第1337話 【エピローグオブ猫と猫リバース・その1】瑠香にゃんがメインのサイドBがあったっていいじゃない

 アトミルカに製造されてミンスティラリアで熟成されたアンドロイド。

 ナンバー01番改め、跡見瑠香にゃん。


 彼女の1日はクララパイセンの部屋のコンセントにぶっ挿された状態から始まる事が多い。

 ちなみに日曜日はシミリート技師のラボでメンテナンスが行われるため、ほとんど全裸で培養液っぽい緑の汁に漬けられる。


 これは猫と猫が大学生を謳歌するサイドB。

 瑠香にゃん視点の猫エピローグである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 季節は7月。

 パイセンが大学に通い始めるタイミング。


 椎名クララは初期ロットから大学生で最終ロットも大学生なので、「大学に通い始めるとかどのタイミングだよ」と思われるかもしれないが、大学に通っているタイミングを探したらなかなか見つからず、向かいのホーム、路地裏の窓、そんなとこにもあるはずはなく、前述のタイミングは小鳩さんか瑠香にゃんが随行している3年生(2周目)か3年生(3周目)のどちらか。


 そして瑠香にゃんがいるので、結論「大学3年生(3周目)」となる。

 恐ろしい事である。



 どら猫、エピローグ時空まで含めても学年が1つしか増えていない。

 年齢は23になった。



「………………………………?」

「やっぱりにゃー。瑠香にゃんは可愛いおにゃの子に仕上げとかないとにゃー。デコイとしての効果は最大限に発揮してもらわんとにゃー。でもあたしの部屋にはあたしのタンクトップと短パンと体操服しかないぞなー。オシャレお姉さん呼ぶぞなー」


 スリープモードから復帰すると、なんかぽこますたぁにいつもの競泳水着を脱がされて着せ替え人形させられていた瑠香にゃん。

 かつてはスリープ状態でも周囲の索敵は怠らなかった彼女だが、いつの頃からか「無駄な労力、いえ、無駄なエネルギー消費は控えます」とちょっと怠惰になってしまったメカ猫。


 猫は群で生活しているうちに別の猫に影響される事があるとされる。

 悲しいかな、瑠香にゃんは猫と猫とかいう区分にぶち込まれて久しく、チーム猫として生活をしている。


「訂正を求めます。瑠香にゃんは兵器です。兵器は有事の際に起動させるものであって、平時には倉庫の中に入れておくものだと瑠香にゃんは提起します」

「はいはいにゃー。瑠香にゃん、瑠香にゃん、もうそーゆうの終わったタイミングだぞなー。瑠香にゃんは今、大学生デビューして4日目だぞなー」



「………………………………?」


 瞬間。瑠香にゃんの脳内に溢れ出した存在しない記憶、は特になかった。

 が、「ステータス『適応しなきゃこの世界では生きていけない』を獲得しました。おっぱいに格納します」と言って記憶の補完を行える賢いメカ猫がこの子。



「おはようございます! クララ先輩! オシャレと聞こえてやって来ました! あ、そだそだ、瑠香にゃんちゃん! これね、わたしの服! はいっ! 貸してあげるー!!」

「にゃん……だと……」


 魔王城の部屋割りは定期的に変わる。

 これはシミリート技師がメンテナンスを行う仕様上、数か月に1度は部屋の中を空にしてもらう必要があるため。

 ビジネスホテルで連泊したら2日目か3日目には強制的に「清掃するから15時くらいまでどっか行ってろ」とハウスキーパーさんに追い出されるヤツに似ている。


 現在の部屋割りは莉子ちゃんの隣にクララパイセン。

 その両隣に空き部屋を1つずつ挟んで、小鳩さんと芽衣ちゃんの部屋がある。


 金田一少年の事件簿だったら「こんなところにいられるか! あたしは部屋に帰らせてもらうにゃー!!」をした瞬間、翌朝待たずにシャワーシーンとかでぶち殺されるのがパイセンみたいな部屋割りになっている。


「小鳩さーん!! 莉子ちゃんがー!! 瑠香にゃんに服持って来てくれたにゃー!!」

「ご主人マスター!! にゃーです!! 瑠香にゃんエマージェンシーを発令します!!」


 2部屋向こうでパタンと扉の開閉音が聞こえて、すぐに猫部屋のドアが開いた。


「瑠香にゃんさん!! わたくし、毎日アレですわ! 瑠香にゃんさんのコーディネートするのがナニですのよ!! 今日はこちらですわ! ハイウエストのジーンズにキャミソール! そしてサマーニットのカーディガン!! フロントの大きめボタンがポイントですのよ!!」

「ふぁー。オシャレ可愛い……。小鳩さん、やっぱり大人ですね。わたしの持って来た服はちょっと子供っぽかったかもです。瑠香にゃんちゃん、せっかくなんだからお揃いの服にして欲しかったのに!! また明日、再チャレンジするね!!」


 小鳩さんが「わたくし、結婚してもアレじゃありませんこと? 絶対に猫たちのお世話から解放されませんわね?」と自身に課せられた任務の重さを知った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 日須美大学。

 日本探索員協会が出資している私立大学であり、隣県を含めても最大規模のキャンパス。


 跡見瑠香にゃんは経済学部の1年生。

 ならば3年生のクララパイセンとは学部が同じでも講義が被らないのではと心配するド素人はもうこの階層に存在しない。



 パイセンは1年生の必修科目すら取得せずに3年生になっている。

 これは大学によると2年生時点で留年喰らう場合もある、天に唾す行為として広く知られている。



 つまり、猫たちはどこに行くのも一緒。

 というか瑠香にゃんが大学生にさせられたのはクララパイセンの単位取得のために南雲さんが売った、失礼、打った最終手段なので、どこに行くのも一緒でなければ意味がない。


「うにゃー」

「ぽこ。次の講義は民法です。202号教室にて7分後に開始です」


「にゃー」

「ぽこ。現在の移動速度だと講義開始に間に合いません。想定される受講人数は38人。この数ならば口頭による出欠確認で済まされる場合があります。急ぎましょう」


「うにゃー。瑠香にゃん、瑠香にゃん」

「ステータス『こいつ一歩も動いてない』を獲得。外でおっぱいに格納するとご主人マスターに怒られるので、そこの花壇に植えます」


「あたし、ちょっとおトイレに行ってからアレするぞなー。だからにゃー。ここはあたしに任せて、先に行って欲しいぞなー」

「ぽこは5分前にお手洗いへ行ったはずですが」


「タピオカミルクティー飲み過ぎたにゃー!! にゃはー!! 先行っててにゃー!!」


 パイセンが2足歩行で猫みたいに駆けて行った。

 瑠香にゃんは202号教室へと向かう。


 それから7分後。


「アト・ミ・ルカ・ニャンさん」

「はい。ここにいます。ですが、教授。瑠香にゃんは跡見瑠香にゃんです」


「ああ。ごめんなさいね。留学生の子は発音が難しくて。出席、と。では、椎名クララさん。椎名クララさん。いませんか? ……この子、3年続けて履修してるのに姿を見たことがないな。欠席、と」

「………………………………?」



「はい。それでは出欠確認は終わりです。退席は10分までですからね。やむを得ない場合は申し出てください。確認が済んだからっていなくなったら除籍にしますよ。では、今日は親族法についてやっていきます。おや、瑠香にゃんさん、姿勢がいいですね。見ていて気持ちが良い。皆さんも見習うように。では、テキストの85ページを開いてください」

「オーダーを拝承。瑠香にゃん、速やかにテキストを開きます。………………………………?」



 瑠香にゃんは大学生として何を学ぶのか。

 チーム莉子からでは絶対に学びが、大学という場所には溢れている。


 パイセンは講義終了後、学食の端っこで発見された。

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