第1349話 【エピローグオブ青山仁香すわぁん・その2】青山仁香VS椎名クララ ~途中参戦、芽衣ちゃま~

 芽衣ちゃんがフォークをクルクルと回してパスタをからめ取り、スプーンに乗せてから小さなお口へイン。

 もきゅもきゅと美味しそうに頬張る。


 ノアちゃんはトリセツ定食。

 「それは結局何食ってんの?」と思わずに入られないメニューだったが、よく見たらガーリックステーキとサラダにライス、後はオニオンスープ。

 なんとお肉は松坂牛。


 おわかりいただけただろうか。

 トリセツ歌ってる乙女の出身地は三重県松阪市。


 カフェテリアの給仕長は屋払トメ子さん。

 旧姓は池留トメ子。49歳。バツイチ。一人娘はとっくに独立済み。


 しれっと屋払さんは結婚キメており、愛羅武勇あいらぶゆうからのバージンロード。

 女は五十路からなんでよろしくぅ、との事である。


 少しばかり話が逸れたものの、トメ子さんがメニューの責任者。

 49歳女性の感性はこういうものとか言ったら一元的な見方しかできないクソ童貞野郎がと誹りを受けても反論できない。

 トメ子さんは何歳でもこんな感性。


 日本本部のカフェテリアは一見さんだとメニューを見て「これはどんな食べ物ですか?」と、異国の地の定食屋に入ったみたいな感覚に襲われるという。

 それもまた一興。

 どれ食ってもだいたい美味いので本当に一興である。


「クララちゃん、どう思う?」


 そして本題。

 仁香さんは「周りの女の子たちがどんどんゴールインしてる。しかもみんな年下。私、どうしたらいい?」と危険な思考が極まりつつある。


「にゃー。ラーメン伸びちゃうから、そのお話は後でもいいですかにゃー?」

「クララちゃん猫舌でしょ。そんな焦って食べたら危ないから。で、どう思う?」


 パイセン、ピンチ。

 ラーメンが伸びないスピードで食べ終わっても結局は割と早くご飯がなくなる事実。


 なにゆえラーメンを選んでしまったのか。


「佳純ちゃんは良いんだよ。あの子、初恋相手が和泉さんだったのだから。和泉さんってステキな男性だと思うし。きっとそのままゴールするんだろうなって思ってた。ただ、リャンがね……。週に1度、家に招いてくれるの。なんか、私も夫婦でお邪魔した方が良いのかな、とか思って」


 ラブコメの定番。

 「周りがカップルばっかりだから。あ、あんた! あたしの彼氏のふりしなさいよ!! い、いい!? 言っとくけど、ふりだからね! 勘違いしないでよね!!」の発展形である。


 周りがカップルだらけになったから、そんな環境は放っておけないし自分もカップルになろうかな。近くには宿六しかいないけど。



「それヤメた方が良いと思いますぞなー。ズルズル。伸びて冷めたラーメンより不味いと思いますにゃー。ちゅるちゅる」


 パイセン、言った。



 実は仁香すわぁん、人選に救われている。

 ここに来ていたのが莉子ちゃんと小鳩さんだったらどうなっていたか。


 「そう思うってことは気になってる証拠ですよ!! 恋ですよ! 愛ですっ!! 絶対っ!!」と来て「た、確かにそうかもしれんですわ!! わたくし、そんな気がしますの!!」となっていた。

 莉子ちゃんが恋愛依存型の乙女なのは諸君もご存じの通り。

 大変可愛いメインヒロイン。


 恋バナ大好きな女の事かそれだけでもう可愛い。


 小鳩さんはピュア。

 恋愛はちょっと前まで興味すらなかった、元男嫌いでもある。


 押し込まれる。

 莉子ちゃんの圧倒的なプレッシャーに。

 「確かにそうかもしれん!!」が飛び出すのはもう必定。


 その点、どら猫をご覧いただきたい。


 恋愛シミュレーションゲームはギャルゲーも乙女ゲーも嗜むくせに、リアルの恋愛は「にゃー。それって美味しいのかにゃー?」と真顔で疑問を呈する乙女。

 さらに「うにゃー。結婚は否定しないぞなー? そこ否定したらあたし生まれてないもんにゃー。ただ、周りがそうだからって前へ倣えで適齢期になったら結婚しなきゃって焦るのはナンセンスですにゃー。それは恋愛じゃなくて、社会に影響されとるだけじゃないですかにゃー」とか、なんかよく分からんけどそんな気もして来るロジックを展開する。


 実際はただ「面倒くさいにゃー」という感情を回りくどく言っているだけなのだが、興味ねぇ事に対しては断言してくるどら猫理論はなんか響くのだ。


「そ、そうかな?」

「ちゅるちゅるにゃー。仁香さん、仁香さん。水戸さんのいいとこ、3つでいいから言ってもらえますかにゃー?」



「えっ? ……え? …………えっ!?」

「ちゅるちゅるにゃー」


 やったか。



 好きな人の好きなところを10答えろと言われて、スムーズに10出て来る者は稀である。

 どんなに好きな相手でも、そんなにホイホイ出てこない場合が多数。


 だが、好きな相手だったら「嫌いなところ」も同じだけすぐに言えるもの。

 つまり「好きなところは?」と聞かれて好きなところも嫌いなところも出てこない場合は脈がない可能性が高い。


 これは恋愛学の権威、下関の義母の異名を誇るマザー・シルカ・クソガ氏が提言した「あんたその子がホントに好きなのかい?」理論。

 これを突き付けられると迷いがちな乙女の思考を止める効果があるとされる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 仁香さんがコーヒーに口をつけてから、少し間を置いて答える。


「……私の事を1番に考えてくれる人って。……うん。……そういう人って、この先、いるのかなって」

「にゃはー!! あたしじゃダメだったぞなー!!」


 お忘れの方のための仁香すわぁんダメ男と相性抜群履歴。

 こちらの乙女、元カレがいる。

 元野球部の同級生で、交際していた頃は体を重ねることはなかったのに借金を重ねられて結構な額をお小遣いと称して与えていた。


 仁香すわぁんはヒモの使い手。


 その点から考えると、どこかの穢れた魂はとりあえず定職には就いているし、34歳という年齢を考えれば極めて高収入であり、恋人(?)は人生の最優先事項として譲らないし、おっぱいもお尻も太ももも全部好きと恥ずかし気もなく公言するほど愛は叫べる。

 蓼食う虫も好き好きという。


 人の恋人(?)捕まえて「そいつ頭おかしいからヤメろ」とどうして言えようか。

 その結果、その人の未来に重大なインシデントが発生して責任が取れるのか。


 ちなみに蓼とはお刺身のつまに潜んでいる赤とか緑のちっこいかいわれみたいなヤツである。



 意外と美味しいじゃないか。



 このままではまずい。

 仁香すわぁんが「ちょっと実物見て確認してみよう」とか思い至って、穢れた魂が召喚されてしまう。


 そんな重苦しい空気の中、『美味しいパスタ作ったお前』セットを食べ終わってオレンジジュースを飲んでいた芽衣ちゃまが言った。


「みーみーみーみー? 芽衣、子供だから分かんないです。けど、仁香さんはステキなお姉さんです。芽衣、仁香さんが妥協? よく分かんないです。でも、妥協ってヤツはしてほくないです。みみみみっ。あと仁香さん、全然若いです。25歳です! うちのおじ様は40歳過ぎてるのに独りでなんか叫んでばっかりいるです!! うぜーです!! あと戦いで焦ると狙いがおかしくなるって六駆師匠も言ってたです!! みぃ!!」


 仁香さんがコーヒーを一気に飲み干してから笑顔になった。



「そうだよね!! 芽衣ちゃんの言う通りな気がする!!」



「にゃー。仁香さんは割と流されやすいところが危ないと思うぞなー」

「ふんすですね! ボク、興奮するのでそれでも良いと思います!! ちなみにさっきからスマホちゃんで録音中です!! スクープ、来ますか!?」


 カフェテリアで行われる、仁香すわぁん回。

 残るはあと1話。


 このままガールズトークで終われるか。

 イケる。イケる。風呂入って来よう。

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