第1308話 【エピローグオブ塚地小鳩・その2】「まずは雰囲気づくりですわ!」 ~いつも通りの遠回りから始めるのですね~

 こちらはミンスティラリア魔王城。


「ぐーっはははは!! グアルボンの茶碗蒸しを作りましてございまする!! 精力を付けるのならばこれでございまするぞ!!」


 グアルボンの養殖に成功したミンスティラリア。

 魔王軍総司令であり、魔王軍総料理長でもあるダズモンガーくんによって、「可食部は全てでございまする」とカエルっぽいモンスターの身から皮まで全部美味しく食べられる工夫が日々行われている。


 グアル草はグアルボンの糞から生える、光る草。

 それ食ってたんだから、少しくらい不味かろうが食えない場所はないはずである。


「モグモグモグモグモグ……」

「莉子ちゃん? この後のライニング、3キロ伸びたよ?」


「ふぇ!? つ、つい……反射的に……」


 そこに食べ物があって「あ。大丈夫です」じゃない場合、とりあえずモグモグ。

 反射でそれが出来るようになったのはいつの頃からか。

 莉子氏、致す会議から早速の脱落をキメた。


「みみみみみみっ。芽衣、子供だから分かんないです!! みみっ!!」

「はぁぁぁぁ! 癒される……!!」


 木原芽衣ちゃま、高校2年生に進級済み。

 そろそろ「子供だから分かんないです」では逃げられないお年頃になってきた。

 女子校の高2とか性に奔放なお年頃である。


 これは諸説あると付言しておく。


「えーと。小鳩ちゃん?」

「なんですの!? 仁香すわぁん!!」


「あ。うん。その呼び方ヤメて? せっかくオフなのに、嫌な日常を思い出すから。それよりも、致すって言うのはね?」

「はいですわ!!」


 仁香さんが俯く。

 「くっ。言えない!! なんか目がキラキラしてて!! とても言えない!!」と唇を嚙みしめた。


「あの、よろしいですか? 小鳩さん。うちは胸に触らないで始まりますよ?」

「リャン!? ヤメて!? そういうの、ヤメて!! 後輩のリアルな夫婦の営みとかあんまり聞きたくないから!! あ゛。ほらもう……。手遅れだよ……」


 茶碗蒸しを掬っていたスプーンがカランと音を立ててテーブルに落ちる。

 そしてプルプルし始める小鳩お姉さん。

 彼女は言った。


「お、お胸をさわっ……殿方に触って頂かなくて……赤ちゃんってデキるんですの!?」

「あ、はい! まずはですね、しっかりと前」



「莉子ちゃん! 私の茶碗蒸しもあげるね!! 今日はランニングも中止!! はい、どうぞ!! 元気よくモグモグして!! あと小鳩ちゃん!! お胸の前にね、雰囲気! 雰囲気作りだから!! 雰囲気作りが赤ちゃんデキるかどうかの8割を占めてると言っても過言じゃないから!!」


 仁香さんは言ってから気付いた。

 「芽衣ちゃんがいると思って咄嗟に言ったけど……。これ、余計に拗らせることになったら私のせいかな?」と。



「雰囲気……!! 聞いた事がありますわ!! 五十五さんに薔薇を出してもらえば良いんですわね!!」

「ううん。違うよ? 小鳩ちゃん? って時点であれ? と思ったけど。全然違うよ?」


 遠回りから始める小鳩さんの致し方。

 致し方は千差万別。正解ルートは1つと誰が決めたのか。


 ただ、最短ルートからは確実に離れていっている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のラブホテル。

 失礼。あっくんの家。


「えっ!? あっくんさんって致してないんですか!? いい年して!?」

「てめぇの方がいい年してるだろうがよぉ。ぶち殺すぞ、逆神ぃ。……小鳩とは、って話なんだよなぁ」



「えっ!? 付き合ってもうほぼ1年なのに!? あっくんさん、その年で!? ヤバくないですか!?」

「よぉし、もう黙れぃ。てめぇ。久しぶりにガチで殺しに掛かっぞぉ?」


 なんか耳が痛いとあっくんは思った。

 人は正論を吐かれると相手をぶち殺したくなりがち。



「はい! あっくん先輩!! 10代の女子がいつ致すのかというアンケート結果がこのスマホちゃんに出ました! デート初日が18%ありますが!! どう思われますか!!」

「ざっけんなよなぁ……。おめぇは会話に参加してねぇで、俺のどうぶつの森でもやってろぃ。10代のガキども、そんなに乱れてんのかぁ? ……征服するかぁ? 現世をよぉ」


 責任も取れねぇのに致してんじゃねぇ。

 あっくんが再び野心に火を灯す時、来るか。


 その後でノアちゃんにどうぶつの森のプレイヤー名を『おっぱお』に変えられたあっくん。

 『おっぱい』では通らないので世の中の少年少女は日夜センシティブな名前のギリギリを攻める訓練をする、それがどうぶつの森。


 なお、これには諸説あると付言しておく。


「よろしいでしょうか。ごふぁぁぁぁ」

「ちっ。よろしかねぇんだよなぁ。血ぃ吐くなら土門さん呼ぶぜぇ?」


「失礼しました。小生、佳純さんよりエチケット吐血袋の携帯を勧められておりますので、ご安心を。こちら、外からは血が見えない佳純さんの発明品でごふっ」

「俺ぁ……あんたの心配してんだがよぉ……。まあ、良いか。でぇ? なんだぁ?」


「塚地さんの年齢を考えると、そろそろ良い頃合いかとごふっげふ。あっくんさんもご結婚を考えておられるはず。小生は思うのですが、あまりにも引っ張り過ぎると夫婦になってからレスの危険が危なく忍び寄って来るかとごふぁぁぁぁぁぁ」



「血ぃ吐きながら正論も吐くヤツはよぉ、俺ぁ嫌いなんだよなぁ」



 致し方が分からない→初めて致す時に困る→苦手意識が邪魔をし始める→致せなくなるというのは危険が危ないルートとして余りにも有名。

 これは男女問わず、ルートインしてしまう可能性がある。


 六駆くんが「うわぁ! このフェニックス一輝ってあっくんさんみたいですね!! 技がいっつも一緒!!」と挨拶代わりに『結晶シルヴィス』スキルをディスってから続けた。

 あっくんは「てめぇ……。一輝を馬鹿にしやがるとマジでぶち殺すぞぉ?」と応じてから「なんだぁ? 言ってみろぃ」と応じる。


「僕思ったんですけど! あっくんさんってラブホテルに住んでるじゃないですか!!」

「ちっ。……ちっ」


 反論できなかった。


「初めて致す時ってラブホテルとかに行って、よーしやるぞ!! って雰囲気になるんじゃないんですか? 知らないですけど! その点、あっくんさんって日常がドぎついピンク色だから! うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」

「クソがぁ!! 丸ぼうろ1個やるから、黙りやがれぃ!!」


 逆神六駆という男。

 戦いの中で培った遺伝子は絶えず、それどころか日々進化している。

 女子大生の婚約者を抱える身として、自分にもいつか訪れる最終決戦ならぬ、最初血戦の時に対する備えも万全。


 正論をぶん投げる。



 阿久津浄汰と塚地小鳩の日常はピンク色に染まり過ぎている。



 しかし、それが分かったからといってどうしろと言うのか。

 解決策だって知っているのが最強の男。

 彼が勝てないのは嫁にだけ。


「どこかに、旅行でもすれば良いんじゃないですか?」

「んな暇あるかって話なんだよなぁ。こちとら任務が山積み、南雲さんとこの嫁さんが出産身近なのに仕事してるからよぉ、それを寄越して来やがるんだよなぁ」


「ノア!」

「ふんすです!! ボク、この辺の夜景が綺麗なレストランと、夜景よりも小鳩の方がキレイだぜぇなホテルに穴ちゃんを設置します! とおー!!」


「あとは僕がそこを基点に『ゲート』使いますよ!!」

「……おめぇら、探索員憲章って知ってっかぁ? ぜってぇヤメろ」


 あっくんサイドの進捗が早い。

 追いつけるか、小鳩お姉さん。

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