異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第1319話 【エピローグオブ久坂剣友・その1】伝説のじい様、まだあんまり語られていない激動の半年を振り返る ~弟子が致して、息子が恋人こさえて、ハゲとガムとヘソ島くんが家に住んじょる~
第1319話 【エピローグオブ久坂剣友・その1】伝説のじい様、まだあんまり語られていない激動の半年を振り返る ~弟子が致して、息子が恋人こさえて、ハゲとガムとヘソ島くんが家に住んじょる~
久坂家の居間では。
テレビ画面を見つめた久坂さんが寂しそうにつぶやいていた。
「ハゲ……。いや、甲陽。お主が死んでしもうてから……急にのぉ。気付かんかったんじゃけど、ワシの周りも変わったと思うてのぉ。ヘソ島くんがなんぞ普通にうちにおるし。ガムのらはアパートこさえたし。小鳩が家に来てくれる回数は爆増しちょるし。五十五も六宇ちゃん連れてくる回数が爆増しちょるし。……変わったのぉ。ワシの周り。のぉ? 甲陽……」
久坂さんの瞳から涙がこぼれる。
「おう。剣友。たかがゲームで死んだからってそこまで邪険にする事ぁねぇだろうよ。大あくびして涙まで浮かべて。悪かったって。もう1回仕合おうぜ」
ティガレックス相手に乙った辻堂さんに対する制裁、エアお葬式が行われていた。
「にゃっはー!! 次はあたしが代わるぞなー!! 姫島さんはあっち行ってにゃー。小鳩さんの下着がお風呂場に干してあるぞなー!!」
「くくっ。化け猫め! その手は喰うか! この勝負、預ける! 某とて、住まいあっての趣味よ!! 貯蓄が充分になるまで稼業も預ける!!」
今日の久坂家はいつも以上に賑やか。
とりあえず、姫島幽星が何事もなく住みついていた。
彼の功罪を精査したのは南雲さん。
割とすぐに答えが出た。
「久坂さん、仲がよろしいみたいですし。もうバルリテロリの子たちと一緒に引き取ってください。庭に小屋でも建てて。ねっ。お願いします」
「修一? お主、なんかえらいドライになっちょらんか? うち、別に養護施設やりよる訳やないんじゃぞ?」
この簡単なやり取りで姫島さんが久坂家の庭にナイスイン。
とある男に「てめぇ。小鳩の服や下着に指一本でも触れてみろぃ。ぶち殺すぞ?」と警告されたので、今はあっくんの干してあるトランクスをたまに座興で摘まむ程度。
もう本気の稼業からは足を洗う所存らしい。
「うにゃにゃー。辻堂さん、辻堂さん! 回復するなら今ですにゃー! 久坂さん、久坂さん! 尻尾斬れますぞなー!! あたしのガンランスが火を噴くにゃー!! うにゃにゃにゃー!!」
クララパイセンは餌をくれる人のところを定期的に巡回するのが仕事のどら猫。
今日は久坂さんちの番だった。
ちなみに瑠香にゃんはメカ猫なので餌をもらう巡回には参加しない。
「ちっ。クララよぉ。てめぇ、さっきからなんで俺の近くにタル爆弾置いて……関係ねぇタイミングで爆発させやがるんだぁ?」
「にゃはー!! リア充爆発しろってヤツですにゃー!!」
「上等だぁ。てめぇを恐竜の餌にしてやるぜぇ」
「ひょっひょっひょ! 賑やかな我が家も悪うないから困ったもんじゃわい! ……ハゲ。お主、まーた乙っちょる。もう船降りろ」
楽しいモンハンタイムが終わると、お昼ご飯の時間がやって来る。
そう、この人たち、全員が平日午前中からモンハンをキメていた。
探索員は不定休。
タイミングが合うとこんな事もできる。
フリーランス感覚で準公務員扱いの仕事が可能な日本探索員協会。
履歴書を用意したら、諸君も本部へゴー。
南雲さんが瞳から光を失って「目標をセンターに入れてスイッチ……。目標をセンターに入れてスイッチ……」と呟き始めてもう1ヶ月になる。
日本本部は人材を求めている。
「お師匠様。ゲームは一旦おヤメくださいまし。辻堂さん。庭を散らかさないでくださいまし。木刀転がってましたわよ」
「くははっ。てんでガキじゃねぇかよぉ。いい年こいたじい様たちが。こいつぁ傑作だなぁ! くはははっ!」
「あっくんさん。おゴムの箱をわたくしの鏡台に置きっぱなしでしたわよ! まだお昼ですわ!!」
「ジョー。おめぇさん……」
「……ご、五十五はまだ帰って来ねぇのかぁ? 野郎、ちっと仕事し過ぎなんだよなぁ」
「くくっ。阿久津浄汰。その勝負、もらい受けても?」
「ぶち殺すぞぉ? ちっと俺ぁラブホに戻らぁ。飯は先に食ってろぃ」
もう自分の家の事をラブホと呼んでしまうあっくん。
思えば久坂家に居ついてから結構経っていた。
ショッキングピンクのお城を築城したのは去年のクリスマスの事だったか。
「姫島さん」
「くくっ。何用か。マドモアゼル」
「お台所に入らないでくださいまし。あそこはお料理する場所ってご存じありませんの? 衛生的にアウトですわ」
「久坂剣友。この勝負、預かれ」
小鳩さんも随分と丸くなったが、やっぱりお排泄物属性にはちょっと冷たい。
「ひょっひょっひょ。ワシはもう隠居してもええような気がするのぉ。六駆も隠居したんじゃし。のぉ? そう思わんか? 莉子ちゃん?」
「ほえ? モグモグモグモグ。わたし、よく分かんないでふ! モグモグ」
いつから莉子ちゃんが食事シーンにいないと錯覚しておられたか。
冒頭、辻堂さんが乙って久坂さんがエアお葬式制裁を加えていた時には、もうちゃぶ台にあるまんじゅうを食べていた。
真の淑女は租借音だって出したり消したりできるのだ。
レディー・リコを舐めてはいけない。
◆◇◆◇◆◇◆◇
午後になると久坂さんは診療所へ。
「久坂剣友さん。どうぞー」
「こりゃあ先生。お世話になっちょります」
持病は高血圧だけとはいえ、久坂さんも御年71歳。
常に体のメンテナンスと予防は大事。
今では「病院なんぞ行かんでもワシの体は自分が一番知っちょるわ」とか言おうものなら四方から怒られる。
それが存外心地良い。
「久坂さん。ちょっと太られました?」
「そがいですか? 自分じゃあ気付かんかったけども、確かに最近は家が賑やかになっちょりますけぇ。ついつい誰かと一緒になんぞ
「結構な事ですよ。お年を取られると太る事も才能みたいなものですから。その調子でご家族と仲良くしてくださいね。では、いつもの血圧のお薬出しておきますので。もうグアルボン? よく分かりませんが、変なもの食べないでくださいね。今回は胃薬出しませんから」
「いや……その節はお騒がせして……お恥ずかしいったらないですのぉ……」
莉子ちゃんのお土産『グアルボンの照り焼き油淋鶏風~タルタルソースを添えて~』を食べたところ、胸焼けを起こして五十五くんに担がれ来院したのも今では笑い話。
ちなみに、久坂さんはもうグアルボンというか、ミンスティラリアからのお土産に手を出す時は五十五くんとあっくんのダブルチェックを受ける事が義務付けられた。
あそこの異世界は今、小鳩さんが久坂家、あるいはあっくんの家に来る機会が増えるとみつ子ばあちゃんも不在であるため、揚げ物に濃いソースぶっかける料理が増えている。
六駆くんもたまにやられる修羅の食堂がそこにはあるのだが、それはまた別のお話。
◆◇◆◇◆◇◆◇
内科の受診を終えて家に帰る途中で『
目を細めてから手を挙げる。
「おお! 五十五! 帰ったか! ご苦労じゃったのぉ!」
「父上!! お話がある!」
「ほぉ? なんじゃ?」
「これから3時間ほど山の中に行っておいて欲しい! 許可するまでは下山しないで欲しい!!」
「————ヒュッ」
久坂さんの脳裏に去来する不吉な言葉たち。
反抗期、彼女と水入らずの時間、姥捨て山、加齢臭、言うこと聞かずに飲んだ酒。
どれも割と当てはまる気がして、なんだかとても悲しくなった伝説のじい様。
その頬を伝うは涙か。
次回。
涙。
じゃあ涙である。
デュエルスタンバイ。
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