第1338話 【エピローグオブ猫と猫リバース・その2】大学生瑠香にゃん

 瑠香にゃんバージョン大学生にアップデートされてから1週間。

 本日も彼女は日須美大学のキャンパスを歩く。


 そう。

 彼女


「おっ。君、可愛いねー。噂の留学生かな? どう? 飲み会とかに興味ない?」

「瑠香にゃんサーチを実行します。サーチ完了。識別コード『槍サー』と判明。瑠香にゃんの試行が足りずに正確な分析が不可能。質問です。あなたは大学で何を学んでいますか?」


「ノリいいねー。そんなんあれっしょ。アレ! 出会い!!」

「瑠香にゃんデータベースにて該当ケースを確認。……瑠香にゃん砲のチャージを開始します」


「あ、瑠香にゃんちゃーん! なにしてるの?」

「プリンセスマスター。瑠香にゃん、大学の治安と風紀の維持に一役買うところです。見ていてください。瑠香にゃん砲、チャージ82%。照準固定」



「ふぁっ!? 逃げてください!! 死にたいんですか!?」

「ええ……。ちょっと君たちノリが独特過ぎて上級者向きだったわ。じゃあねー」


 メインヒロインが珍しく仕事をしてくれました。



「ふぃー。瑠香にゃんちゃん、ダメだよ。大学で瑠香にゃん砲を使うのはダメ! クララ先輩は?」

「瑠香にゃん単騎です。ぽこますたぁよりオーダー『ノート預けるから後はお任せしたぞなー』を受諾してしまいましたので、アプリケーション『1限から5限まで全部出る』を実行中です」


 そう。

 対どら猫用の最終決戦兵器として投入された瑠香にゃんだったが、このフォーメーションは小鳩さんや南雲さんといった「どら猫を大学に行かせ隊」がキャンパスまで毎回のように猫2匹を連れ出さなければ、いずれこうなる事は分かっていた。


 5日目で気付いたパイセン。

 「にゃはー。これ、瑠香にゃんが代わりに大学を頑張る事で、相対的にあたしは頑張らなくても良いってことにはならんのかにゃー?」という、相対性さんもそろそろブチギレるのではないか心配になる拡大解釈をキメるに至る。


 諸君は知っているだろうか。

 クララパイセンの前期総単位数を。


 2である。


 しかもレポート提出によるものである。


 つまり、瑠香にゃんが機能していたのはほんの数日。

 たった数日でもパイセンを大学に通わせたのは偉業と評して過言ではないが、どら猫見守り隊が求める偉業がちょっと違う。


 大学卒業なのであって、不登校のどら猫がちょっと部屋から出て「頑張ったね。偉いね」ではないのである。

 偉くねぇし、立派でもねぇ。

 分かってるのは胸のドキドキが南雲さんに訪れるという事だけ。


 動悸である。


 胸だけ偉くて立派なクララパイセンは冷房の効いたお部屋でスリープモード中。

 次は12時に1日がリセットされるソシャゲのログインボーナスとデイリー周回のために一瞬起きて、またおやすみなさい。


 対して、瑠香にゃんは既に8時前から日須美大学で活動中。


「あ! 瑠香にゃんさん! 先日はありがとうございました」

「ふぇ? お友達?」


「はい。プリンセスマスター。瑠香にゃん、英語会話の講義でお隣さんでした。お困りの様でしたので、瑠香にゃん翻訳によってサポートを実行済みです」

「英語圏の留学生さんが助けてくれるなんて、ホントに嬉しかったです! 明日、また講義だね! 今度は頑張るから!」


「瑠香にゃんもステータス『頑張る』を実行します。よろしくお願いいたします」


 女子学生が手を振って去って行った。

 入れ違いにメガネをかけた男子学生がやって来る。


「瑠香にゃんさん。ノートを返そうと思って探していたんだ。これ、参考になったよ」

「またお友達?」


「はい。プリンセスマスター。法学部の大学院生さんです。瑠香にゃんが受講した『猫学』にて『どうしてどら猫はベストを尽くさないのか』というテーマで1時間ほどディベートさせて頂きました。その時の内容を瑠香にゃん書記でノートに書き起こしてお渡ししました」

「とても参考になったよ。特に、ベストを尽くさないからどら猫なのか。どら猫だからベストを尽くさないのか。どら猫と呼ばれる前はベストを尽くしていた訳ではない。認識されていなかっただけという理論。目から鱗だった。是非ともまた見識を聞かせて欲しいな。では、失礼」


 メガネの男子学生も手を振って去って行った。

 莉子ちゃんが感心する。


「ふぁー。瑠香にゃんちゃん、すっごく大学に馴染んでる。しかも同年代から先輩まで、なんか交友関係の幅がすごい!! 大人だぁ……!!」

「プリンセスマスター。訂正を求めます。瑠香にゃん、まだ0歳児です」


「あ! 大変!! 瑠香にゃんちゃん、行かなきゃ!! 2限、休講だったんだよね? 今この時間にここにいるって事は!!」

「プリンセスマスターのご慧眼を確認。行くとは、どこへでしょうか。オーダーを承ります」



「学食だよぉ!! もう11時だもん!!」

「………………………………? 瑠香にゃんの知ってるお昼ご飯は12時ですが。プリンセスマスターから強い意思を確認。ステータス『行かざるを得ねぇ』を獲得。今日はポロシャツなのでおっぱいに格納します」



 それから瑠香にゃんはご飯を食べた。

 瑠香にゃんは別にご飯を食べなくても活動できるが、ご飯を食べる事もできる高性能アンドロイド。


 瑠香にゃんが日替わり定食Bを食べている間に、莉子ちゃんは日替わり定食A~Gまでを全制覇した。

 これは日須美大学の学食にも責任がある。


 日替わり定食は3種類までと決まっているのに。

 Gまであったら、もう選べない。

 それでも何かを選ばないとならぬのか。


 世界を救うメインヒロインには選ばれなかった者の気持ちが分かる。

 Aしか知らぬ乙女はGまできっちり召し上がったが「やっぱりAは鉄板だね!!」と返答に困るコメントを残し、瑠香にゃんは沈黙というアプリケーションで危機を乗り越えた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから3限、4限と座学をこなし、5限目は体育。

 体操服だけはぽこますたぁから売るほど渡されている。


 サイズが合わないとの心配はご無用。

 日須美大学の体操服はSМLのサイズ展開なので、どうせ元からパイセンにとって合うものなどなく、伸縮性に優れた当学のそれはパイセンサイズでも無理して押し込めば割と快適に着られるという。


 瑠香にゃんはМサイズがピッタリなので、パイセンの雑に買った体操服ストックの中から伸びていないものをチョイスして着ている。

 本日の女子の体育はバスケットボール。


「瑠香にゃんさん! お願い!」

「瑠香にゃん、お願いされました。シュートシークエンスへ移行います。ステータス『黒子のバスケで見たヤツ』を発動。センターラインからのシュートを実行。完了しました」


「すごい……」

「これって何点入るの?」

「汗ひとつかいてない……」


 どこから投げてもスリーポイントラインよりも外なら3点である。


 こうして瑠香にゃんの1日が終わった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミンスティラリア魔王城へと帰って来た瑠香にゃん。


「おかえりにゃー」

「帰りました。瑠香にゃん、本日も大学生を実行しました」


「お疲れにゃー」

「瑠香にゃん砲をチャージしたので充電が減っています。ぽこ。コンセントを使う許可をください」


「おっけーにゃー」

「ステータス『こいつ朝見た時から全然動いてねぇ』を獲得。テーブルに置いておきます。おやすみなさい」


 どら猫とメカ猫どうして差がついたのか。慢心、環境の違い。


 次回。

 瑠香にゃんの前期試験。


 果たしてたった2週間の受講でどこまで単位を獲得できるのか。


 あるか。どら猫越え。

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