第1346話 【エピローグオブリャンちゃん・その2】ご近所付き合い!!!!!

 スプリングさんちの食事は嫁も旦那も作れるし、どちらともなく手の空いている方が作業を始める。

 家にどちらもいる場合は「私も手伝いましょう」と旦那がやって来るか「私が作りますので!! ザールさんはのんびりしていてください!!」と嫁が亭主関白を推進しようとしたりする。


 ザールくんの作る料理はアリナさんに似て、実用性に重きを置いたものが多い。

 やはり30年以上もバニングさんの弟子として、また息子として過ごして来たため、テロ組織アトミルカの生き方はなかなか抜けない。


 決して不味い訳ではなく、見た目の美しさを少しばかりおざなりにする傾向がある、という程度。

 リャンちゃんいわく「体重が2キロ増えてしまいました!! ザールさんのご飯はとても美味しいので!!」との事。


 諸君。



 今、メインヒロインの話はしていません。

 2キロ増とか誤差の範囲という話題はよそう。



 対してリャンちゃんの作るご飯は多彩。

 ついでに多菜。一汁三菜なんて眠てぇ事は言わず、可能な限りおかずを作って食卓を賑やかにする。

 好きな人には色々な種類のおかずをたくさん食べて欲しいという、元気な彼女らしい考え方。


 ただし、おかずの量を増やすといわゆる「作り過ぎちゃった」事案が発生する事もある。

 そんな時に機能するのがファニコラ魔王様の作ったアトミルカ団地。

 仲の良い隣人が両サイドにいるスプリングさんち。


「ちょっと行ってきます!!」

「はい。もう暗いですので、足元に気を付けてくださいね」


 半袖シャツに短パン、その上からエプロンを付けたお嫁さんが家を飛び出していく。

 ちなみにこれは彼女が仁香さんや屋払さんとトレーニングする時に着るウェア。

 常在戦場を旨とする、「お料理してる時に後ろから抱きつかれるシチュエーションもしっかり想定しておきます!!」なリャンちゃんのスタイル。


 ヨレヨレのタンクトップと短パン猫をイメージして「似てるな」と思うのは失礼である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 先にリャンちゃんが向かうのはバッツくんの家。

 ザールくんにとって直属の上司と親代わりの夫婦を差し置いて何故かと思われるかもしれないが、これもリャンちゃん流のご近所付き合いの作法。


 まずは単身者のバッツくん宅へ。

 「ごめんください!!」と元気に挨拶していれば、ミンガイルさんちにも声は届く。

 するとバニングさんが「む。リャンがおすそ分けに来てくれるようです」と察知して、アリナさんが「そのようであるな。では、致すのは少し後にしよう」となる。


 これが高度なご近所付き合い。

 バニングさんとアリナさんだって結婚して1年未満のアツアツカップル。



 いついかなる時に致しているのかなど、神の味噌汁、失礼、神のみぞ知るどころか神様だってご存じない。



 そしてバッツくんから「こちらをどうぞ! 照り焼きです!!」と、ハンバーガー買ったら絶対ポテトもいるやろ感覚で返礼の照り焼きをもらって、自宅を通り過ぎ今度はミンガイル家へ。

 リャンちゃんの作る中華料理はヨーロッパ圏を拠点にしていたアトミルカチームにとって珍しいのでとても喜ばれる。


 バニングさんから謎のモンスターの干し肉を返礼品として受け取って、自宅に帰って来るリャンちゃん。

 その表情はとても嬉しそうで、「喜んでいただけました!!」と笑顔で報告する嫁さんが愛おしくなるのも道理というもの。


 これがアトミルカ団地のご近所付き合い。

 この人たちは本当に残虐非道な侵略行為をしていたのかと忘れそうになる、ほっこりする夜のひと時。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とある日。

 ザールくんがトラのマスクを片手にお仕事へ向かう。


 幸か不幸か、ピース防衛戦とバルリテロリ戦争のどちらも参戦して日本本部と連携を取ったアトミルカチームは特務探索員待遇で探索員の任務に赴くことが増えた。

 その機会は南雲体制に完全移行してからさらに増える。

 最前線で指揮を執っていた南雲さんが信頼に足ると判断すれば、それに異を唱える者などいようはずもなく、人間として、また戦力としても極めて優秀なザールくんは特に珍重されている。


「ザールさん! お弁当です!! こっちは今日の分で、こっちが明日の分です!! 間違えないでくださいね!!」

「はい。ありがとうございます」


「それから、飲み物はこれです! マスクド・タイガー2世になられる時は絶対に水分不足になりますから! 喉が渇く前に飲んでくださいね!!」

「お心遣い、痛み入ります。なるべく早く帰れるよう、全力を尽くして来ます」


 ザールくんは長期任務に出かける回数も増えた。

 なにせ、自分主体のパーティーでも若手を育てるパーティーの後方支援としてもイケる彼は、オールマイティ。

 「逆神くんから悪魔的な思想と悪魔的な強さを引っこ抜いて、常識的な思想と常識的な強さを持ってくれるのがザールくんだよ」とは南雲さんの評。


 氏にここまで言わせるという事は、どこの部隊に加わっても「またお願いします」とリピーターが増える一方。

 アトミルカチームは贖罪の意識が強いので、乞われればどこにだって行く。


 ピースの残党には見習ってほしいものである。


「いってらっしゃーい!! 気を付けてくださいねー!!」


 ザールくんが門の中に消えて見えなくなるまで手を振るリャンちゃん。

 その声を聞いて隣の家からアリナさんが出て来る。


「今日はそちらも旦那が留守か。リャン。良ければうちで茶でもどうか?」

「了!! いただきます!!」


 アトミルカ団地は旦那がいなくなると基本的にアリナさんとリャンちゃんだけになるので、必然、一緒に過ごす時間も増える。

 バッツくんは日本本部からの仕事が少ない代わりに、魔王城での仕事が多いのでやっぱり日中は留守にしがち。


 ならば寂しいかと言えば、魔王城には割と乙女たちがいる。

 その筆頭は呼んでいないのによく来る。


「うにゃー。おはようございますにゃー」


 どら猫である。


 起きて朝ごはんを探し、既にみんなが済ませていたらさあ大変。

 部屋でクリーム玄米ブランとかをモグモグしながらソシャゲするのも手だが、時には違うものを食べたいし、雑談だってしたい。


 にゃーと鳴いて出現するとどこでもご飯と談笑がもらえるのは猫族の特権。

 ということで、よくセットでついて来るのがこちら。


「にゃーです。ステータス『コンセントから引き抜かれた』を獲得させられました。そこの花壇に植えます」


 メカ猫である。


 マスター権限によって「瑠香にゃん、瑠香にゃん、お出かけするぞなー」と言われると「ステータス『今は気分じゃない』が発動されませんでした」と帯同せざるを得ないのが彼女。

 瑠香にゃんである。


「クララと瑠香にゃんか。妾の家でミルクティーを飲んでいくと良い」

「軽く摘まめるものも欲しいですにゃー!!」


「了! 私、なにか作りますね!!」

「キタコレにゃー!! お礼にこちらをご査収くださいだぞなー。薄い本とピンクの本と、あと色々ですにゃー」


「ステータス『情報の汚染』を確認。報告する人が思い浮かびませんでした。引っ込めます」

「今日のお茶会も有意義なものになりそうだ。ふふっ」


「クララさん! 瑠香にゃんさん!! 嫌いなものってありませんでしたよね?」

「にゃはー!! 食べ物なら全部好きですにゃー!!」


 このご近所付き合いのせいで。

 あるいは、おかげで。


 アトミルカ団地には絶えず新鮮な情報が出たり入ったりしている。

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