第1315話 【エピローグオブ六宇ちゃん・その2】異世界の青年と引かれ合う女子高生(21) ~恋愛は留年するどころか飛び級する乙女~

 逆神六宇。

 高校生を6年やっている猛者である。


 逆神家は名前に引っ張られる傾向にあるが、異世界転生ではなく高校生周回リピートが6周目というのは六駆くんですら成し得なかった偉業。

 しかもどら猫のように「デキるのにやらない」という怠惰な理由ではなく、シンプルに「バカだから」という事情で7度目の高校生として次年度も生きる事が決定済み。


 本人は卒業する気だったので、これはどら猫に分が悪いか。


 身長は莉子ちゃんより少し高く、おっぱいはBランク。

 ピュアドレスちゃんに「この子もご主人では?」と一時的ではあったものの、ピュア判定がもらえるほどに純粋なバカで良い子。


 それが六宇ちゃん。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 久坂五十五。

 年齢すらも曖昧で、物心ついた時に持っていたのはアトミルカ構成員ナンバー55という数字のみ。

 久坂剣友との出会いで全てが始まったかのように思えるが、それまでの実直な歩みがあってこその今がある。


 人は疑わず己を疑うその性分は見る者によって主体性がなんやかんやと議論を呼びそうでもあるが、そんな外野の声すらも「確かにそうかもしれん!!」と受け入れる包容力は現世でも随一。

 「小坂莉子には大恩がある。ならば!!」と相手の情報は「女子高生」だけ、日本で生きる成人男性にとっては昨今、一部のデンジャラスな者を除けばマイナス要素にすらなり得る、付き合うだけで取っ捕まるかもしれない領域にも「そうかもしれん!!」と踏み込んだ。


 代償として父上が一瞬だったが、天に召されそうになった。


 自身を知ってくれた父上や姉上、そして兄上、多くの仲間たちと同様に、まずは相手を知りたい。

 イエスかノーかの判断は自身ではなく、己が魂が判断する。


 重ねて実直な男、それが五十五くん。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 逆神クイント太郎。


 おっぱいに恋焦がれて、その一心だけでとりあえずバニングさんの拳を数回砕いた、剛の者。

 36年と少し生きて仕事を一切したことのない純潔の無職。

 性欲はあるのにそれを放出しようとしない、どこまでも純潔を守る男。


 「だってよぉ。好きでもないヤツのおっぱいはダメだろ?」という、拗らせ気味の信念が体のど真ん中に力強くそそり立っており、「今、好きなは?」と聞かれたらば「六宇とオタマと現世のにゃーにゃー鳴いてた!!」と即答する、要するに「ちょっと会話したらもう好きになる」男子中学生的な感性をまだ持っている男。


 学年に1人はいた「学校全体の女子複数名に同時告白する」とかいう猛者にしかできない荒行を苦も無く果たせるポテンシャルを持っている。

 それがクイント。


 今、三角関係の激突が幕を開ける。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「つまり、貴方は六宇が好きなのか? 逆神クイント太郎!!」

「呼び捨てされた。……しゅき」


「いや、えっ? 好き、好き? 好きかどうかって言われると……。好きってなに?」

「……良い。……兄者が最高に良い」


「この女性を幸せにしてあげたい。そう思える心が貴方にもあるのだろうか?」

「幸せにしてやるって言われた。……しゅき」


「いや、えっ? いやー。幸せ? 幸せってなに? オレはとりあえずおっぱい揉ませてもらいてぇって。そこがスタートじゃねぇの?」

「……良い。……テレホマンから記録媒体を借りてくれば良かった。……良い。……軽く逝きそうなほどに良い」


 五十五くんが言った。



「逆神クイント太郎。貴方はもしかすると。おっぱいが好きなのでは?」

「えっ!? ……そうかもしれんわ!!」

「うわ。マジでサイテー。そんなの、オタマでも良いじゃん。つか、オタマの方が良いじゃん」


 三角関係が終わった。



 崩れ落ちるクイント。

 「オレは……おっぱい揉みたいって気持ちは……。なんなんだよ!?」と地面を叩く。


 そんな兄者の肩を支えるチンクエ。

 「兄者。性欲イコール好きになるのは生物として正解で良い」とご満悦。


「ご、五十五さん!!」

「逆神六宇。私に敬称は不要だ。私はもう貴女を呼び捨てにしている。どうも私は昔の癖が抜けず、相手を呼び捨てにしてしまう! 許して欲しい!!」


「……しゅき。じゃ、じゃあ五十五っ!! あの、あたし、えっと! 好き!!」


 六宇ちゃんが莉子ちゃんと仲良しになった理由がなんとなく分かる。

 五十五くんは答える。


「私も貴女の正直な物言いには好感が持てる!! 確かにそうかもしれん!!」


 ちなみに五十五くんは22歳である。

 これは久坂さんが五十五くんの日本国籍をゲットした時に登録された年齢であるが、つまり、六宇ちゃんと五十五くんはほとんど同級生。

 これはもう障害などないかと思われた。


「ふぁー?」


 莉子ちゃん、よく分からない間キューピッドとしての大役を果たす。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 泣き崩れるクイント。

 そこに大きな影が差した。


「失礼いたします。六宇様」

「オタマぁ! あたしね、彼ピできた!! お祝いに来てくれたん!?」


 バルリテロリ皇宮秘書官、オタマさん。

 選ばれし者は角度によってものすごく影が大きくなるとは、おっぱい学の権威でもある川端卿の言葉。

 壮健であれば良いが。


「はい。六宇様。違います」

「どっち!?」


「お初にお目にかかる! 私は久坂五十五!! 貴国の姫君と交際し始めたかもしれん!!」

「六宇様……!!!!!!」



「えっ。なんで五十五見ながらあたしの名前呼んで泣くん? オタマー?」

「ご覧の通り、六宇様はいささかおバカでございますが。どうぞよろしくお願いいたします。おバカなところも凝視いたしますれば時折可愛く見えます」


 六宇ちゃんのトリセツを語ったオタマさん。

 トリセツがサビだけ「これからどうぞよろしゅうな」で済むのはとても楽で良い。



 オタマさんがやって来たのはこの場所に用事があったからに相違ないが、それは六宇ちゃんにコングラチュレーションしたのとは別件。


「クイント様」

「オタマ……。オレを笑えよ……。結局、おっぱいに翻弄されたオレに残ったのはよぉ……。なんかサラサラした砂だけだ。今、そこで掴んだ。じじい様とどこで差がついたんだ……」


「はい。クイント様。最初からです」

「そっか。オタマのオタマは相変わらずでけぇな」


「はい。クイント様。左様です」


 六宇ちゃんの乙女センサーがバチバチに反応した。


「え゛? オタマ? えっ!? 嘘でしょ!? マジ!?」

「はい。六宇様。左様です」


「違わないじゃん!? マジで!?」

「ふぁー?」


 莉子ちゃんの乙女センサーは無反応であった。


「クイント様。おっぱいならここに2房ございます。ここは六宇様と五十五様、莉子様のお邪魔になりますので。皇宮へ参りましょう」

「チンクエぇ……。オタマがイチゴジャムとマーガリン挟まったコッペパンくれるってよぉ。あばよ、塩顔イケメン。その小ぶりなおっぱい、大事にしろよな」


「これは良い……。オタマ、いや、姉者……。私が兄者を担いですぐに追う」


 何か始まったのかもしれないが、現在は六宇ちゃんのエピローグなのでそこを掘り下げるとこの時空の趣旨に反する。

 諸君には今しばらくお待ち頂きたい。


「逆神六宇!!」

「えっ、なに!?」


「家族に貴女の事を紹介したいが、良いだろうか!!」

「えっ? うん……えっ!? 今から!?」


 五十五くんは速い。

 さすがはあっくんの義弟。


 キメると早いし、キマるまでも速い。

 これは義兄にもなかった才覚か。


 次回。

 久坂さんに救心を。


 デュエルスタンバイ。

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