第1365話 【エピローグオブエヴァンジェリン姫・その3】案内された観光地がクソつまらなかった ~外交は多分成功した~

 喜三太陛下は覇道を、皇道を、滞留することなく歩み続けられる偉大なる御方。

 美味しいスイーツで心をほぐしたらば、次はバルリテロリが誇る最もホットな観光地へピュグリバーの姫君をお連れなされるご様子。


 バルリテロリ御料車に乗り込んで向かわれた先は当然こちら。


「ぶーっははははは!! ここはな! ワシの歴史をギュギュっと詰め込んだアミューズメントパーク!! その名も喜三太陛下記念館や!! むっちゃ面白いところやで!!」

「わぁぁ! 楽しみです!!」


 エヴァちゃんは好奇心旺盛なので、本当に楽しみにしている。

 例えばくっそ不味い郷土料理があったとして。

 「これむっちゃ美味いで!!」と言われて出されたらば、口に入れて舌で転がしてモグモグするまでは大半の者がワクワクするだろう。



 口に入れた瞬間に後悔してしまう類のものが存在する事を忘れてはならない。

 諸君のお住まいの地域にもあるはずである。


 なんやこれ。そんな感想の郷土料理が。



 喜三太陛下記念館というバルリテロリにしか存在しない珍味。

 果たしてエヴァンジェリン姫のお口に合うか。


 フライング・テレホ・ボディに換装した四角い男が飛んできたのは、一行が「1歳ずつ年取っていく喜三太陛下像」を順番に見学し始めて、ちょうど27歳の喜三太陛下像の前に到達したタイミングであった。


「陛下。宸襟を騒がせ奉り誠に恐縮でございます。電脳のテレホマン、ここに。お呼びになられましたか」

「おお! テレホマン! 呼んだ、呼んだ! この子な、エヴァンジェリンちゃんって言うんやけどな? 焼きそばパンをあげたらモグモグしとる姿がむっちゃ可愛くてな? 同じモグモグなのになんでロリ子は可愛らしさよりも先に獰猛さを感じるんかなって不思議に思ってな? お前を呼んだってわけや!!」


「は? ……ははっ」


 テレホマンが跪いた。

 続けて小声で答える。


「偉大なる喜三太陛下が分からぬと仰せになられるような難問。私のような四角いくらいしか取り柄のない愚か者には分かりかねます。……殿下。準備整いましてございます」

「ん!? テレホマン!? 今、ワシのこと殿下って言ったけ!? こいつぅ!! うっかり屋さんやなぁ!! ぶーっははははははは!!」


 カウントダウンに入られましたな。陛下。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ほんのちょっと前の電脳ラボ。


「じいちゃん!! 電話で話した通りなんだけどさ、エヴァさんをひいじいちゃんが拉致ってるんだけど!! とりあえず殺る気満々な人たち連れて来たよ!!」

「あらららー。私は穏便に済ませたいんですけどねー。とりあえず、妻を引き取りに来ました。ご無沙汰しております、四郎さん」


「ほっほっほ。六駆から事情は聞いておりますじゃ。さて、テレホマンさんや」



「はっ。自裁の御許しを賜りたくございます」


 皇国の忠臣はすぐ死のうとするので困る。



 テレホマンが「この四角い首ひとつでどうか。どうか、バルリテロリをお救いください。私、肩と首の区別がつかない事をこれほど悔やんだことはございません」と跪く。

 その理由が六駆くんと雨宮さんの後ろの乙女集団にある事は明らかである。


「はっ! はっ! はぁっ!! はっ! はっ! はぁぁぁっ! はっ! はっ! はっ! はぁぁぁぁぁっ! バーバラ武闘団! 過再生の調子は万全でございます! 順平国王様!! どこから攻撃いたしますか!?」


 平和と純潔と隣人への愛が売りの異世界ピュグリバー。

 いつからだろうか。

 そこに一大戦力が生まれてしまったのは。


 今回のバーバラ武闘団は総勢38人編成。

 1人あたりがフルパワー過再生で放つ『黄金の順平国王栄光の拳ゴールデン・グローリー』はだいたい六駆くんの「ふぅぅぅん」くらい。

 「ふぅぅぅぅぅぅぅぅん」ほどではないが、「ふぅぅぅん」でもフルアーマーに換装したテレホマンがバラバラになるくらいの威力。


 それが38人。


 喜三太陛下は死なないだろう。

 だが、復興しているバルリテロリの街並みが再び戦禍に見える事はファイヤーをウォッチングするよりもザッツライトそうかもしれん


「どうしよっか? じいちゃん?」

「ほっほっほ! 実はもう五十五さんから連絡を受けておりましての。準備は済んでおるんですじゃわい。Nテェテェさん」


「はっ。殿下。地図です」


 四郎じいちゃんが旗振り役となって、現在バルリテロリ全土に煌気オーラ回復ポイントを設置中。

 これはつまり、バルリテロリ全土に『基点マーキング』が存在しているという事。

 喜三太陛下記念館の近くにも3つほどポイントはある。


「オッケー!! 僕が『ゲート』出すね!!」

「ワシが行って諫めましょうぞ。うちの愚物がまーた悪さしとる訳ですからの。始末をつけるのは不本意ですじゃが、血の繋がりのあるワシらに一任頂けますかの」


「はっ! はっ! はっ! はぁぁぁ! はっ! はぁぁぁぁっ!! 仕上がっております!!」

「あらららー。おばあ様、ここはアレですよ。四郎さんのお顔を立てましょう。四郎さんは逆神くんのおじいさんですからね。つまり、アナスタシアさんの義理のお父さんですよー。おばあ様、お会いするの初めてでしょー? ねー?」



「えっ。あっ。えっ? えっ!? ……これはお見苦しいところを。お恥ずかしゅうございます。穴があったら入りたいとはこの事でございますね。申し訳ございません。どなたか最寄り交差点か夢の中へ案内して頂けますか? 穴を捜して参ります。こんなとこにあるはずもないでしょうけれど!!」


 バーバラおばあ様、急に先代女王の一親等の姻族と遭遇して冷静に。

 結果、テンションも下がってチャージした過再生煌気オーラもしょんぼり。



「では。殿下。このテレホマンが陛下を羽交い絞めにして爆発いたしますれば」

「ほっほっほ。テレホマンさん。あなたはもっとご自身の価値をご理解するべきですじゃて。いや、言い方を変えましょうかの。ご自身の責務をご理解くだされ。あなたがおられなければバルリテロリはどうなりますかの」


「は? ……はっ。……ははっ!! 殿下!! 申し訳ございません!!」


 忠誠心の割合が結構な勢いで移った瞬間であった。

 比率まで表示するのはあまりにも酷というもの。

 諸君。許してあげてヒヤシンス。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!」

「おぎゃああああああああああああああ!? お、え!? ひ、ひ孫ぉ!? なんでお前がおるんや!? ぶーっはぁぁぁぁぁぁぁぁ!! むっちゃ痛いぃぃぃ!!」


 スキルすら発現せず、煌気オーラを込めたガチビンタ。

 これで喜三太陛下は地面に叩きつけられた。

 地平線目掛けて右手を振り抜かなかったのは六駆くんの慈悲か。


「逆神四郎! 申し訳ない!! 私がついていながら!! しかし、好きぴがいたので荒っぽい事をしたくなかったかもしれん!!」

「えっ。やばっ。なんか分かんないけど、今、あたし彼ピに好きって言われた? ……しゅき」


 門から出て来た四郎じいちゃんが言った。


「ほっほっほ。エヴァンジェリンさんや。またいつでも遊びに来てくだされ。今度はこのようにつまらぬ上、悪趣味なところではなく、しっかりと観光旅行として案内をつけましょうぞ。旦那様と一緒に。ワシが責任もっておもてなしいたしますぞい」

「わぁぁぁ! ありがとうございます! あれ? 順平様!! お迎えに来てくださったのですか!?」


「あらららー。結局大事になった気がするけど、うん。今日のところは帰ろうか。エヴァちゃん。おばあ様たちも待ってるからねー。次からは私に一言声かけてから出かけるんだよー」

「あ。ご、ごめんなさい……!!」


 エヴァちゃんがちょっとだけしょんぼりしたので、雨宮さんが優しく頭を撫でてあげた。

 彼女の初めての外交は合格点ではなかろうか。


 次からは自由に遊びに来られるようになった。

 あと、かどわかした犯人がこれから酷い目に遭うので、少しくらいは反省するかもしれん。


「し、四郎! おま、おまぁぁぁ!! ワシのマント踏んどるって!!」

「ほっほっほ。ハーッハハハハ!!」


 その後バルリテロリではしばらく喜三太陛下を見かけなかったという。

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