第1310話 【エピローグオブ塚地小鳩・その4】「致しますわ!!」 ~エピローグと言う名のハッピーエンドのその先へ~

 南雲上級監察官室では。


「あららー。ごめんねー、南雲くん。忙しいところに仕事増やしてー。ねー。おじさん、嫌なヤツだよねー。私だったらグーパンしちゃうかもだよー」


 一般人のおじさんが来訪していた。


 退役した探索員は当人が望めば『予備探索員』として有事の際に出撃する代わりに、平時でもスキルの使用や日本本部への出入りなどが許可されるという仕組みがある。

 これはスキル使いの存在が希少であるからの措置。

 退役した理由が怪我や病気でない場合はそれが喩えFランクであってもさえなければ許可される事が大半。


「雨宮さん。本当に勘弁してもらえませんか……。私的に探索員装備を300用意しろとか言って来るの。それ、あなたの王国で済ませる事でしょう」

「あらららー。だってだってじゃないの、南雲くーん。南雲くんに頼むのが早いかなって。ねー。おじさん、1つの事を思い付いたら他の事は思い付けないのー。ダメだよねー」


 このおじさん。『予備探索員』の選考基準をぶっ壊すくらいにが服着て歩いている。

 しかし保有している戦力は本人も含めて余りにも巨大。

 無視できない。できようはずがない。


 直近でもルベルバック戦争、アトミルカ殲滅戦、ピース大侵攻、バルリテロリ戦争とたった1年半でこれだけの有事が起きていれば、南雲さんも上級監察官として、この「あららー」と鳴くちゃらんぽらんなくせにむちゃくちゃ有能なおじさんを捨てるなんてとんでもない。


「あ。失礼。電話が鳴っていますので」

「あーもうね、全然気にしないでー」


「では。はい、南雲です。ああ、小坂くん。どうしたの? えっ? ダンジョン? 未攻略のヤツならたくさんあるよ。どうしたの、急にやる気になって。ちょっと待ってね。すぐにピックアップし……えっ? 攻略済みがいい? 横浜とか、神戸とか、オシャレなところ? 人がいなくてモンスターは少なくて? サーベイランスは絶対に入れないで? 朝帰りしても怒らないで欲しい? …………………………ちょっと待ってね」


 スマホをテーブルに置いてから「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」と息を吐いた南雲さん。

 続ける。


 氏が息を吐くのは助走のようなもの。

 六駆くんの「ふぅぅぅん」に似ている。


 長く助走を取った方がようけ遠くまで飛べるんじゃというのはこの世界の常識。



「ちょっとやだ!! この子!! ダンジョンでいかがわしい事をしようとしてる!! それをあろうことか!! 日本本部で一番権力持ってる私に打診して来た!! もうやだ!! 山根くん!! どっかいいとこあった!? あるんだ!? 横浜に!? じゃあその転移座標出して!! えっ!? 応じるよ!? 応じないとミンスティラリアと戦争することになるでしょうが!」


 雨宮さんが「大変そうだからまた来るねー」と言い残して去って行った。



 南雲さんがわずか10分でやってくれた。

 さては、エピローグ時空でも氏の立ち位置はここか。


 本編時空とそんなに変わっていないようで、これには観測者諸君もにっこり。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時間が4時間ほど流れて、ここは横浜ダンジョン改め、ラブラブダンジョン。

 南雲さんが「絶対に問題になるから名前変えて。あと、存在消して」とコンプライアンスとその他諸々を天秤にかけた結果、コンプライアンスが空の彼方へすっ飛んで行ったらしく全てに目をつぶって処理を済ませていた。


 そのラブラブダンジョンでは。


「ちっ。こいつはよぉ……。誰の入れ知恵だぁ?」

「は、はわわわわわわですわ!! 鎧の胸プレートはいつ破壊すればいいんですの!?」


 阿久津浄汰特務探索員と塚地小鳩Aランク探索員がいた。

 ラブラブダンジョンはそれなりに高ランクモンスターが生息しているが、もう既に第4層の壁を全て『結晶シルヴィス』で覆い尽くしている。


 諸君。



 第〇層とか、モンスターは壁から出現するとか、とても久しぶりなのはこの世界が疲れているからだろうか。

 この世界はダンジョン攻略の物語なので、そんなはずはないというのに。



「小鳩ぉ」

「はひ!! 覚悟キマってますわ!! 左腕! お借りしてもよろしいですわよね!?」


「ちっ。小坂の気配なんだよなぁ……。逆神がついに治癒スキル覚えやがったもんなぁ。野郎、何回腕へし折られても気色悪ぃ笑い方しやがってよぉ。うふふふふとか言ってられる精神力は本物だぜ。小鳩ぉ!!」

「は、はい!! ……ぁ。もしかして、お気付きになられてましたの?」


「そりゃあお前ぇ……。もう相当昔からお気付きなんだよなぁ……」

「え゛」


 あっくんは思った。

 「こんな女、俺にはもったいねぇだろぃ。つってもよぉ。小鳩が望むなら、仕方がねぇって言うかよぉ。クソが。俺ぁ誰に言い訳してんだぁ?」と。


 そして覚悟が決まった。

 ダンジョンで致すというキマり方だけはしなかった、さすがはあっくん。


 この世界で逆神大吾と組まされた回数は最多。

 この世界で逆神六駆が家に遊びに来た回数も最多。

 常識外の生き物たちと接し過ぎると、人はより常識的になるらしかった。


「小鳩ぉ。ここによぉ。南雲さんが泣きながら寄越して来た『稀有転移黒石ブラックストーン』があるだろぃ」

「……ございますわね。……分かりましたわ。帰ります、わたくし。くすん」


「こいつぁよぉ。貸与されるものってのは知ってんだろ」

「え? ええ、もちろんですわ。お師匠様がスカレグラーナから取り寄せたイドクロアを使ってお造りになられる貴重品ですもの」


「それを……。こうするんだよなぁ!! 『拡散熱線アルテミス』!!」


 あっくん、アトミルカ殲滅戦までは大活躍だったのに、ピースが攻めて来た頃には霊圧が消えて、ノアちゃんの『ホール』と喜三太陛下の『太った男の転移術ポートマンジャンプ』のせいで存在そのものも人々の記憶から消えた貴重品てんいせきを焼き払った。

 いつからそんな死体蹴りをする悪漢になったのか。


「あっ!? あ、あああ、あっくんさん!? 怒られますわよ!? というかですわ!! これ、お高いんですわよ!!」

「くははっ。俺ぁ性根が腐ってるからよぉ。この黒い石があるとよぉ。俺たちの現在地を常に本部のオペレーターに把握されるだろうがよぉ。……まぁ、たった今、不慮の事故で壊れちまったがなぁ! くははははっ!!」


 目を丸くする小鳩さん。

 そんな彼女に阿久津特務探索員は言う。


「おら。行くぞぉ。小鳩の作る飯は最高だけどよぉ。中華街の飯もうめぇんだろうぜぇ? そいつ食って、いい塩梅のホテルを探すかぁ! 春香さん辺りに頼みゃ、秒で教えてくれんだろぃ。しっかり食えよぉ? ……夜は長ぇんだからなぁ」

「あっ!? あっく……あっあっああああ!? へぁ? くぁwせdrftgyふじこlp」


「あぁ? バグっても逃がしゃしねぇぜぇ? 俺ぁ悪ぃ男だからよぉ。おらよっとぉ!」


 お姫様抱っこされる小鳩さん。


 残念ながら、この先に何があったのか。

 それを我々が知る方法は存在しない。


 翌日の昼過ぎまで小鳩さんもあっくんも家に帰って来なかったという。

 それが何の証明になるのか。


 それも分からない。


 これまでものすごく頑張った2人には、幸せなエピローグが似合う。

 それだけはハッキリと分かるのである。

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