第1340話 【エピローグオブ電脳のテレホマン・その1】四角い男、気付く(半年ぶり)

「ぶーっははははは!! ワシ、閃いたんや!! 四郎な、あいつ、一緒に女抱こうぜって言っても頑なによそ見しとるやろ? 気付いた、ワシ!! ……あれはシャイボーイなんや!! やからな! ワシが先に女抱いてる状態で呼ぼうと思うんや!! ワシが、ええで! って言ったらすぐ呼んでくれ! な、テレホマン!!」

「は? ……ははっ。よく聞こえませんでした」


 まさかこの文言を再び使う日が来ようとは。


 バルリテロリ皇宮からお送りします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 季節は7月。


 六宇ちゃんは彼ピとデートばかりしてたら喜三太陛下記念高等学校の教師から今年も順調に出席日数が足りていないと保護者が呼び出された。


「はっ。この電脳のテレホマンの不覚にございますれば。先生方におかれましてはどうか、どうか寛大な御処置を賜れればと。こちら、決して邪な感情など1ミリ単位でございません。ございませんが。どうぞ、お納めくださいませ。……秘蔵の単四電池でございます」


 六宇ちゃんの保護者って誰なんだろうと考える暇も我々には与えられず。

 テレホマンが出る。


 また、ちょっと前から皇宮秘書官のオタマさんが「すみませんが、本日は新築の中古アパートにてクイント様に手を握って頂いて参ります。申し訳ございません。出勤が6時間ほど遅れます」とか言って、たまに午後出勤キメるようになった。

 そんな時でも問題はない。


「はっ。この電脳のテレホマン。テレホ・ボディを分裂させて、同期を行いますれば。こちらのはりぼてテレホマンの方を陛下の御傍に仕えさせて参ります。ご安心ののち、しっかりと御手をつないで参られませ」


 オタマさんとクイントは多分10年先でもチュッチュしてないだろうなと思わせる事案を前にしても、テレホマンが出る。


「ぶーっはははは!! テレホマン、見てくれ! これぇ!! むっちゃデカいモニターを構築スキルで創ってやな? 試しにAV流して見たら!! これぇ!! くっそ見づらくて何も感じんで!! これぇ!! どう思う、これ、なぁ!! テレホマン!!」



「は? ……ははっ。よろしゅうございました」


 陛下の傍仕えも1日きっちり16時間ほどこなしている、四角い忠義者。



 テレホマンが家に帰るのはだいたい午後23時頃。

 帰り道にあるコンビニでデカビタとバルリテロリでは未だに何時まで売れ残っていても安くならないお惣菜と、あとは単三電池を買って帰宅。


 テレホマンの家はオール電化住宅。

 バルリテロリは令和と同期したが、まだまだ昭和から平成にかけての風情を色濃く残しているのに、テレホマンの家だけはバリバリ平成後期の仕様。

 太陽光パネルを屋根にくっ付けたりもしている。


「あのコンビニ。電池の仕入れ先を変えたな?」


 単三電池をポリポリ食べながら、デカビタで口をサッパリさせた瞬間だった。

 テレホマンに電流走る。


「あれ。ちょっと。……八鬼衆、どうなった!? 誰も帰ってきていない!!」


 電脳戦士、気付く。


 繰り返しになるが、季節は7月。

 六宇ちゃんは彼ピと平和にプールデートしているし、クイントとチンクエによってバルリテロリも割と復興している。


 終戦からはだいたい半年。

 バルリテロリの精鋭、8人の戦士はどこへ行ったのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。

 テレホマンは出勤したのち、まずは四郎じいちゃんとみつ子ばあちゃんを前に跪く。


 これは絶対に欠かせない敗戦国のルーティーンであるからして、電脳ラボの職員は全員がこなす儀式。


「おはようございます。本日の四郎皇太子殿下。みつ子太子妃様。ご両名におかれまして大変お麗しゅうございますれば。このテレホマン、本日も変わらぬ忠誠を誓わせて頂きたい由にございます。どうか、どうか御許し頂きたく……!!」

「ほっほっほ。テレホマンさんは大袈裟ですわい。どれ、リチウムイオン電池を持って来ましたぞい。お使いくだされ」


「はっ。……ははっ!! 私などにはもったいなきお心遣い!!」

「それだけじゃ寂しかろうと思うてね!! 上にタルタルソースかけちょいたよ!!」


「は? ……ははっ!! リチウム電池にはタルタルソース!! 至上の喜びにございます!!」


 もらったものはとりあえず食べる。

 これはマナーであり、礼儀であり、作法である。

 1つ違えるだけでも皇国が傾きかねない。


 『リチウムイオン電池~タルタルソースをのせて~』は、タルタルソースの味がしたという。


 皇太子と太子妃に謁見したらば、我らが偉大なる皇帝陛下の元へ向かうテレホマン。


「おはようございます。陛下。良い朝でございます」

「なぁ? テレホマン? ずっと思っとったんやけどな? お前、ワシより先に四郎のとこ行ってない?」


「は? ……そのような事はございません」

「ほんま?」


「はっ。陛下、こちらを。涼宮ハルヒシリーズの新作、発売決定のチラシを持参いたしましてございます」

「うっそやろ、お前ぇ!! えー!! マジか!! これ現世限定!? バルリテロリでも売ってくれるんか!?」


 陛下。

 現世のみでございます。


 テレホマンが跪いて、続けた。


「陛下。よろしゅうございますか」

「一緒にエンドレスエイト見るか!!」


「いえ。陛下」

「あー。よし、任せろ!! 消失やな!?」


「いえ。陛下」

「分かっとるで? ……長門有希ちゃんの消失、やろ?」


 テレホマンは四角い唇を噛みしめた。

 「こんな時、オタマ様ならばいとも簡単に言われるのに。はい。陛下。違います。そう言われるのに……」と。


 だが、この時空のテレホマンは戦時下よりも半年間ほど苦労を重ねている。

 重ねた努力は嘘をつくかもしれないが、重ねた苦労は「嘘やろそれ」とこちらが言っても苦労の方が「ほんまやで」とにっこり微笑んで来るので、それを努力とイコールで結んでしまえば人は一気に強くなれる。

 テレホマンは人です。



「陛下! 八鬼衆が誰ひとりとして帰っておらぬ由にございます!!」

「えっ!? ……あー。ああー」


 これに関してはテレホマンも昨日、電池食ってたら思い出したのでお諫めする事はできないのである。



 未だ復興は途上のバルリテロリ。

 スキル使いなんてなんぼいても良いのであるからして、それが八鬼衆のレベルになればそれこそ残りの7人と次席の1人、テレホマンも合わせて9人揃えばもっとずっとぐっとぎゅっと復興は捗るはずなのである。


「陛下。その偉大なる転移スキルにて」

「よっしゃ! 任せとけ!!」


「陛下……!!」


 テレホマンの中で喜三太陛下の株価が急騰、ストップ高を記録した。

 陛下は仰せになられる。


「テレホマンを八鬼衆がおるところに転移させればええんやな!」

「は? ……陛下?」



 テレホマンの中で喜三太陛下の株価が急落、ストップ安は存在しなかったという。



 こうしてテレホマンの重要任務が決定する。

 八鬼衆回収ミッションである。


 もう終戦から半年、音沙汰がないという事は。

 三鬼衆くらいになっているかもしれないという覚悟はテレホマンもキメる。


 何鬼衆でも良い。

 復興を頑張っている臣民がいるというのに、その上に立ち、税から給金を未だ振り込まれている者たちを遊ばせておくわけにはいかぬ。

 死んでたらそれはそれで、死んでた処置をせねばならぬ。


 テレホマンが今、異世界を駆ける。

 ちなみに陛下はお駆けにならない。


 四郎じいちゃんに「ワシ、ちょっと出かけてええか!?」と聞いても余裕で唾吐かれること疑う余地ないため、これはある意味逆にピンポンでございますな、陛下。

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