第1313話 【エピローグオブバルリテロリ・その3】和解(和解したとは言ってない) ~それが生きるって事や!!~

 前回のあらすじ。


 喜三太陛下が追い詰められる。

 もう長いこと追い詰められていたというのに、まだ追い詰められる余地があった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ねー。キサンター」

「六宇ちゃん!! 六宇ちゃんからも言ってやってくれ!! このじじいにさ!!」


「あ。四郎さんじゃん。おっつー」

「ほっほっほ。おっつー」



「嘘やろ? ワシの一番可愛がって来たひ孫が……!?」


 精神的NTRが喜三太陛下のメンタルに追撃を仕掛けた。



「じゃ、四郎さんでいいや。あのさー。プールで泳ぎたいんだけどねー? 学校のプールしかないじゃんかー。今のバルリテロリってー。遊興施設とかまだ全然復旧してないしー。でさー。プール創ってくんないかなーって。彼ピ待ってるし」

「ヤメるんや! 六宇ちゃん!! 今、これ以上! 四郎を逆撫でしたらあかん!!」


「は? 魚? いや、プールに魚はいらないんだけど」

「くっそ!! 今日も六宇ちゃんはバカで可愛いなぁ!!」


「ほっほっほ。テレホマンさん」

「は? ははっ。四郎殿下の御随意に。すぐに電脳ラボに残っているNテェテェに造らせます。六宇様。1時間ほどお時間を頂きたく存じますが」


「えー。彼ピがどうかなー。ちょい待ってー。もっしー? あたしー。あのさー。1時間ほどやる事なくなっちゃったんだけど。怒る? やだよね? 暇じゃんね?」

『確かにそうかもしれん!! しかし、私は提案したい! 貴女の事を1時間聞かせて欲しい!! 私と貴女はまだお互い知らない事が多い! それではダメだろうか!!』


 誰なのかは分からないが、電話の向こうにいる六宇ちゃんの彼ピは極めて良質な常識と思いやりを持っている事が分かった。

 誰なのかはまだ分からない。


「あんがと、四郎さん。みつ子さんもー。またねー」

「ほっほっほ」


 六宇ちゃんは家系図にすると複雑怪奇な関係にはなるが、極めてシンプルな表現に努めると、四郎じいちゃんとみつ子ばあちゃんにとって孫。

 ほとんど孫である。

 ならば、可愛がらないはずがないのである。


 祖父母に素直なワガママを言ってくれる孫とか、可愛くないはずがないのである。

 むしろ持ち点が60ポイントくらい加算される。


 喜三太陛下の瞳が怪しく光ったのはその瞬間だった。

 こちらの皇帝陛下、百戦錬磨と呼ぶには分母が足りなさ過ぎるが、スキル使いとしての実力は文句なくこの世界でも最強格の最上位。

 1戦争で1激敗を喫したため、百戦錬磨どころか一戦必勝もキメられなかったので御形容する方法が少なくなりがちであるが、その戦略眼、戦巧者としての才は本物。


 いや、後手後手だったやんけと言われることなかれ。

 後手後手なのに、あれほどの長い期間を六駆くんたちと渡り合ったのだ。



 長い期間と言うのはだいたい4日だが、1年半とも言い換えられる。

 1年半というのは、とても長いと言えるのではなかろうか。



 「ここや!!」と陛下はお考えになられた。

 孫が甘えてくれる瞬間、祖父というものは無防備になる。

 胸襟おっぱいを開くどころの騒ぎではなく、切っ先を喉元に付きつけられていたとしてもニコニコしてしまうのがじいちゃん。


 陛下もご経験は豊富であった。

 どんだけ子孫繁栄キメたとお考えか。


 この世界で最も子孫繁栄を極められた御方ぞ。

 その質についてここで議論するのはよそう。


「四郎!! ワシ、いや! 僕の事も助けてよ!!」


 喜三太陛下、奇策に打って出る。

 今、陛下の御身は17歳。

 六宇ちゃんは21歳になった。


 だったらイケるのではないか。

 お前四郎の孫より今のワシ、若いやんけ。


 気さくに声をかけるという奇策。

 これは間違いなく効果が出る。


 四郎じいちゃんがにっこりと微笑んだ。

 やったか。



「気持ち悪い」

「おいぃぃぃぃ!! なんでや、四郎!! ワシ、自分で言うのもアレやけど結構可愛い寄りの見た目しとるやんけ!! なぁ!? クリクリの瞳やんけ!! 声だって少年やで!? おじいちゃん!! 聞いてよ! 僕のお願い!!」



 四郎じいちゃんがみつ子ばあちゃんとアイコンタクトをしたのち、『みつ子コンバット・ばち』によって奥座敷の奥の方に吹っ飛ばされたのは当然の未来だったか。

 それとも理外の理だったか。


 「おぎゃあああああああああああああああああああああ」という少年の声がしばらく主のいなくなった玉座から聞こえて来るようで、とても縁起の悪いものを見せられた逆神老夫婦であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから3分。

 偉大なる皇帝陛下の立て直しは光よりも速い。

 伊達に帝政を100年近く続けてはいないのだ。



「お願いしますぅぅぅぅ!! 四郎!! この通りや!! もう絶対に四郎の言う事はちゃんと聞くからぁぁぁ!! 死にたくないんや、ワシぃ!! お願いしますぅぅぅぅ!!」


 土下座と言う名のフィニッシュブローを繰り出された喜三太陛下。



 散々好き勝手してきた存在すら知らなかった父親が、なんか必死に土下座してくる。

 これには四郎じいちゃんも感じるものというか、思うところ、否、精神的にクルものがあったという。


 端的に言えば「これ以上これを見ているのはきっつい」という一心であった。


「テレホマンさんや」

「は? ははっ。殿下の御命令とあらば、このテレホマン……!! 涙を呑んで舌を嚙みちぎりながら……!! 陛下にテレホガンを向けましょう!! 陛下!! 供に逝きましょう!!」


「修業は呉でしか行いませぬ。があれば即座に取り止めといたします。テレホマンさん」

「は? ははっ。……よろしいのでございますか?」


「テレホマァァァァァァン!! 話が纏まりかけとるんや!! ヤメてぇぇぇぇぇ!! あとガチのマジでワシに銃口向けとるやろ!! なんでや!!」

「殿下。陛下は土下座をしながらチラ見している由にございます」


 テレホマンもそろそろ「皇国あっての皇帝陛下」というシャモジ母さんはじめ多くの忠臣が気付いて来た真実を掴みつつあった。


「愚物とて、親は親。選べぬものという詮無き事にワシがこだわるのは六駆に申し訳なさ過ぎる。六駆の親を育てたのはワシ。……アレは今日もどうせパチンコ屋。ワシだけが愚物が親じゃとは認められぬと駄々をこねるのは話が違うと思い至った次第ですわい」


 喜三太陛下がスッと立ち上がって、手を差し出された。

 これが和解の瞬間。



「なんやなんやぁ! 話したら分かるやんけ! 四郎! なぁ、お前!! 実はずっとワシに甘えたかったんやろ!? 寂しい思いさせて悪かったなー!! よっしゃ! 今晩はバルリテロリの綺麗どころ呼んで、な! 酒池肉林キメようや!! ババア、意外と乳デカいなぁ!! ってことは、四郎! お前も意外と乳大好きなだぼっおぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ————ぁぁ————ぁ」


 目にが早速ダース単位で飛び出した由にございます。



 みつ子ばあちゃんが血に染まった手を剥ぎ取った喜三太陛下の白いマントで拭いながら言った。


「よし恵さんが喜ぶじゃろうねぇ。こねぇな手合いをしごくの大好きじゃもん。あの人」

「ほっほっほ」


 今、バルリテロリの未来は分水嶺を迎えた。

 向かう先は喜三太帝政の継続か。

 それとも新たな皇帝の誕生か。


 無条件降伏という形で和解が成立した。

 ただし、これはあくまでも喜三太陛下としての和解。


 戦争責任についてはこれからである。


 そして、和解と言うのは和解しても必ずしも和解できるとは限らない。

 日本語とは難しいものである。

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