第1347話 【エピローグオブリャンちゃん・その3】先輩をおもてなし!!!!!!

 エピローグ時空は不思議な空間。

 サブタイトルが変わった瞬間に季節まで変わる事があったかと思えば、シームレスな移動を見せたりもする。


 これは世界の意思が重圧から解き放たれてやりたい放題しているのが原因である。

 原因が特定できているのに、対応策の取り様がない。

 これはなかなかに辛く、時に腹立たしい事案。


 諸君。

 この時空を最も豊かに楽しむためのコツは、なるべく好きな食べ物と好きな飲み物を持って、心にゆとりももって、ストレスのないタイミングでダイブするに限る。


 そんな7月下旬のとある日。

 リャンちゃんの家、つまりスプリングさんちに来客があった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「すみません、ザールさん。私は遠慮したんですけど、リャンにどうしてもと言われまして……。本当にごめんなさい」

「えへへ! ワガママを言ってしまいました!! 仁香先輩がミンスティラリアに来られると聞いたので!!」


 仁香お姉さんがミンスティラリアへご来訪。

 よく見るとスーツ姿である。

 そう、本日はお仕事でやってきている。



 諸君。

 今、穢れた魂の話は一切していない。


 落ち着かれよ、



 仁香さんはバルリテロリ戦争において後方司令官代理を拝命しており、その際にいくつかの決断をこのミンスティラリアでキメ、失礼、決めている。

 その時の記録はシミリート技師によって保管されているが、ミンスティラリアは独立した1つの異世界であり、日本本部の植民地ではないのである。


 よしんば植民地という表現をどうしても用いるのならば逆神六駆の植民地みたいなものであり、日本本部が魔王城から情報を提供してもらうためには探索員憲章に定められた面倒くさいルールを順守する必要がある。

 よって、日本本部でミンスティラリアとの関係性が強く、比較的手の空いている者を探したらばだいたい仁香さんが該当する。


 そして仕事を終えてから誰かとタイミングが合うと魔王城でお茶をするのだが、本日はリャンちゃんに連れられて新婚ハウスへご招待。

 結婚式は当然参加したし、スピーチもキメた。

 それから先は仁香さん、「新婚さんのお宅に遊びに行くなんて無神経な事、無理!!」と避けていたのだが、1ヶ月経ったしそろそろ良いかとついに解禁。


「はぁぁぁぁぁー」

「仁香様!? 私がバニング様より頂いた紅茶をお淹れしたのですが、まさか傷んでいましたか!? 捨てましょう!!」


「あああ! 違うんです、ごめんなさい!! リャンの幸せそうな顔を見ていたら、なんだか胸の底から空気が漏れて来ちゃって……!! 美味しいです、すごく!!」

「仁香先輩? なんだかお元気がないような……? なにかあったんですか!? 私、お力になりたいです!!」


「このザール・スプリングも微力ですが、問題解決のご助力になれればと」

「ですよね! ザールさん! えへへ!!」


「ええ。もちろんです。仁香様は我ら夫婦の大恩人ですから」

「ですね! ふふふっ!!」



 この2人には一切の悪気がない事だけを諸君にはご理解いただきたい。

 仲睦まじい事は罪なのですか。



「ううん。平気だよ、平気。ザールさんまで巻き込まないの。……あはは、久しぶりにゆっくりできるから色々と考えちゃうのかも」

「仁香先輩、今日はもうお仕事ないと伺いましたけど。もしかして?」


「え? うん。明日もお休み。だから、三連休になるかな? どうしたの?」


 リャンちゃんが弾ける笑顔と一緒に提案した。


「泊まって行ってください!!」

「それは良いお考えですね」

「……………………ちょっと待ってね。考えるから」


 仁香さん脳がフル回転。

 現世に戻っても転移座標の前で何かが待ち構えているかもしれない事を考えると、このまま後輩の新婚ハウスに泊まる方が心の休まり度合いで考えるときっと良い。

 イチャイチャされるかもしれないし、自分の五感は割と鋭敏だからそれに気付くのは間違いないけれど、それでも現世で「明日はお休みですね!! ふふふふふ。自分、知ってますよ」とか言って来る何かの相手をして、蹴り飛ばして、帰り支度を整えて疲れて帰ったマンションでお弁当食べるよりはずっと良い。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「了!! ザールさん! お願いします!!」

「はっ。少しばかり失礼いたします!!」


 1時間後にはアトミルカ団地でバーベキューの準備が整っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「アリナさん! 春巻きってバーベキューで焼いても良いのでしょうか!!」

「ふむ。それは……。いかがするか? バニング」

「私も作法には詳しくないですからな。焼いて食べられるものならば良い気もしますが。いや、春巻きは揚げるのか?」


「お待ちください! 皆様!! 私の照り焼き用の鉄板! こちら、あと100枚はありますので!! どうぞどうぞ! 2枚でも3枚でもお使いください!!」

「わぁ! バッツさん、ありがとうございます!! リャン・リーピン!! 春巻き、揚げ焼きします!!」


 先輩がお泊りしてくれると聞いてテンションフルバーストなリャンちゃん。

 一説にはお言葉に甘えたら思ったよりも大げさに歓迎されて逆に恐縮するという人が4割強存在するとされるものの、仁香さんは既に気持ちを切り替えている。


 自分を慕ってくれる後輩が、なんだかとても幸せそう。

 それだけで胸がいっぱいになる思い。


「バニングさん! いつもの変な干し肉を頂ければ嬉しいです! 仁香先輩にとっては珍味だと思いますので!!」

「ふっ。……リャンに元気よく、変なと言われた。いやまあ、実際にモンスターの干し肉は珍味の部類か。よし、振る舞おう」


 張り切っている嫁さんを見つめて目を細めるザールくんが仁香さんの隣へ「失礼してもよろしいでしょうか」とやって来た。

 その手にはミンスティラリアの地ビール。

 バッツくんが開発責任者をしている、新製品である。


 ミンスティラリアではもう1年以上現世の味が大ブレイク中。

 六駆くん一派をはじめ、アトミルカ団地、忘れられがちだがバルリテロリ捕虜チームもいる。外国の要人増えすぎ問題。

 しかも芽衣ちゃまの支持率がブチアガったバルリテロリ戦争からまだ半年。


 「我々も芽衣様の治める現世に馴染みたい!!」と多くの魔族が手を挙げて、その手をおろさないので何もしなくなって久しい。

 そのため、バッツくんがダズモンガーくんと一緒にうめぇもの担当大臣として活動中。


「グラスをどうぞ。仁香様」

「あ。すみません。頂戴します」


「良い機会でした。1度、改めてお礼を伝えたかったのです」

「そんなそんな! もう結婚式のスピーチで伺いましたよ!! 私の話に尺が一番割かれていて、ちょっと気まずかったですから!!」


「リャンさんを見てください。あんなにはしゃいで……。彼女はいつも、あなたの話をしておいでです」

「うぅ……。改めてそう言われると、なんだかくすぐったいですね」


「私にとってもそれは同じです。現世の方々には恩義がありますが、仁香様。あなたには特別な大恩があります。どうか、この先、は私たちを頼ってください」

「ザールさん……!!」


 リャンちゃんが仕上がった春巻きを持って駆けて来る。


「仁香先輩!!」

「もう! 走らないの! まだまだ目が離せないんだから!!」


 その後のリャンちゃんの生活はとても穏やかであった。

 これからも穏やかである。


 時に、仁香先輩がが来るのはいつか。

 この世界は残酷にできているのかもしれない。


 次回。

 エピローグオブ仁香すわぁん。


 デュエルスタンバイ。

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