第1351話 【エピローグオブサービスさん・その1】ひとりでチュッチュ ~本当は2人でチュッチュ~

 ミンスティラリア魔王城の隣にはドーム型の収容施設がある。

 これは元々ピースの最上位調律人バランサーであるラッキー・サービス氏とライアン・ゲイブラム氏の裁判が始まるまでぶち込んでおく、堀と塀の代わりに逆神印の煌気オーラ抑制装置を搭載した仮置き場。


 そして重スキル犯罪者は国際探索員協会、通称・国協が担当すると探索員憲章で定められているのだが、その国協をぶっ壊したのがサービスさんたちなので、まずは各国が協力して国協を立て直さなければならない。

 と、思っていたところに偉大なる喜三太陛下が御率いられたバルリテロリとの戦争がおっ始まってしまい、国協なんか知ったこっちゃねぇ、それよりもまずはてめぇの国の探索員協会の復興だ、いいからテーピングだと方針が変わる。


 その結果、どうなったかと言えば。


「ふん。チュッチュチュチュ。……悪くない」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 こうなっている。


 ラッキー・サービス氏。

 単身で逆神ドームに収監されて半年が経過。


 悪くないらしいが、よく考えるまでもなく良くもない。

 早くなんとかしないと、このままなあなあになってミンスティラリアに住み着くまでが既定路線になりかねない。


 いやさ、もうなっているかもしれない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 季節は7月下旬。

 いよいよ夏が本番になろうとしているエピローグ時空。


 逆神ドームの監視は逆神家の担当。

 六駆くんとみつ子ばあちゃんが交代で見ていたのだが、ちょいと事情が変わっているのは諸君もご存じの通り。


 みつ子ばあちゃんは現在、バルリテロリで技術開発局長をしている四郎じいちゃんに伴って週5であっちの異世界に行っている。

 だが、ついでにライアンさんも連れて行ったので監視の負担は変わらない。


 なんて思ったら大間違いである。

 おわかりいただけただろうか。


 六駆くんが隠居したので、監視のやる気もガタガタに。

 現在は「気が向いた時に見る」という、小学生の夏休みにおけるアサガオの観察みたいになっている。



 うっかりすると観察どころか水やり忘れて枯れるまである。



 だが、よもや諸君もお忘れではないだろう。

 そう。

 我々にはメインヒロインがいる。


「ふぇぇ……。なんで日須美大学って体育が必修なんだろ……。しかも水泳……。夏休みに水泳させるなんてナンセンスだよぉ。疲れたぁ……」


 夏休みに数回行われる体育で単位がゲットできるのはむしろ大学生的にボーナスなのだが、一般的を絶対的と同一視してしまうのは良くない。

 一般とはなにか。

 人生は孤独な旅であるからして、主観こそが一般なのだ。

 相対的な価値観とか知った事か。


 と、莉子ちゃんは考えながら、隠居した旦那の代わりにアサガオ、もといサービスさんのお世話に。


 乳と和解した莉子ちゃんの強さは六駆くんに匹敵する。

 念のためにピュアドレスちゃんを装備して、ハイパーアルティメット莉子ちゃんになってからご出勤。


 ハイパーアルティメット莉子ちゃんという存在そのものが抑止力になる。

 これがメインヒロインにしかできない御業。


「ふん。莉子か。チュッチュチュチュ」

「そうです。莉子ですが、なにか? サービスさんってわたしに気安いですよね」


 ちなみにこの2人、バルリテロリ戦争で共闘した頃からちょっと仲が悪い。

 まだ仲が悪いのかよ、いい加減に仲良しになれよとは無茶をおっしゃる。


 あっちは敵組織の大幹部。こっちは正義のヒロイン。

 相容れぬ。


 なんやかんやすぐにノーサイドしてしまう六駆くんの方が異常なのである。


「あっ!! サービスさん!! また勝手に冷蔵庫開けたでしょ!? 空になった練乳のチューブが増えてる!!」

「ふん。……知らん」


「今チュッチュしてたでしょ!!」

「ふん。……チュッチュチュッチュチュッチュチュッチュチュッチュ」



「あ、あー!! ああー!! もぉぉぉぉ!! まだ持ってる!! チュッチュするのヤメなさい!! ふぇぇ……なんでわたしの当番の時になると練乳が増えるの? 分かんないよぉ」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 ご注意ください。2人は仲良しではありません。



 サービスさんはまだ容疑者なので、ちゃんとした食事と定期的な運動の自由は保障されている。

 そして、六駆くんが見ている時は「ふん。高みに立つか」と明らかにやる気と隙もない最強の男を前に何もしないが、莉子ちゃんが当番の時は「ふん。らゅわゃけょ!!」と気合を入れて『ピンポイント・バンジー・サービス・タイム』を発現。


 自身の周囲と冷蔵庫だけ時間を停止させて、凍った時の中で練乳をちょろまかす。

 1日3練乳までと決められているのに、莉子ちゃんの当番である月曜日、水曜日、木曜日、土曜日は無限チュッチュしている。


「もぉぉぉぉ!! チュッチュするのヤメなさいっ!!」

「ふん。俺を止めてみるか。莉子。……チュッチュチュチュ」


 なんか莉子ちゃんとサービスさんが良からぬ事をしているみたいになっているが、ただ「練乳吸うな」「いいや吸うね」とやり合っているだけである。

 この世界のチュッチュの意味が一般的なチュッチュと違うのがいけない。


 諸君。

 一般的を絶対的とイコールで結んではならないのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 サービスさん観察日記を記入中の莉子ちゃん。

 クソつまらない作業なので、雑談くらいは許して欲しい。


 「今日もサービスさんは練乳を7つも吸いました。わたしはとてもイライラしました。天気は晴れです」とか、あの優等生の莉子ちゃんをもってしても小学生の日記みたいになるのである。

 六駆くんに至ってはただ「可」としか書かない。


 そして提出先の南雲さんが1000倍くらいに水増しするのである。


「それで、聞いてくださいよぉー。水泳の授業なんですけどねー? ちっちゃい順に並ばせるんですよ? ひどくないですか? ひどいですよね!! わたし、いっつも一番左のレーンなんです!! 大学生にもなってちっちゃい順って変ですよね!?」

「ふん。……俺に命の選択をさせるか。高みに立つちっちゃき者よ」


「ほえ? 別に怒りませんよ? だってわたし、ちっちゃいですし」

「ふん。ついに認めたか。俺の練乳をくれてやる。上物だ」


「これ買ってくれてるのノアちゃんですよね? まったくもうだよ。チュチュッ」

「ふん。言っておくが、吸ってもデカくはならんぞ」


 2人は仲良しではありません。


「…………あの、サービスさん」

「チュッチュ?」



「わたし、背の順の話してるんですけど。さっきからサービスさん、わたしのおっぱい見てません? 確かにそっちもちっちゃいですけど? 認めてますけど? 認めてるからって怒らないとは言ってませんからね? やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ふん。……高見沢バニングを呼べ。莉子。俺たちには齟齬がある」


 苺色の光でドームが包まれた。

 ほら、仲は良くなかったでしょう。



 苺色の禍々しい球体がサービスさんの鼻先で停止中。

 逆神ドームは煌気オーラを抑制するシステムが備わっているが、それはドーム型にパッケージした中に留めるということ。

 つまり、サービスさんのスキルはドーム内に限り制限されていない。


 制限されていたら死んでた。


「ふん」

「もぉぉ!! なに停めてるんですかぁ!! あとどこ見てるんですかぁ!!」


 サービスさんが言った。


「ふん。練乳には、無限の可能性がある」

「ふぇ? またわたしの気を引こうとして! 騙されませんからね!!」


「ふん。逆神は練乳を吸わん。その意味が分かるな?」

「………………………………ふぁっ!? わたしでファーストチュッチュをしたいからでしゅか!? ふぁー!?」


 ニィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。


 莉子ちゃんVSサービスさんはもう1話ほどお届けされます。

 なお、日本本部とピースの命を賭けた血戦はだいたい8カ月前である。


 するってえと、この2人、さては仲良しか。

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