第1328話 【エピローグオブ木原クソさん・その3】戻れたぁぁぁ!? ~綺麗なジャイアンは果たしてジャイアンなのか、ジャイアンじゃないのか問題~

 エピローグ時空の流れは早い。


 捕虜としてひっ捕らえられたナタデココがほんのわずかなやり取りでルベルバック所属の科学者へ。

 彼は元々八鬼衆ではなく、テレホマンと同じ技術部門だった男。

 バルリテロリの技術屋は部下想いな者が多いのか、「自分以外の安全だけはどうかご配慮おくんなまし」と首を差し出す者が大半である。


 そしてご配慮するよと皇帝陛下のひ孫が言ったので、君主独裁制のバルリテロリでは皇位継承権を保持している六駆くんの言葉は遠くにいて声も届かない喜三太陛下のそれよりも重くなったりしたらしい。

 絶対に皇位継承なんかしない逆神六駆であっても、ひ孫様である。


「キャンポム閣下。私がこの、ゴリ門宮? の操作をしてもよろしいのでしょうか? あの、記憶が正しければ、私どもが襲って崩落させた施設なのですが」

「私は構わない。しかし、然るべき許可は得るべきだろう。貴官の言い様は尤もだ。よろしいですかな? 南雲殿?」


「えっ。私は一向に構いませんけど。本当にやってもいいかな? 芽衣くん?」

「うわぁ! 責任のたらいまわしってヤツだ、これぇ!! 勉強になるなぁ!!」


 この世界はどうあっても芽衣ちゃんに責任を押し付ける。

 そういうのは良くない。



「みっ! どうでもいいです!! みみっ!!」


 ヤケクソ芽衣ちゃまが爆誕していた。

 みんなして面倒事を押し付けるからである。



 ナタデココがゴリ門宮の端末を操作して、まずガリガリクソのデータをより正確なものへと書き換えた。

 これで時間をかければ完全な分離、ヨーグルトの蓋を綺麗に剥がせた時のようなスッキリしたヤツも可能になったが、別にそれは求めていないのでスルー。


 今は日本本部が新年度に南雲体制へと変わってからわずか3ヵ月。

 人手が欲しい。

 木原さんに帰ってきてもらえるなら早い方が良い。


 南極にダンジョンが発生したり、深海にダンジョンが発生したり、そういうイレギュラーを単騎で済ませてくれる人材は貴重なのだ。


「では……。ガリガリクソを分解して、ゴリ、あっ。失礼しました。木原様の体内に溶かします。よろしいでしょうか? キャンポム閣下」

「私は貴官の裁量に任せると言いたいが、然るべき許可は求めるべきだろう。よろしいですかな? 南雲殿」


「えっ。私はもうどんどんやって頂いて構わないんですけど。いいかな? 芽衣くん?」

「うわぁ!! こういう事してるから組織の動きが鈍いんだ!! もう力のある個人が全部判断しちゃえばいいのに!!」


 六駆くんが君主独裁制の可能性を見出してしまいそうである。


「みみっ! もう芽衣は帰ってプール行きたいです!! 芽衣、今度のクラスマッチ、水泳に出るです!! みみみっ! 水の中では誰も邪魔しないです! みみみみっ!!」


 何故か最後は芽衣ちゃまが決裁して、ゴリ門宮が輝き始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 30分ほど時間が経った。


 ナタデココはゼリーっぽいけどおっさん。

 キャンポム少佐は紳士的な軍人だがおっさん。

 南雲さんは言うまでもなく40代に突入しておっさん。

 六駆くんは18歳だけど47歳でおっさん。


「みみみみみみみっ!」

『はい。ハイパーエンジェルマスター。瑠香にゃんです。まだお時間が掛かるようでしたら瑠香にゃんデータベースにある『瑠香にゃんが歌ってみた』シリーズ7巻をスマホに転送します。こちらは主にボカロ曲が多いです。スリープモード中の瑠香にゃんにぽこますたぁがダウンロードしやがりました。ステータス『なんかすごく馴染んだ』を獲得済。瑠香にゃんのおすすめは『メルト』です。送信しました』


 芽衣ちゃま以外はおっさん、ゴリ門宮はルベルバック総督府となっている離宮の隣に建っており、周りは砂漠。

 スマホをいじろうにも芽衣ちゃんは電子機器が得意ではないので、電子機器が得意な子というか、もう本人が電子機器みたいな子に連絡したら有意義な暇つぶしを提供してくれた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」


 瑠香にゃんの機械的な歌声をかき消すかのように、咆哮が轟いた。

 そして出て来る。

 見慣れた筋骨隆々、ゴリゴリしたシルエット。



「うぉん。お騒がせしてごめんなさい。木原です。なんだかお手数もおかけしたみたいで。あ。意識はあったので、皆さんが御尽力くださった事も、はい。南雲くん、お久しぶりです。木原です」

「キャンポム少佐!! ええと、ナタデココくん!? ごめん、ちょっと致命的なエラー吐いてる、これ!! 私が求めてたのはこんな綺麗なジャイアンみたいになったゴリラじゃないの!! ちょっと1回引っ込めてくれます!?」


 内股でモジモジしながら敬語を操る新種のゴリラが出て来た。

 ソシャゲのガチャだったら虹色の演出が伴っているはずである。



「えっ? こちらは、御所望のゴリラでは?」

「恐縮です」


「違いますよ!? うちのゴリラは恐縮しないですし、よしんば恐縮したとしても煩いですから!!」

「南雲殿の仰る通りだ。……まったく、人の命は儚いものですな」


「えっ!? 木原さん、死んじゃったんですか!?」

「恐縮です」


 みんなが一斉にリアクションを取り始めて事態の収拾が困難な雰囲気を漂わせ始めるが、このエピローグ時空、あと800文字しかない。

 どうにかできる者はいないのか。


「みみみみみみみみみみみみみっ」


 みみみアラートを発しているとても賢くて可愛い生き物がいた。

 芽衣ちゃんには木原さんがどうしてこうなったのかは分からない。

 だが、どうやったらいつものゴリラに戻せるのかは分かる。


「キャンポム閣下。私が愚考いたしますに。ヨーグルトを使った自家製チーズケーキを作る際にレモン汁を投与いたしますが、タイミングや分量を誤ると凝固したり分離したり、変な感じになる事がございますれば」

「なるほど。つまり貴官はこう言いたいのか。木原殿の中に入った……クソ? クソが、変な感じになった、と。南雲殿。それは実に無常ですな……」


 強さの理由が最後までよく分からんままだった木原さん。

 そこにガリガリクソとかいう、なんでクーデターを起こそうとしたのかもよく分からんものを吸収合併させたら、体内の大事なナニかがストライキ、あるいは依願退職して恐縮モードの木原さんになった、と。


 そんなクソみたいな説明も声明も必要としない言葉を芽衣ちゃんが発した。



「み゛ー……。おじ様。芽衣、おじ様が大好きです。ちっ。です。みみ……」

「あ。恐縮で……うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!? おじ様も大好きだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ガチムチに固まった木原ゴリラヨーグルトが戻って来た。



「キャンポム閣下」

「実に無常だ……」


 意訳すると「なんでこうなったのか、どこからこうなったのか、一切合切さっぱり分からんけどデキました」となる。


「ああ、良かった! 木原さん! 帰りますよ!!」

「芽衣ちゃまぁぁぁぁぁぁぁ!! おじ様だよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 六駆くんが言った。



「南雲さん? 人の心はどこやったんですか?」

「私!? 私じゃないよ!? あ、ごめんね、芽衣くん!! じゃあ私だ!! 今度ね、何でも言うこと聞いてあげるから!! それで許して!! 本当にごめんね!! きっと君の番が来たら、なんか世界が色々と便宜供与するから!! 君の番ってなんだろう!! ごめんね!!」



 どこまで行っても、この世界が終ろうとも。

 芽衣ちゃんはとてもいい子で可愛い。


 きっとステキなエピローグが待っている。


 いずれにしてもその時はもうしばらく先になるかと思われる。


 この世界が大事なものを出し惜しみする傾向にあるのは諸君も知っての通り。

 まったく、無常ですな。

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