第1336話 【エピローグオブ呉・その2】第424回 天下呉一武道会
呉の空に玉ねぎ型の飛行船が飛ぶ。
そこに乗っているのも玉ねぎ。ペヒペヒエスである。
「こちら玉ねぎですぅ。配置につきましたよって。よし恵様ぁ」
玉ねぎ型の通信機から声が聞こえた。
『……やってくれぇさん。……玉ねぎさん。……いや、あんたぁもう立派な呉の仲間じゃからね。……名前で呼ぼういね。……これまでよぉ頑張ったねぇ』
「へ、へえ!!」
『……ぱふぱふぽふさん』
「へえ。おばちゃんは充分幸せですさかい。これからも玉ねぎで結構ですぅ」
異世界人の名前はおばあちゃんにとって少し難しい。
対して、玉ねぎはとても身近であった。
さて、「やれ」と言われたらやらない理由がない。
ペヒペヒエスにはピース編に限って結構活躍した武器。
その正体はニワトリの羽、1本作るのに1円60銭かかるのでもうそれ募金に回した方がとか言ったら針の部分でぶっ刺される赤い羽根にそっくり、『
もう見かける事もないかと思ったが、最後のお役目の時。
「できるだけ広範囲に飛んでってやー。『
まるで意思を持っているかのように、バス釣りのルアーのように、獲物の眼前でお尻振ってくれるタモリ倶楽部のオープニングのように魅惑の動きで呉の上空から地上に向けて放たれた『
「おらっしゃああああああい!! なんか金ぴかの羽、獲ったぜぇぇ!! これ換金できるヤツか!? パチンコ屋がよー!! やっぱ普段行かねぇ店だとアレだわ。ちょっと勝手が違うって言うか! まあ、トータルで見たら明日の負けを今日負けといた訳だから……明日は勝てる!! その軍資金がいるんじゃい!!」
すぐに役目を終えた。
逆神大吾、呉の上空にて捕捉される。
◆◇◆◇◆◇◆◇
地上では節子さんが狙撃の用意を終えていた。
「節子さん。言うちょくけど、加減考えてから撃ちぃさんよ」
「言われんでも分かっちょるいね。久恵さんはうるさいんじゃから」
「あ! 大吾ちゃんなら死なんから好きにやってくれてええんじゃったいね!」
「あらぁ! そねぇ言われたら本気で撃つけど、ええんじゃね? ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 『
「おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
逆神大吾、呉に帰る。
その悲鳴を合図に呉コロッセオでは
ここでお忘れの方のための呉コロッセオ。
バルリテロリの一斉侵攻でやって来た八鬼衆がひとり、増産のアイボが公開処刑と言う名のエンターテインメントとして消化された場所、それがコロッセオ。
構築スキル使いばあちゃんズによって、主に地面を抉って創られる。
呉では伝統的な技法であり、地元のちょっとした催しの際には数人の若手ばあちゃんによって創られ、役目を終えたらベテランばあちゃんたちのストレス解消にバチボコにされて土に還る。
SDGsは呉にもある、そんな自然に優しい持続可能な闘技場。
「うっうぅぅ、ひっひっはァァァァ!! んっ! んっ!! むひぃのふぉぉぉっん!!」
「……ウケる」
「チョベリバ」
新参者から順に呉コロッセオの外へと叩き出される、これが『天下呉一武道会』の予選。
バトルロイヤル形式で行われ、各予選ブロックの最後まで勝ち残った猛者ばあちゃんが決勝に進出。
パウロくん、サンタナさん、賢い犬のポッサムは運営に回っているので不参加。
ルールは単純。
その1。殺す気でやる事。
その2。でも殺したら失格。
その3。負けたら気持ちよくノーサイド。
その4。優勝賞品はドモホルンリンクル3パック。
呉の老人会が主催する、ちょっとしたレクリエーションである。
「……大吾ちゃん」
「げぇ!? よし恵ばあちゃん!? 違うだ、聞いてくれよ!! あー。えーと……そう! 息子! 六駆がさぁ! 高校卒業したからさぁ! パチンコ行けるようになっただろ? 親として、人生の最後に教えてやれる事って……な? ギャンブルじゃん?」
「……みつ子さんが聞いたら泣くねぇ。……揉まれて来ぃさん。……『
「おぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」
大吾が予選に飛び入り参加した。
節子さんが異を唱える。
「ちぃとよし恵さん! タイミング悪いなんてもんじゃなかろうがね!!」
「ホントいね! もう予選終わったところよ!!」
「……ふっ。……運がええねぇ。……大吾ちゃん」
「嫌じゃねぇ、この人。自分のミスをなんか良い感じに誤魔化しよってよ」
「こういうとこあるからねぇ。よし恵さんは。昔からねぇ」
よし恵さんが節子さんと久恵さんの方は向かずに、上空を飛行中の玉ねぎ飛行船に声をかけた。
「……ぱふぱふぽふるんさん」
『なんか可愛くなっとる! もうそれでええですぅ!! 銅鑼鳴らしますよって!! はい、皆さん怪我に気ぃ付けて、頑張ってもろて!! ねっ!!』
ジャーンという音が響くと、よし恵さんが鎌を、節子さんがガトリング砲を、久恵さんが両腕にギロチンを発現してコロッセオに飛び込んだ。
天下呉一武道会の決勝戦はシード扱いの三女傑も加わっての大乱闘スマッシュばあちゃんズ。
全てのばあちゃんにとって、三女傑と仕合えるのは誉れ。
皆が血と涙を流すべく吶喊していく。
「お疲れ様です。雷門サン」
「あ。はい。ポッサム……さん? 日本語お上手ですね」
「雷門サンは犬よりも鳴き声がお上手ですよ」
既に国立大学に現役合格できる水準の知能を得た賢い犬ポッサム。
姿だけクソデカいドーベルマンだが、中身は人間か、それ以上のナニかが入っているようにも思える。
そして雷門さんは相手に敬意を欠いていた事に気付いた。
すぐに頭を下げる。
「も、申し訳ない!! 私は……いつから相手を外見で判断して……!! 日本語がまるで人の専売特許のような事を!! 泣き言は鳴いてもまだ人としての尊厳は失くしたくない!! ポッサムさん!! 私を殴ってください!!」
「雷門サン。オレ、ガチ殴りする。おまえの首、どっか行く」
「えっ。……すみません。殴らないで許して頂く方法を教えてください」
「私も学びました。カタコトで喋る獣タイプの異形って怖いんですね。失礼しました。気にしていません。早く強くなれると良いですね」
第424回天下呉一武道会が行われたこの日から雷門善吉のひた向きで地道な強者へのあゆみが始まるのだが、それはまた別のお話。
「おぎゃああああああああああああああ!! くそっ!! こうなりゃヤケだ!! ババアどもォ!! オレに金を寄越せぇ!! さっき負けた8万取り返しに行くんじゃい!!」
「……よぉ吠えたね」
「言われちょるよ! 節子さん!」
「一番のババアはよし恵さんじゃろうがね!!」
それから先は一瞬だけ輝きを発する3つのシルエット。
きたねぇ花火のように打ち上がる逆神大吾。
その様子を眺めて談笑する殺し負けた出場ばあちゃんたち。
そして地上に降りて来てオニオンリングの売り子を始めたペヒペヒエス。
いつも通りの呉の風景がそこにあった。
アクエリアスとポカリスエットは自由に選べる、希望者には塩飴、あるいはきゅうりの浅漬けも配布される。
呉の夏はこれからである。
今年も暑くなりそうな、そんな気配を感じさせる7月のとある1日であった。
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