第1317話 【エピローグオブオタマさん・その1】乳のために。復興の父となる。そんな馬鹿な男がいたんですよ。 ~なぁ~に~? やっちまったのか?~

 時は7月。

 喜三太陛下が四郎じいちゃんに屈服なされた直後のお話。


 バルリテロリ皇宮からお送りします。


「じじい様よぉ! 国中のインフラがまだまだ全然なんだわ! 軍はどうせ解散させられんだろうし? その前に動けるヤツら集めて再編成してよぉ? 現世のヤツらに怒られねぇ場所はササっと対処しちまった方が良いんじゃねぇか? つーかよぉ。半年もスキル使い、特に構築スキル使える連中を放置してくれてんのはよ。これ、現世の連中の慈悲だろ? なぁ!」



「えっ!? ……誰や!?」

「オレはクイントだろうが!! じじい様が現世にビビって何もしねぇから! オレとチンクエみたいに目ぇ付けられて処罰されても良いヤツらが働く時だろ、今はよぉ!!」



 陛下が「……ワシの知らんとこでまた合体したんけ?」と首をお傾げになられた先に立っているのは、まぎれもなく逆神クイント太郎。

 学もなければ品性もなく、あるのは飽くなき性欲だけだったはずのこの男。


 今の姿はまるで臣民の代表として物言う傑物。

 皇位を捨てた事すらも「有事の時、邪魔になるもんなら最初っからいらねぇ。そうだるぉ?」と言わんばかりの綺麗な魂。


 どこぞの穢れた魂とはいつの間に差がついてしまったのか。

 在りし日のクイントは僅差で競り合っていたはずである。


「オタマ!! クイントがバグっとるんやが!!」

「はい。陛下。違います」


「バグってへんのか!?」

「はい。陛下。違います」


「どっちや!?」

「はい。陛下。左様です」


 クイントが跪いた。

 一体どこでバルリテロリにおける最敬礼を学んだのか。

 あれほど皇帝陛下を敬うという事を知らなかったクイント太郎が、ついに跪く。


 戦争中にして欲しかったと陛下は思われたが、すぐ勘違いにお気付きあそばされた。


「あれ!? クイント、ついにワシに平伏しとると思ったら……微妙にこっち向いてないやんな!? お前が向いてるのは……えっ!? オタマ!? えっ!? オタマ!?」

「はい。陛下。左様です」


 クイントが跪く先には、23歳になったリクルートスーツの皇宮秘書官がいた。


「オタマ!! オレ、バカだけどよ!! これで良いんだよな!?」

「はい。クイント様。左様です」


「そうか!! じゃあぶっ壊れた下水の整備してくるわ!!」

「いや、クイント。多分やけどな? オタマが肯定したのはお前がバカってところやで?」


 オタマさんが「陛下。御許しを得て申し上げます」と前置きした。

 なんだかとても懐かしい気持ちになったと、陛下には一瞬だが栄華を極めたバルリテロリの光景が瞼の裏にハッキリと見えたという。



「陛下。テレホマン様はこの半年、ずっと皇国のために働き通しで随分と四角い頭が丸くなられました。クイント様はチンクエ様を伴って、今やバルリテロリB地区における支持率は陛下のそれを上回る情勢。陛下。お聞きいたしたくございます。陛下。陛下はこの半年、死にたくないんや、死にたくないんや。もっと女抱きたいんや。オタマ、抱きしめてくれ。いい匂い嗅がせてくれ。以外に何か成されましたか? 陛下? 陛下。陛下? 陛下」


 喜三太陛下は「あ。国会答弁ですげぇ喋る野党の人に追い詰められとる総理大臣の気持ちがなんか分かった」と思われたのち、「ごめんなさい」と頭を下げられた。



「げへへへへ!! オタマ!! オレ、頑張るからよ!! 新築の中古物件買って! 一緒に暮らそうな! おっぱいはそれまで我慢するぜ! げへへへへ!!」

「はい。クイント様。左様ですね」


 クイントが「行ってくらぁ!!」と言って皇宮から飛び立っていった。

 喜三太陛下が恐る恐る「喋ってもええ?」とお伺いになると、オタマさんは「皇帝陛下ともあろう御方がどうして私ごときに許可を求められますか」と抑揚のない声で応じた。


 意訳すると「はよ喋れ」となる。


「オタマ……? お前、自分のおっぱいをちちじちにして、クイントを生まれ変わらせたんけ?」

「はい。陛下。違います」


「あ。これはワシにも分かった。アレやんな? 私は何もしておりませんが、クイント様が勝手にご立派になられただけです。って言うヤツやろ? かわいそうになー。おっぱいに釣られてタダ働きかー」

「いいえ。陛下。違います」


 オタマさんがスーツの上着を喜三太陛下の頭に被せてから言った。

 圧倒的な存在感のブラウス姿になってから言った。

 陛下の耳元で囁くように言った。



「私は己のおっぱいに価値など見出せませんが。たかが脂肪の塊で皇国のために貴重な煌気オーラ供給器官をすり減らして働く御方には、このようなもの。いくらでも差し上げる所存にございます」

「えっ!? ………………………………ぶーっははははは!! 今、この時よりワシ! 逆神喜三太がバルリテロリの治世を立て直す!! ……ワシもその列に並んでもええよな!? な!? オタマぁ!? ワシ、ワクワクすっぞおぎゃああああああああああああああああ!!」


 意訳すると「半年ほど遅すぎました」との事である。



 働き者に与えられるおっぱい。

 これは愛の形か、おっぱいの悪用か、第三おっぱいセクターか。


 復興期にはラブコメが起きやすいとされるデータがこちらにあるが、諸君に開示できないのが実に残念。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バルリテロリの居住区の1つ。

 B地区では。


「クイントさまー。おっぱい出したら家を直してくれるって本当ですか? あたしのヤツでもいいですか?」

「おれも! クイントさま! おれのでも良いかな!?」


 子供たちに大人気のクイントがいた。


「バカかおめぇら!! おっぱいってのはなぁ!! 育つまでに時間がかかるんだよ!! そんなもんいらねぇよ! 家だぁ? 知るか、そんなもん!! オレが誰にでも優しいおじさんだと思うなよ、ガキども!! こちとらまともに働いた事もねぇっつーの!! おらっしゃぁぁぁぁい!!」


 子供たちに乱暴な言葉を浴びせるクイント。

 地面にも乱暴な態度は変わらず、力任せに殴りつける。


「ひっ!?」

「こ、こえー!!」


 子供たちが逃げていく。

 誰もいなくなった荒野には、立派な木造家屋が構築スキルで創られていた。



「げへへへ! あとは勝手に住めばいいじゃねぇか! これで3ポイントおっぱいはキマったな!! いや? スラムおっぱいダンクか!? チンクエ! どっちが点いっぱい入るん!?」

「……良い。……兄者がここ半年すごく良い。……私はどうしたら良いのだ」


 クイントよりも器用にスキルを使えるのだから、手伝ってあげれば良いのでは。



 実はクイント・チンクエ兄弟に対する臣民たちの評価は悪くない。

 それは皇宮での本土決戦最終盤の様子が『テレホーダイ・ハッピーエンド』によって電脳ラボへと常時流されていたから。


 そう。

 ラボメンたちの数人が「クイント様もチンクエ様も頑張ってんなー」という素直な気持ちを眼持ちの臣民と同期していたのである。


 バルリテロリを襲った未曾有の危機に、なんか見たこともないし名前も知らんかった皇族離脱したらしい兄弟が頑張ってる。

 これは心情的に百点満点が出てしまうヤツ。

 アルマゲドン現象。もう兄弟どっちもブルース・ウィリスに見える。


「あ゛あ゛あ゛あ゛!! 早くデカいおっぱい揉みてぇぇぇぇぇぇ!!」


 そしてこの飾らない姿が、支持4割、距離を置きたい6割となって今、バルリテロリの復興を支えていた。

 これは誰の手の平の上のエピローグか。

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