第1366話 【エピローグオブ辻堂甲陽・その1】侍と猫と猫と後輩による仕合(モンハン) ~からの、リアルにひと狩り行こうぜ!!~

 ピースの最上位調律人バランサーたち。その処遇は甘すぎるのか。

 これはこの世界における大きな疑問の1つ。


 ラッキー・サービス氏は全然改心していないが、もとより改心するくらいなら何十年もかけてピース組閣の準備をしていないであろう事を考えるとたかが1年にも満たない時間で考えが変わる方がおかしいので、そこは置いておこう。

 バルリテロリ戦争ではノアちゃんに練乳で釣られて、芽衣ちゃんに心酔してという注釈は入るものの、挙げた戦功は大。

 氏がいなかった下手すると負けていたかもしれない。


 ライアン・ゲイブラム氏。

 氏も「ワンコとにゃんこと世界の平和」というある意味では高潔過ぎる理想のために腐敗した国協から仰ぐ旗を変えた男。

 そしてサービスさんと同じくバルリテロリ戦争での戦功は大。

 現在は逆神流の門弟でみつ子ばあちゃん旗下と所属を移しており、これはもう治外法権なので裁く裁かざるの問題からもテイクオフ済み。



 玉ねぎはやった事が最もアレだった分、お仕置きも極めてアレだったので割愛。



 そこで辻堂甲陽である。

 この男、次元を裂くスキルの使い手。

 うっかり次元の狭間にぶっ刺さって長いこと仮死状態になっていたところをペヒやんが回収して、ついでに若返らせた事に恩義を感じてピースの理念とかその辺をちゃんと理解しないまま「まあ、強いヤツと仕合えるなら良いか!」という、きたねぇ悟空さみたいなノリで最上位調律人バランサー、最後の一角にスッと収まる。


 辻堂さんの面倒くせぇところは元が日本本部の初代上級監察官という経歴と、きっと諸君は忘れているだろうが、次元の狭間にぶっ刺さった原因がバルリテロリの第一次侵攻に相対した際の作戦行動中行方不明という事実。

 もちろんノリで「よおよお! 剣友! 久しいじゃねえの!!」と久坂さん率いる久坂隊とガチで殺し合った件は目を逸らすにはちょっと大きすぎる。


 だが、「ほとんど死んでところを助けてもらって、ついでに40歳分くらい若返らせてもらえて、ハゲてたのに髪まで生えた」とあっては「うん。それは確かに恩義を感じて与するのも致し方ないかもしれん!!」と頷いてしまいそうにもなる。

 とはいえ、組織を運営するで例外を認める事は常にリスクと隣り合わせ。

 特に元上級監察官という地位は、ともすれば忖度とも受け取られかねず、そのため先代上級監察官の雨宮さんは「あららー」と見て見ぬふりをキメていた。


 現在、辻堂甲陽は特に役職もなく、かといって罰則もなく、重要容疑者の立場であるまま「久坂剣友監察官の預かり」という割と誰にも文句言わせねぇ謎の存在として今日を生きている。


「かあー!! なんでえ!! 俺が今剥ぎ取ろうとしてるってのに!! なんでこの恐竜はガスガス蹴って来やがるんでい!?」


 モンハンやりながら。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 本日。

 久坂さんは町内会の清掃活動で午前中から留守にしている。

 もう南雲さんですら「あ。別にいいですよ」と問題にしていないが、久坂さんがいないと手枷足枷で煌気オーラを封じられた上、行動の自由は厳しく制限されるはず。


「まったくもうですわ。皆さん、よくゲームに何時間も集中できますわね」

「かっかっか! まあ良いじゃあねぇの! せっかく誘ってくれるってんだからなあ! 年寄りと遊んでくれる若いもんってのはそれだけで稀有ってなもんさ!! なあ!! おめぇさんたち!!」



「にゃはー!」

「にゃーです」

「ふんすー!!」


 留守を預かるメンバーにちょっと不安はあるものの、久坂さんの名代はちゃんと立てられていた。



 久坂さんからも「ハゲは好きにさせちょけばええ。五十五が認めちょるのにワシがいつまでもやいのやいの言うのもなんかのぉ?」と居候認定が済んでいる。

 というか、久坂さん。

 実は敵対していた勢力に対して凄まじく肝要。


 今や息子の五十五くん元アトミルカはもちろん、もう1人の義息あっくんただ悪いヤツ

 今日はみんなで久坂さんと一緒に地区の清掃活動に出かけているバルリテロリ八鬼衆がひとり、爽快のキシリトールとその部下たち。

 そして辻堂さんピース


 一緒に暮らしているメンツで敵対組織じゃなかった者を探す方が大変なのである。

 だったらもう、今更ハゲの1人や2人、目くじらを立てる労力がもったいない。


 とはいえ、ルールは守る。

 厳密には「怒られない程度のギリギリを見極めてルールを守る」のが久坂剣友のやり方。

 「すまんのぉ。夕方まで出かけちょるけぇ、留守番とハゲの世話頼めるかいのぉ?」と声をかけて応じたチーム莉子のメンバーがクララパイセン、瑠香にゃん、ノアちゃんのトリオ。


 ちなみに小鳩さんは家族カウントなので数には入らず。

 ちょっとお待ちよ、五十五くんはバルリテロリの駐在武官だとしても、まだ頼りになる息子はいるじゃないかと仰せになられることなかれ。



「……よぉ。小鳩ぉ。俺ぁ休暇取ったからよぉ。まだ昼だってのになぁ。こんなこと言うのはどうかと思うぜぇ? ただよぉ。なんか最近、すげぇ疲れてんだよなぁ、俺ぁ。……ちっとラブホテルで添い寝でもしてくんねぇかぁ?」


 あっくんはここのところルベルバックとか春香さんとか、面倒事に追い立てられてヘロヘロなのでご容赦願いたい。

 みんながいるのに「乳繰り合おうぜぇ」とか言っちゃうくらいに弱っている。



「はわわわわわわですわ! わたくし、はわわわわですわよ!! ええと……。瑠香にゃんさん! お昼ご飯は冷蔵庫にありますので、温めてお召し上がりくださいまし!! カルピスは冷蔵庫の隣にありますわ! ……失礼いたしますわ!! んもぅ! あっくんさん! んもぅですわ!」


 そして小鳩さんまでいなくなった。


「ステータス『もしかして瑠香にゃんは責任者にされたのか』を獲得しました。ボクマスター。あげます」

「ふんすー!! クララ先輩に受け流します! 大興奮の予感です!!」

「にゃはー!! いらんぞなー!!」


 責任者がいなくなり、4人で行う仕合モンハン

 今日は久坂さんのプレステ4なので、シリーズはアイスボーン。


「おうおう! 俺ぁ剣友がいねぇ間に腕を上げて、あいつを驚かせたいねえ! クララ! 次はどいつを狩りに行くんだい?」

「うにゃー! 辻堂さんは今のところ何も狩れてないぞなー!! オドガロンにするぞなー!! 辻堂さんが食べられるの面白いもんにゃー!!」


 みんなで「次はどこにひと狩り行く?」と話していたら、久坂家の固定電話が鳴った。


「はい。こちら瑠香にゃんです。ステータス『迷いもなく電話応対してる自分が怖い』を獲得しました」

『あー。良かった。逆神くんに無視されて困ってたんだよ! 瑠香にゃんくん! なんで久坂さんの家電に出たのかは分からないけど、助かった!』


 南雲さんからであった。

 続けて氏はこう言った。


『そこに久坂さんいる? 木原さんと分離させた、口に出したら赤城乳業に怒られそうなバルリテロリの戦士ガリガリクソなんだけどね。ルベルバックが処理をミスって逃げちゃったんだって。それで救援要請されたのよ。けど、私はすぐに動けないし。それで久坂さんに行ってもらおうかなって。お給金出すから……瑠香にゃんくん? なんで黙ってるの? 私ね、沈黙されると胃が痛くなるんだけど。瑠香にゃんくん? ねぇ、瑠香にゃんくん?』


 パイセンが立ち上がった。


「みんなー! ひと狩り行くぞなー!!」

「ふんすー!! 興奮するヤツが来ましたね!!」

「かっかっか!! クララ! おめぇさん、俺に働かせて給料だけかすめ取ろうって腹積もりだねえ? 仕方ねぇやな! ひと狩り行くか!!」


 南雲さんの「もしもし!? あれ!? 私また何かやっちゃった!? もしもし!?」と舞台装置としての役割を終えた苦労人の声がしばらくの間、誰もいなくなった久坂家の居間に響いていた。

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