第1311話 【エピローグオブバルリテロリ・その1】偉大なる皇帝陛下、お気付きになられてしまう ~あれ!? ワシ、死ぬんけ!?~

 ここは異世界バルリテロリ。

 偉大なる皇帝陛下が治める皇国であり、その偉大で偉大の偉大過ぎる皇帝陛下は永遠の命を持っておられる。

 つまり、これから先もずっと偉大なる帝政は続く。


 そう思っていたのは、半年くらい前までの事であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 電脳ラボ。

 それはバルリテロリの軍事部門から生活インフラ、臣民に与える情報の精査までを一手に引き受ける皇国の中枢。

 戦争で大本営になったかと思えば、今はまた姿を変えて駐在官が数人ほど暮らす日本本部大使館として運用されている。


 その長官はこちら。


「ほっほっほ。皆さん、あまり根を詰めてもいけませんぞ。肩の力を抜くのが良いものを作る第一歩ですじゃわい」


 バルリテロリ初代技術開発局長、逆神四郎。

 また、皇太子殿下としてもラボメンをはじめ臣民たちから親しまれている。

 今最もホットな皇位継承権保持者。


「みんなご飯食べたかいね!? 食べちょらん子はおらんじゃろうね!? ご飯抜いてやるような仕事なんかヤメてしまえばええんじゃから!! 国の仕事? なーに言いよるんかね!! あんたらが元気じゃから国ができるんじゃろうがね! はい! カキフライ!!」


 バルリテロリ筆頭駐在武官、逆神みつ子。

 週5日ほど滞在して、2日は呉に帰る。

 その際は四郎じいちゃんも連れて帰る。


「逆神四郎! 貴方の補佐をせずに自分の都合ばかり申し上げて恐縮なのだが!! 私はしばらく留守にしても良いだろうか!! スマホが鳴りっぱなしかもしれん!!」


 日本本部から出向している久坂五十五Aランク探索員。

 元はアトミルカ構成員ナンバー55だったが、久坂剣友との出会いでアトミルカを裏切ってからが早い。

 信じたもののために力を行使する事を旨とし、あっという間に日本国籍と日本本部所属探索員の資格を獲得、ピースとのいざこざでは二級戦功をゲットしてAランクまで昇進。


 この度、南雲さんの「ごめんね、五十五くん。君くらいしかいないんだよ。だって他の子は信用できないもん」という要請に「確かにそうかもしれんとは言い切れんかもしれん!! しかし、お役に立てるのならば嬉しいかもしれん!!」とバルリテロリへ毎日出勤する勤務形態になって半年。

 久坂家から『稀有転移黒石ブラックストーン』で本部に飛んで、そこから『ゲート』によってバルリテロリへ。


 地下鉄と在来線乗り継いで出勤するよりずっと早くて楽で近いのがこの世界における異世界との距離感。

 なお、定時で帰る。


 あと、五十五くんは莉子氏が勝手にキメた約束の履行も進行形であるが、そのお話をするにはちょっと早いので今しばらくお待ちいただきたい。


「殿下ぁぁぁぁ!! 宸襟を騒がせ奉り恐縮にございますれば!! このテレホマン! 如何様な責め苦にも耐えうる覚悟を持ちましてぇ!!」

「ほっほっほ。テレホマンさんはいつも礼儀正し過ぎて何を言っておられるのかよく分からんようになりますわい。我々の仲ですじゃ。何でも仰って結構ですぞい」


 テレホマンは油断しない。

 念のためにテレホ・ボディを起動させて、フルアーマー・テレホマンに換装してから申し上げた。



「喜三太陛下が御用との由に……。四郎呼んきてお願いお願い! ワシが行ったらあいつキレるんや! お願い、テレホマン!! との言伝を……。殿下?」

「ぺッ」


 テレホマンは忠義人。

 よって四郎じいちゃんも自分の足元に唾吐くだけで済んだのである。



 皇宮へ向かう四郎じいちゃん。


「Nテェテェちゃん! お留守番任せるけぇね!!」

「はっ。行ってらっしゃいませ!! 殿下! 太子妃様!!」


 ちなみにNテェテェは戦後、死んだふりしてたところをテレホマンに回収されて元のポストに復帰しました。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バルリテロリのスキル使いが得意なのは構築スキル。

 みんなで頑張って構築スキル発現しまくったので、今では皇宮も元より立派なお城に再建されていた。


 奥座敷でお待ちになっておられるのは、17歳の御姿をされたこの御方。


「ぶーっはははははは!! よく来たな、四郎!! お前、呼ばんと全然こっち来んもんなぁ! 呼んでもなかなか来んけども!! まあ、好きな食べ物と飲み物とタイプの女を言ってみ? 今日は仲良くするで!! なぁ!! ぶーっはははは!!」

「……かぁぁぁー! ぺッ!!」



「お前ぇぇぇぇ!? 玉座に向かって唾……いや、痰吐いたなぁ!? つーか、よくそこからワシの足元にまで飛ばしたな!? すげぇな、四郎!!」

「さて。帰りますかの。みつ子や。煌気オーラを溜めるのはヤメるんじゃ。みつ子の煌気オーラがもったいない」



 みつ子ばあちゃんは向こう数年スキルが使えなくなった。

 そのスタート地点喜三太陛下戦から現時点までだいたい半年。

 もう煌気オーラは余裕でコントロールできるし、前よりも強くなった。


 ばあちゃんが嘘を言ったのではない。

 ばあちゃんが自身の予測を超えた、それだけなのである。


「おおおい! おいぃぃ!! 待て待て、四郎!! オタマのおっぱい揉んでええから!!」

「はい。陛下」


 皇宮秘書官のオタマお姉さん。

 ちゃんとリクルートスーツで暑いバルリテロリの夏を過ごしていた。

 手には戦争で主に投げていた先祖伝来のメリケンサック。


 それをキュッとしっかりハメたらば、ゴンッ。


「おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「ほっほっほっほっほっほっほ!!」


 景気よく出血した陛下が面白かったらしく、四郎じいちゃんが用意された玉座よりも立派な椅子に腰を下ろした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 喜三太陛下が真っ白なマントを翻して座り直された。

 バルリテロリの皇道は白くなくてはならぬ。

 向かう先は真っ白に輝く明日。歩みを振り返れば真珠のような軌跡。


 そんな喜三太陛下が仰せになられた。


「四郎?」

「耳クソが溜まりますな。テレホマンさん。良く聞こえんとお伝えくだされ」


「は? ……ははっ。陛下! 殿下は陛下の御言葉を賜ると御耳クソが溜まられると仰せです!!」

「聞こえとるわ!! 思春期の息子が父親に全然懐かんで母ちゃんを通訳者にする崩壊寸前の家族みたい!!」



「崩壊寸前? まるでそこに家族があったかのような物言い。不愉快ですじゃわい」

「聞こえとるやんけ!! ワシ、ただでさえ処分保留とかひ孫に言われて常時お漏らししそうなのに!! ヤメよう!? そうやって脅すの!! もう仲直りしたやんか!!」


 戦争吹っ掛けた方が「はいはい。終わりですよー」と言い出しても、心証を損なう以外に得るものはないとはバルリテロリの皇道に記されていないのである。



「四郎殿下。よろしいでしょうか」

「なんですかの? オタマさん」


「はい。殿下。単刀直入にお伺いいたします」

「ヤメてぇぇぇ! オタマぁ!! ゆっくり聞いてぇぇ!! ワシ、お漏らしするぅぅ!!」


「陛下はこのまま順調に行かれますと、これまでの周回を振り返りますに42歳で御隠れになりますが。順調に逝かれますでしょうか?」

「おい! 順調にってなんや!? 順調やないやろ、それぇ!!」


 四郎じいちゃんが笑った。

 「ハーッハハハハ!!」と最盛期のベジータさんくらい笑って「ざまぁねぇぜ!!」と言いそうになったが、それは我慢した。


 もう答えなんか揃ったようなものである。


 陛下。

 逝かれるのですか。

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