょっと脱走しただけなのに!! そんな馬鹿な————ことが————あって良い……のか……」


 自分も人殺しまくってるヤツに限って、死に際で道徳を語りがちである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 視力強化して様子を見ていたクララパイセンが指示を飛ばす。


「瑠香にゃん! キャンポムさんに終わりましたにゃーって連絡するぞな!!」

「オーダーを承りました。こちら瑠香にゃんです。キャンポム閣下。終わりましたにゃー」


「ノアちゃん! 南雲さんにうっかり辻堂さんがやっちまったぞな! だけど結果オーライだからちゃんとお金くださいにゃー! って連絡するぞな!!」

「ふんすっ!! 今日のクララ先輩から逆神先輩みを感じて興奮しますね!! やっぱり理不尽ってすごく興奮してふんすです!! あ、ナグモ先輩! ふんすです!!」


 キャンポム少佐からは「貴官らの奮戦に敬意と感謝を」と返信があり、南雲さんからは「うん。何言ってるのか分かんないけど、私がスカレグラーナ訛りで呼ばれるって事は始末書が増えるんだね? ありがとう、ノアくん」と返礼があった。


 そこに戻って来た辻堂さん。

 彼にどうしても聞きたい事があって、どら猫が鳴いた。


「うにゃー。辻堂さん、辻堂さん」

「おうおう。なんでえ?」


「なんでスキル使えたんですかにゃー?」

「ん? そんなもん、50年前から使えらあな」


「ノンノン、ノノンだぞなー。普段ってお出かけする時、なんか手錠みたいなのしてるぞな? ダンジョンのお仕事もその状態でやっとるにゃー?」

「おー。言ってなかったかい? 剣友が鍵隠してる場所、知ってんだよ。俺ぁ。玄関のマットの下な。クララが行こうって言うもんだから、そいつでちょちょいのぱっぱよ! かっかっか!!」


 帰った後で久坂さんにものすごく怒られたパイセンと辻堂さんであった。

 ちなみに今回の働きで元ハゲの扱いがより複雑になったのだが、その話はまあ良いか。


 辻堂甲陽、今日も元気です。

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