第1350話 【エピローグオブ青山仁香すわぁん・その3】仁香さんのガールズトークティータイム ~とても穏やかな午後~

 まずはミンスティラリア。

 アトミルカ団地にあるスプリングさんちでは。


「行って参ります。リャンさん」

「はい! ですけど、ザールさん? 今日ってお仕事でしたっけ?」


「いいえ。南雲様からは要請を受けておりません。ですが……そうですね。仕事、と言った方が良いでしょうか。大仕事を1つほどこなして参ります」

「分かりました! よく分からないですけど、頑張ってくださいね!!」


 ザールくんがトラさんマスクを握りしめ、出陣の時を迎えていた。

 敵は日本本部にあり。


 マスクド・タイガー2世はこれから、故あってとある監察官に牙を剥く。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 カフェテリアでは。

 仁香すわぁんがクララパイセン、芽衣ちゃん、ノアちゃんの3人を相手にガールズトークを展開中。


「仁香先輩!! ふんすっ!!」

「うん。ノアちゃんの先輩呼びはなんだか不穏な気配がするんだよね。呼ばれ慣れてるはずなのに。それで、なにかな?」



「とある先輩からお願いされているのですが! この夏は白いビキニと貝殻ビキニだったらどっちがふんすですか? どっちが興奮しますか!?」


 迫る、穢れた魂の気配。



 ノア隊員は基本的に愉快犯。

 興奮のためなら時として敵になり得る、そんな乙女。


 どこかの宿六先輩から絶対に頼まれたであろう質問をぶつけた。


 そんなもん白ビキニ一択である。

 この世界は仁香すわぁんに白ビキニで仕事をして欲しい。

 いい加減パンツスーツは脱いでほしいとさえ思っている。

 足の先から首元までスーツに覆われている仁香すわぁんなんてもうそれ仁香すわぁんじゃないではないか。


 ヤエノムテキちゃんの勝負服を嫌な顔して着てくれていた頃へ戻って欲しい。


 そんな声が聞こえるのは気のせいか。


「……あ。ノアちゃん、私を引っかけようとしたでしょ! もうすぐ女子探索員の会のレクリエーションがあるから。春香さんに聞いて来てって言われた?」

「さすがです、仁香先輩! ふんすっす!!」


 ノア隊員、仁香さんのビキニと同じく白だった。


 毎年この季節は戦闘訓練用のプールを使って女子探索員による女子探索員のためのイベントが開催される。

 去年の夏は乳パッド4枚重ねでウッキウキだった莉子ちゃんが現実と対峙させられた、莉子ちゃん以外はみんなが楽しんだ夏の風物詩。


 女子探索員の会は会員の積立金とは別に本部から福利厚生費として結構な額が支給されるため、夏のイベント時は水着がオーダーメイドで作られ終了後は参加者にプレゼントされるという太っ腹な仕様。

 山根春香会長のもと、今年も開催される運びとなっている。


 ノアちゃんは現場に出る任務とは別に月刊探索員の編集者も兼任しているのでアンケート調査なんかいっそ本職みたいなもの。

 暇を見つけてはパパラッチのついでに「どんな水着がふんすですか!!」と乙女たちに聞いて回っている。


「けど、なんでみんなして私には白を勧めるんだろ? この間、佳純ちゃんと一緒に下着を買いに行ったんだけどね。これ似合いますよ!! って言ってくれたの、全部白だったんだよね」


 再び忍び寄る、穢れた魂の気配。

 それはもうどこかの宿六が白いナース服から白いチャイナドレス、そして白ビキニを着せるために命を賭けたからである。



 なお、白ビキニは川端卿の仕業だという事実を忘れはならぬ。

 男爵は今回のレクリエーションに「水着の型紙を構築スキルで創る係」として参加するので許してあげて欲しい。


 もう会うことはないだろうとは何だったのか。



 パイセンがデザートのチーズケーキを人数分抱えて戻って来る。

 もらった食券は余すことなく使い切る。

 当然の流儀である。


「うにゃー。まーたあの企画やるのかにゃー。まあ今の莉子ちゃんだったら大惨事は避けられるぞな。頑張って欲しいにゃー」

「クララちゃんは参加するよね? 水着が1つタダでもらえるんだよ? 部屋着が1つ増えるのに参加しないの?」


「にゃんてこったにゃー! それは参加するぞなー!! なるべく布面積が少ないヤツ希望だにゃー!!」

「うん。私、クララちゃんに恋愛相談? 恋愛? 進路相談かな? とにかく、そんな話をどうしてしたのかちょっと分からなくなって来た」


 戻す。

 穢れたゾーンに転がり落ちそうなボールを。

 あるべきレールガールズトークへ。押し戻す。


 どら猫はまったくやる気がない時でも一定の結果を残す。

 意外と汎用性もある、レベルの高い合格点を超えるヤツをオールウェイズで出してくれる。


「みみみみみっ! 芽衣も楽しみです! 芽衣、水泳得意だし好きです!! みみみみっ!!」

「そっか! 芽衣ちゃん、高校でも水泳で活躍してるんだよね! 今度一緒にプールトレーニングする!? 私の行くジムのプール、かなり良いと思うんだけど!!」


「みみっ! ぜひご一緒したいです! みみみみっ!」

「ボクもご一緒したいです! ふんすっ!!」

「にゃー。ノアちゃん、ノアちゃん。そーゆうとこはカメラ構えてたらおにゃの子でも怒られると思うぞなー? 今はそーゆうのかなり厳しいもんにゃー」


 仁香さんが朗らかに笑う。


「あはは。じゃあ、みんなで行こうか! クララちゃんも動こうと思えばかなりデキる子だし! 終わったら美味しい焼肉屋さんに連れて行ってあげる! もちろん、私が奢ってあげるから!!」


 それから仁香さんは後輩たちに囲まれて、慕われて、豊かなティータイムを過ごしたという。

 諸君。


 エピローグ時空でまで仁香さんに艱難辛苦を味合わせるなどとは鬼畜の所業。

 そういうのは宿六エピローグでやるべき蛮行である。


 どいつもこいつも見つけ次第カップリングしようだなんて、令和はそんな時代じゃない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の1号館前。


「何なんですか、あなたは!! 自分はこれから仁香すわぁんにこの貝殻ビキニをお届けに行くんです! 邪魔をしないでもらえますか!!」

「……そのような愚行を。このマスクド・タイガー2世、見過ごせません」


「どうしてですか!! 仁香すわぁんは自分の副官なのに!!」

「なんという傲慢なお考えか!! 副官とは支え、支えられる関係!! 上官の私物ではありません!!」


 トラのマスクを被った、誰だか分からないけれど良識の戦士が穢れた魂の持ち主と対峙していた。

 のちに「怪人・トラ紳士の乱」と呼ばれることになる戦いである。


 穢れた魂の持つバッグには多彩なコスプレ衣装が、あとは夢と希望と色々ひっくるめてパンパンに詰まっている。

 夢を持つなとは言わぬ。


 だが、分不相応な夢は身を滅ぼす。


「あ。ザールさん。お疲れ様です」

「仁香様!! いけません!! まだおいでになっては!!」


「あぁー!! 仁香すわぁん!! これから自分と一緒に海へ出かけましょう! そこでですね、ちょっとおっぱいよろしいですか? あと、お尻と太もももお願いできると助かるのですが、もちろん見るだけでも良いですけど触らせてもらえたら自分、仕事頑張れると思うん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛-っ」



「すみませんでした。うちの宿六がご迷惑を。回収して行きますね。午後からも会議があるので失礼します」


 仁香さんがパンツスーツを最大限に活かして、穢れた魂をぶち蹴った。



 マスクド・タイガー2世は「ふっ。我が師、初代マスクド・タイガー。私はまだまだ未熟なようです」と天を仰いだ。

 監察官が一撃の蹴りですっ飛んで行った出来事はこの夏、日本本部で最もホットな怪談となる予定。


 諸君。

 また忘れた頃にエピローグオブ水戸くんでお会いしよう。

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