第1312話 【エピローグオブバルリテロリ・その2】希望の『煌気循環健康法』 ~それ、ワシにも教えてくれや!! 息子やろ!! なぁ!! なんで無視するんや!!~

 喜三太陛下、恐ろしい事にお気付きあそばされる。


 これまで、現世の逆神家は異世界転生周回者リピーターを普通に終えた者しかいなかった。

 ここでの普通に終えるというのは「あ。もう無理」と心が折れる事を指す。

 四郎じいちゃんも大吾も六駆くんも、きっちり心が折れてスッパリとヤメた。


 そして周回者リピーターの縛りとして存在していた「逆神人殺助をぶち殺す」という目的も達成したため、もう2度と異世界転生周回者リピーターとかいうふざけた存在は生まれる事がない。


 そこで今一度、喜三太陛下をご覧いただきたい。

 陛下は転生した先の異世界で人殺助とエンカウントしており、しかも半端に1魂以上をぶっ殺す、かつ我々の知っている人殺助・壱にぶち殺されるという器用な御業をおキメになられた結果、本来の周回者リピーターの理から逸脱した形で転生周回が継続する事となる。


 死んでも17歳として再び舞い戻って来られる、喜三太陛下。

 それを6度繰り返した都合上、その内、特にアクシデントもなく暮らしていたパターンが数回あった。


 その場合、喜三太陛下は42歳という縁起の悪い御年で天に召される。

 正確な回数はこちらで把握していないが、バルリテロリの臣民たちは陛下が40歳を超えると「おっ。それそれお隠れになるぞ」「今回は寿命までお元気だったなー」と穏やかに「喜三太陛下復活祭」の準備に取り掛かり始め、その歴史が証明してくれている。


 喜三太陛下、42歳になると死ぬ。


 これが現時点での大前提。

 加わるニューカマーはこちら。


 喜三太陛下、もう転生周回能力を失っておられる。


 これは人殺助・捌との戦いで人質にされた陛下が六駆くんに雑な殺され方をした結果、ちゃんとお亡くなりあそばされた事からも明らか。

 8度目の転生はやって来なかった。


 纏めると、こうなる。



 喜三太陛下、どう足掻いてもあと27年と数か月で今生とのお別れが確定。



 生と死について語る時、しばしば議題とされる「寿命が尽きる、つまり自分が死ぬ日を知りたいか? 知らずに死にたいか?」問題。


 ある者は言う。

 「死ぬ日が分かっていたら、後悔のないようにやるべき事を済ませられるじゃないか。大切な人とちゃんとお別れだってできる」と。

 またある者は言う。

 「確実に死ぬって分かっとる日に近づいて行くんやぞ!? 怖いやんけ!! 女抱いても気持ちよくないし!! ご飯食べても味せんし!! 自分の寿命とか一番知りたくないやろ!! 人生は可能性があるから頑張れるんや! 死ぬ前日とかワシ、ヤケクソになって世界滅ぼすで!? 大切なんは自分やろ!! 他人やないやろ!!」と。


 それでは、奥座敷に戻ろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ハーッハハハハ!! ざまぁないですの!! ハーッハハハハァ!!!」


 四郎じいちゃんが我慢できずに全盛期のベジータさんばりの高笑いをしていた。

 だが、陛下も反論あそばされた。


「おまぁぁぁぁ!! それ言うたらアレやぞ! 四郎!! お前の方が先に死ぬやろ!! ワシ、17やぞ!! お前なんぼ!? 70くらいやろ!! ……怖くないんか?」

「ほっほっほ。愚物は思考も低俗で困りますわい」


「お父さんやぞ!!」

「存在を知ったのが半年前。ワシの人生の走馬灯にあなたの席はねぇですじゃわい」


「ぶ……ぶーっはははは!! もうええわ!! お前の葬式でワシ、イエローイエローハッピー歌ってやるからな!! クソが!!」


 みつ子ばあちゃんが言った。

 多分、息子を見ているような錯覚に陥り「……こねぇな事になったのは親の責任もあると思うんよねぇ」と慈悲の心が吠えたのだと思われた。


「お父さん。教えてあげぇさんよ。あたしら180まで生きるつもりよって」

「ば、ばばば? ババア?」

「ほっほっほ。オタマさん。お願いしますじゃ」

「はい。殿下。陛下、失礼します」


 ゴンッと音がした。



「おぎゃあああああああああああああああああああああ!! ごめんやで!! 今のは咄嗟に出たババアで悪意はなかったんやぁぁぁ!!」

「ワシの妻に向かってなんたる言い草!! 咄嗟に出たという事は本心じゃて!! 嘘偽りのないババアを聞いて!! 腹を立てぬ夫はクソじゃ!!」


 陛下が「それもそうやんな。ごめんやで」と頭を下げられた。



 後頭部から血しぶきが噴水のようになっていたので四郎じいちゃんは眉をひそめて少し冷静になれたという。

 「ペッ」と唾をひと吐きしてから、とても嫌そうな顔で簡単に説明した。


「呉の皆さんが考案された『煌気循環健康法』というものがありましてな。テレホマンさん」

「なんでテレホマンに言うんや!! 四郎!!」


「陛下!! 御知恵が足りておられませんぞ!! 私に語ってくださっておられるという事は!! 四郎殿下の御慈悲の由にございますれば!! なにゆえそれを御制し成されますか!!」

「えっ!?」



「………………………………さて、帰りますかの」

「ごめんやで! 四郎!! お前、粒あんとマーガリン挟んであるコッペパン好き!? 持って来させるからぁ!!」


 四郎じいちゃんが立派な来客用椅子に再び腰を下ろした。

 あれは美味しいとの由にございますな。



煌気オーラを高濃度で体内に循環させる。これは一見すると煌気オーラ供給器官に無理をさせておると思われるかもしれませんがの。テレホマンさん」

「は。ははっ。スキル使いとしては三流以下の私にも分かる道理! いちいち御尤もでございます!!」


「しかしですじゃ。その高濃度の煌気オーラ、その一部を煌気オーラ供給器官の修復に用いれば……どうなりますかの? テレホマンさん」

「は。ははっ。……そのような事が可能なのですか?」


「みつ子の老人会仲間の皆さんはその方法を確立しておりますじゃ。ワシも構成術式を拝見しましたがの。これがなんと、実に簡略化されておりまして。センスさえあれば数年で習得できる代物。ワシも六駆の子が結婚するところまで見たくなりましてな。ほっほっほ。年寄りの強欲で困りますわい。無論、蓄えはしっかりとするつもりですじゃて。お国に180歳まで年金くれというのは筋違いですからの。テレホマンさん」

「は? ははっ。ははぁ!! 殿下の御志、なんとご立派……!! このテレホマン、危うく落涙の粗相を働くところでございました!!」


 つまり、こうなる。


 呉の平均寿命が時間の経過に比例して上がっていくという事。


「四郎!! なんやそれぇ!! そういうの! それそれぇ!! そういうの待っとったんや!! 四郎!! いやー!! やっぱワシの息子なだけあるわ!! なぁ、四郎!! すごいなー! お前!! ワシに似て頭もええんやなぁ!! で、四郎!! やり方教えてくれや!! 四郎!! なぁ? 四郎!! おい!! ……なんで無視するんや!? おいぃぃ!! 四郎ぅぅぅ!!」

「ほっほっほ。……ハーッハハハハ!!」


 そして、こうなる。



 別にお前に教えてやるとは言ってない。



 今、この瞬間、この親子の力関係が変わった。

 これまでは「本気出したら四郎なんかこれもんワンパンだわ!! ぶーっはははは!!」だったのに、本気出してこれもんワンパンキメたら自分だけ寂しく死ぬことが確定。


「なぁ? 四郎? ワシと一緒にバルリテロリを支配するつもりはないか? この世界の半分、お前にやるで?」


 今年のバルリテロリは冷夏やな。

 陛下がそう感じられたのは、背中をつたう冷汗のせいであったか。

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