第1316話 【エピローグオブ六宇ちゃん・その3】ご挨拶する女子高生(21) ~急に息子(弟)が彼女連れて帰って来た! 風雲急を告げる久坂家!!~

 息子が女子高生と会うとか言い残して女子高生莉子ちゃん(卒業寸前)と出かけて行った久坂家の主、剣友じい様のスマホが震えた。


「よお。剣友。鳴ってんぞ」

「ハゲ、読んでくれぇ。ワシはもうダメじゃ、これ……。修一じゃったら、ワシは冥途の土産買いに行っておらん言うて返信。頼んだで」


「ったくよぉ。おっ。五十五からだねえ! どれどれ。あー。彼女できたから紹介してえ。今日、これからそっちに連れて行ってもいいかい? 父上よぉ。ってなもんだ。おん? 剣友?」


 久坂さんが掛け布団を投げ捨てて立ち上がった。

 悪かった顔色には血の気が戻り、むしろ血圧が心配になった辻堂さんにオムロンの血圧計を装着させられるほどの滾りようであった。


「ハゲ。小鳩と浄ちゃんに連絡せぇ。ワシは庭でアパート建てよるガムのらを山の中に捨てて来るけぇ。バルリテロリのお嬢さんが来るっちゅうことはじゃで? ガムのらがおったら面倒じゃろうが」

「おいおい。そりゃいいが、剣友? どこ行くってんだい?」


 久坂さんが着流しを脱ぎ捨てて答えた。



「ちぃと滝に打たれて来る」

「おう。もしもし。ジョーか? 剣友が良くねえんだ。すぐ帰って来てくれっかい? 小鳩も連れてな。来客があるらしいから料理も頼まれてくれ。おう。おめぇさんたちが帰って来るまでは俺が引き受けた。剣友、落ち着け。死ぬぜ?」


 今は2月の中旬である。



 後日、この時の功績を大と評価された辻堂甲陽は正式に久坂さんちの居候になったという。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バルリテロリに生えている門をくぐると一旦ミンスティラリアへ到着する。

 これは日本本部と戦争やっちまった敵国という都合上、直通の転移門をおっ建てるとアレがナニして色々とまずいための措置。


「じゃ、わたしはここで失礼しますね! 六宇さん! 頑張ってください!!」

「え゛。莉子ちゃん来てくんないの!? 莉子ちゃんも来てよ!!」


「ごめんなさい! もうお夕飯の時間なんです!!」

「……そっか。じゃあ仕方ないね」


 じゃあ仕方ないのである。

 莉子ちゃんがここで離脱。


「逆神六宇! いや、失礼した。またフルネームで貴女を呼んでしまった。交際とは結婚を前提にするものと小坂莉子からレクチャーされている。ならば、貴女を妻として迎える時に備えて今から慣れておかなければ! 六宇! 準備は良いだろうか!!」

「えっ、やだ、マジできつい。……好き」


 準備は良いらしいので、ミンスティラリアにたくさん生えている門の中から久坂家に繋がっているウェディングゲートを通過した五十五くんと六宇ちゃん。

 彼が「2時間後に帰りたい!!」と連絡してから1時間59分が経っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そして2時間ぶりの久坂家。

 六宇ちゃんがソワソワしながら「やばっ。あたし制服なんだけど。スカート短すぎて怒られるんじゃん!?」と既にどうしようもない事を口にする。


 人は緊張極まると現時点ではどうしようもない事を気にしがちになる。


「お待ちしておりましたわ! 五十五さん! お久しぶりですわ! 六宇さん!」

「あ! 小鳩さんじゃん! おっつー!! ……なんで小鳩さんがいるの?」


「姉上と知り合いだったか! 六宇!! では、紹介の必要はないかもしれん!!」

「え、いや、えっ!? ちょ、小鳩さんって五十五の姉ちゃんなん!? やばっ。無理無理!! こんなスタイル良い人がお姉ちゃん!? しんどい!! あたしちんちくりんじゃん! 一緒にいると恥ずかしいって!!」



「とてもいい人を見初めましたわね。お姉ちゃん、はわわわわですわよ」


 姉上のハートをゲットした六宇ちゃん。



 料理の用意をするので客間で待機せよと姉上からの指示を受けた五十五くん。

 「六宇! 私の手を取って欲しい! 日本家屋は意外と段差がある! 慣れなければ危ないかもしれん!!」と言って、振り返り手を差し出した。


「やばっ。……好き」


 客間に向かうとそこには五十五くんの義兄が待っていた。


「ちっ。五十五ォ……。てめぇ、俺ぁ仕事してたってのによぉ。なぁに急に早退させてくれてんだぁ? あぁ? てめぇか……。五十五の女ってヤツはよぉ」

「ひぃぃ!? なんか怖い人出て来たんだけど!?」


「六宇! 兄上だ!!」

「え゛? いや、えっ? いや!! 五十五の姉ちゃんと兄ちゃん、似てなさ過ぎじゃん!? どーゆう遺伝してんの!?」


「あぁ? てめぇ……。俺ぁ性格が最悪だって知っててその口の利き方なんだなぁ?」

「ひぃぃぃ!? 知らないし!! あ゛。知りませんし!!」


「ちっ。……良い度胸してんじゃねぇかよ。座れぃ」

「は、はい」


「よぉ。てめぇ……。甘ぇもん好きかぁ?」

「は、はひ!? はい! 好きですっ!!」


「ちっ。ここによぉ。たまたま、暇だったから作ったクロカンブッシュがあんだよなぁ。マジで暇だったから作ったんだけどよぉ。……食うかぁ?」

「やばっ。むっちゃ美味いし。……あ゛。ごめんなさい! ごめんなさい!! いただきます言わないで食べちゃった!! ごめんなさい、いただきます、美味しいです!!」


 兄上が悪い顔で「くははっ」と笑った。

 そして続けた。


「てめぇ、既に小坂を超えてんなぁ? いただきますと味の感想言えるとかよぉ?」


 評価は上々か。

 五十五くんが念のため確認する。


「兄上!」

「あぁ? なんだぁ? 五十五ォ? おめぇ、女にいいとこ見せようって魂胆かぁ? くはははははっ!!」



「なにゆえ『結晶外殻シルヴィスミガリア』を発現しているのだろうか!!」

「ちっ。俺ぁ家じゃこの恰好だろぃ。五十五ォ。のぼせてんじゃねぇぞぉ?」


 あっくん、急に義弟が「彼女を紹介したい」とか言うで準備が間に合わず。

 やむなくマックスバトルフォームで応じた模様。キラキラしていた。



 客間の襖が開く。

 久坂さんが燕尾服で登場した。


「お控えなすって! お控えなすって!! 早速のお控え、ありがとうござんす! 手前、生国と発しますは西日本! 周防の国! 姓は久坂! 名は剣友と」

「ヤメとけって言ったろ、剣友。嬢ちゃんが目ぇ丸くしてんじゃねえか。よお。俺ぁ辻堂甲陽。ここの居候だ。こっちのじいさんが久坂剣友。なんかキマってっけど、ここの家主で五十五の親父。小鳩の師匠でジョーの義父。これで合ってんのかねえ?」


 それから五十五くんが「こちらは先ほどバルリテロリでお会いした! 六宇だ!! 女子高生かもしれん!!」と良くない紹介をしたが、六宇ちゃんが多留年女子高生だと知っている小鳩さんが「合法女子高生らしいですわ。クララさんが言ってましたもの。安全ですわよ。お師匠様」ととりなし、その夜は祝宴が賑やかに執り行われた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから5ヶ月ほどが経った、7月。

 五十五くんが南雲さんからの要請を受諾してバルリテロリ駐在武官になってから、六宇ちゃんと一緒に過ごす時間はどんどん増えていった。


 今は大急ぎで造られたプールに足をつけて、水をバシャバシャやりながらバルリテロリの夏を楽しんでいる。


「ねー。五十五? 五十五っておっぱいおっきい方が好き? ごめんね。あたしさ、小さいんだよねー。一応頑張って水着になったけどさー。こんなのしまった方がいい? やっぱおっきい方がいいよねー? 谷間とかないもんねー」

「私は貴女が好きだが! おっぱいの大小と関係あるのだろうか!!」


「……あ。まぢ無理。もう好き。彼ピ、しゅき」


 Nテェテェによって急造されたプールの中からフナたちが2人を見つめていた。

 バルリテロリでは恋の花は初夏に咲くらしい。

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