第1314話 【エピローグオブ六宇ちゃん・その1】三角関係の女子高生(21) ~こっちも留年してた~

 時は最終決戦が終わって1ヶ月が過ぎた、2月中頃。

 久坂家に来訪者があった。


「モグモグモグモグ……。すみません、お昼ご馳走になっちゃって! モグモグ」

「莉子ちゃんは相も変わらず……ええ食いっぷりじゃのぉ」


「モグ? こくん。今、愛は変わらないって言いました!? はい、そうなんですよぉ! 大学生になる前だから思い出作ろうねって六駆くんに言われて! それでですね! 昨日は新しいダンジョンにデート、じゃなかった! 攻略に出かけたんです!! えへへへへへへへへへへ! そのドレス似合うねって言ってくれて! えへへへへへへへへへへへへへへへへ!!」



「おぉ……。修一が言うちょったわ。登録する前のダンジョンが壊れてなくなった時にはどうしたらいいんですか、とか。ワシ、もうどうしようもなかろうが、としか言えんかったわい。そがいな事になっちょったか……」


 人生に1度の高校時代が終わるのである。

 思い出とダンジョンの重さ、比べるまでもない。



「小坂莉子! アクアパッツァが仕上がった! お口に合うと良いのだが!!」

「わぁ! ……あ。大丈夫です。お魚はちょっと。骨を取ってる時間が惜しいので」


「確かにそうかもしれん!! 既に毛抜きで全ての骨を取り除いている!!」

「ほわぁぁぁぁぁ!! 五十五さんってステキですよね!! 六駆くんの次くらいに!! モグモグモグモグモグ」


 その時、莉子氏に電流走る。

 「ほえ? わたし、ご飯食べに来たんじゃなかった!!」と気付く。


 お茶碗二杯目の奇跡。

 これは五十五くんの料理の腕が生んだ必然か。


「ワシもちぃと飲むかいのぉ」


 居間の襖が足で雑に開けられた。

 帰って来たのはもう普通に久坂家にカウントされている男。


「剣友よー。ダンジョン始末して来たぜ。ったく、おめぇさん。煌気オーラ抑制する手錠付けたまま人手が足りねえからダンジョン攻略して来いったあ。ひでぇ事しやがる」


 戦争が終わったとはいえ2月時点では本部も復旧作業が連日連夜行われており、慢性的な人手不足の状況。

 久坂監察官室預かり辻堂甲陽元上級監察官も南雲さんの「ああ。もうやってもらって大丈夫です。えっ? 責任? はははっ。今更そんなの1つ増えたからって誤差ですよ」というヤケクソ気味の指揮で現場に投入されている。


「おぉ。ハゲ。ご苦労じゃった」

「あっ。剣友! おめぇ、人にはハンデ戦させといて! 自分は昼間から酒かよ!! そりゃあないんじゃねえかい!?」


「おーおー。うるさいのぉ。ちぃと分けちゃるから、それで良かろうが」

「かっかっか! そうなると話が変わらあな!! 五十五! コップくれ! おう、莉子! 遊びに来てんのかい!! 相席、失礼するぜ!!」


 莉子ちゃんがモグモグしていたため、図らずも久坂家の男たちが揃う。

 あっくんは本部で復旧作業のリーダーをさせられているので小鳩さんと一緒に夜まで勤務予定。


 なお、この段階では致しておりません。


「あのあの! 五十五さん!!」

「なんだろうか!!」



「女子高生に興味あります!? わたし、お勧めしたいなーって!! 可愛い子です!!」

「ぶふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「おい、剣友ぅぅぅぅ!? こりゃあいけねぇ!! 酒がもったいねえ!」


 急に息子が女子高生と付き合えとか言われたので、久坂さんがログアウトした。

 女子高生と付き合うのは男子高生より上の世代だと基本的に問題しかないのが現世のルール。



 それから「なにか事情があるのだろうか!?」と応じた五十五くん。

 「はい! わたしが勝手に約束しちゃいました!!」とアクアパッツァ食ってる莉子ちゃんが答えて、「約束は違えてはいけない! 父上も言っておられる!! 父上! 私は女子高生と交際するかもしれん!!」とほとんど即決で表明した息子を見て「ハゲ。ワシが死んだら、骨は女子校から離れたところに埋めてくれぇ……」と久坂さんが静かに息を引き取った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 数日後。

 バルリテロリにやって来たのは莉子ちゃんと五十五くん。


「あれ? 六宇さーん? んー? さっきラインしたら返信あったのに。ちょっと待ってくださいね。五十五さん。もう1回ラインして……あ。既読がすぐついた」

「小坂莉子! あそこに見えるスカートの裾は違うのだろうか!!」


 よく見ると、ガードレールと縮こまった六宇ちゃんが同化していた。

 喜三太陛下記念高等学校の制服は白が基調なので物陰に潜むと紛れやすい。


「ぁ。莉子ちゃん」

「六宇さん? どうしたんですか?」



「……留年しちゃった」

「え゛。……そうなんですね。……えとえと。す、すごいですね!」


 六宇ちゃん、どら猫に匹敵する勢いで留年ゲットだぜをした後だった。



 それはもう合わす顔がないというもの。

 ほんの数時間前に「このあとね、追試なんだー。あたしも高校生じゃなくなるし! 彼ピと自分探しするの楽しみー!!」とかウキウキでスタンプ連打していた手前、これは気まずい。

 そして皇族に忖度してくれない喜三太陛下記念高等学校の教師たちのなんと高潔な事か。


 もうちょっとくらい忖度して、いい加減に六宇ちゃんを社会に羽ばたかせてあげたら良いのに。


「失礼する。私は久坂五十五! あなたが逆神六宇か?」

「ぎゃー!! ガチのイケメン連れて来てんじゃん! 莉子ちゃん!! 無理無理!! あたしなんかと釣り合わないって!! 帰って!!」


「留年したと聞こえたが!!」

「やだ、このイケメン!! 出来立てホヤホヤの傷口えぐって来るじゃん!! 感じ悪いとか以前に辛い!! 帰って!!」


「私は高校に通ったことがないのだが!!」

「もうまぢ無理!! 飛び級してる人じゃん!! あたしとは頭のデキもだけど、そもそも学歴が違うんだぜマウント取られる!! 帰れー!!」



「退学しようとせずに何度留年しようとも試験と戦う。素晴らしい事かも知れん!! 私は貴女を尊敬する!! 立派な女性だ!!」

「やだ、無理……。好き……」


 カップルが成立した瞬間であった。



 恋愛は六駆くん筋しか知らぬ莉子ちゃんが「ふぁー?」と事態を把握できていない中、事態を把握してギギギギと奥歯が砕けそうになっている者が草むらに潜んでいた。

 野生のポケモンかな。


「クソぉぉ!! なんだよ、あいつぅぅ!! ぽっと出のイケメンがオレのおっぱいをよぉぉぉぉ!! まだ手のひらに収まるどっちがおっぱい、手のひらに納めて誤用かねぇってのによぉぉぉぉ!!」

「……良い。……これはとても良い」


 逆神クイント太郎。

 逆神チンクエ次郎。


 この兄弟、バルリテロリ戦争を生き抜いてなお、持ち前のタフネスで元気になっていた。

 クイントは六宇ちゃんの卒業を待って「お前のおっぱいをオレにくれ!!」と言うつもりだったのに。


 こんなのってあんまりである。


 五十五くんの鋭い視線が2人を捉えた。


「むっ!? 逆神六宇! 私の後ろへ!!」

「……好き」


「貴方たちは誰か!! 場合によっては攻撃も厭わないかもしれん!!」

「だぁぁぁぁ! ちくしょうがぁぁぁぁぁ!! このシュッとした塩顔イケメン野郎!! オレは逆神クイント太郎!! 六宇とは結婚する予定だったんじゃい!!」


「なんと言う事だ!! 申し訳ない!!」

「やっ! 違うし!! 待って待って!! 違うし、えっと、あの。く、久坂さ」


「私の事は好きに呼んで欲しい。私は貴女の個性を尊重したい。呼び方にも個性が出る。まず貴女を1つ知る事ができれば私は嬉しい!!」

「……しゅき。彼ピ、しゅき」


 なんか三角関係が始まった。

 しかし、これは2月中旬の出来事である。

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