第1307話 【エピローグオブ塚地小鳩・その1】「致しますわ!!」 ~致すのですか~

 ミンスティラリア魔王城。

 いつも通りのある日の午後、小鳩さんが立ち上がり言った。


「今夜! 致しますわ!!」


 ちょうどおやつタイムの時分。

 試験休みだった芽衣ちゃんと大学の講義を終えて帰って来ていた莉子ちゃんが食堂にいる。


「モグモグモグモグ……。そうなんですね! すごいですね! モグモグ!!」

「みみっ! 頑張ってです!! みっ!!」



「……なんだか反応があまりにも淡泊じゃありませんこと?」


 だってこの話題、最終決戦から現在に至るまでの間、今回で通算90号である。



 今シーズンだけで3桁が見えるほどブンブンフルスイングしている小鳩さん。

 だが、彼女も成長していた。


「おっ……!! お胸をタッチされればいいんですわね!? ですわよね!?」


 イオンのキャベツを買い占めて知った、「赤ん坊はキャベツの中になんぞおらん」という現実。

 そして学んだ。


 「良い雰囲気になったら、男の人がね。胸に手を伸ばしてくれるから。あとは流れだよ」と。

 土門佳純さんから学んだ。


 もっと根本的部分を教えてほしかったが、実践編を学んでしまった小鳩さん。

 しかし、しかしである。

 このピュア系お姉さん、まだあっくんとの濃厚接触は手と手を繋いで一緒に寝たのが最濃厚。


 「あっくんの意気地なし! もう知らない!!」と旦那の方を突き放すのも確かにあり寄りのありかもしれないが、彼は基本的に受動的な男。

 過去の罪から逃げない代わりに、新しい事へはなかなか踏み出さない。

 現状でも「俺にはよぉ。充分すぎるくれぇ幸せなんだよなぁ」とか眠たいことを言っちゃうくらいに聖人化していた。


 そして小鳩さんはお胸にタッチされるという決意を固める度に宣言する。

 今季通算90号。

 だが、今回の当たりは大きかった。


「ごめんくださーい。あ。莉子ちゃん、やっぱりここにいた。走るよ! ミンスティラリアの砂浜!!」

「ふぇ!? 仁香しゃん……!? あの、そにょ……。今日、レポートがあるので!!」


「走った後でも書けるよね? 私も報告書が溜まってるから。まずは汗を流してリフレッシュしようね!」

「死んじゃいましゅ……モグモグ……」


 仁香さんが魔王城にやって来ていた。

 彼女の後ろにはもう1人ほどシルエットが。


「莉子さん! 私も今日はご一緒します!! 頑張りましょう!!」


 リャン・リーピンちゃんである。

 実はこの2人、小鳩さんにとって激しい追い風。


「ふぁっ!! あのあの!! 小鳩さんがなんか今日、致すらしいでしゅ!! モグモグ!!」

「んもぅ! 莉子さんってば! 嫌ですわ!! 恥ずかしいですわよ!!」


 仁香さんの表情が曇った。

 青山仁香どこかの監察官室副官、塚地小鳩Aランクとは仲良しかつ、立ち位置が似ているのでただでさえ放っておけないお姉さんなのに「あ。小鳩ちゃんがまた一歩も進まない決意してる……」と察してしまい、そうなると放ってはおけない。


「……ちょっとだけ、私たちも休憩しよっか。リャン」

「了!! ダズモンガーさんから揚げパン頂いて来ます!! ダズモンガーさーん!! お願いいたしまーす!!」


 仁香さんは未婚だが宿六がいる。

 宿六が今この瞬間、どんな宿六になっているのか、それについて掘り下げるのは小鳩さんのお話の趣旨からかけ離れるのでよそう。


 そのうち誰が望まずとも時は来る。


 リャンちゃんはとっくに既婚者。

 この元気ハツラツ乙女が半年も時間があって、どうして結婚しないのか。

 既にバニングさんちの隣にあるザールくんちはいつ子供がデキても良いようファミリー世帯向けに改装済み。


「お二人にも是非! お話を伺いたいですわ!! お胸を触って頂くのって……その……。お、おブラの上からでも良いんですの!?」


 仁香さんは思った。

 「あ。これ莉子ちゃんをしごくの暗くなってからだ」と。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方。

 ほとんど同時刻。

 こちらは久坂家の敷地内にあるラブホテル、のようにしか見えないあっくんの家。


 ちゃんと五十五くんによって薔薇の装飾が施された表札に「阿久津」と書かれているし、その周囲はネオンがチカチカしていてすごく眩しい。


「ちっ。なーんでこんなに人がいるんだって話なんだよなぁ……」

「げふげふっ。ご迷惑でしたかごふっ。先週、佐賀に行って参りまして。小生、あっくんさんにお土産をと……」


「いや、あんたに言ったんじゃねぇんだよなぁ。ありがたく貰っとくぜぇ」

「それは良かったでごふぅ……。こちらが丸ぼうろ。こちらが、いかしゅうまい。そしてこちらが生きたスッポンでげっふげふ」


「……和泉さんよぉ。あんたぁ、佐賀に行く度によぉ。生きてるスッポン連れて帰ってくんのヤメろぃ。うちで飼ってるヤツ、そいつでもう6匹目なんだよなぁ」


 あっくん、スッポンは捌かずに飼育するスタイルだった模様。

 大人の男たちが会話をしている一方で、ちょっと後ろが騒がしい。


「逆神先輩! ふんすです!!」

「うわぁ!! ノア! 酷い事するなぁ!! なんでわざと抜かれたのかと思ったら、赤甲羅投げて来た!!」


「ふっふっふんすですよ、逆神先輩! これが戦略です! 追撃ふんすです!!」

「うわぁ! コースアウトした!! あっくんさん! このコントローラー壊れてませんか!?」



「ちっ。逆神ぃ。ノアぁ。暇を見つけちゃ俺の家に来るんじゃねぇ。逆神のコントローラーはさっき新しいヤツ出しただろうがよぉ。てめぇが壊しやがるから、うちはコントローラーのストック常に4をキープしてんだよなぁ。あ゛ぁ゛!? てめぇ! まーた壊しやがったなぁ!?」


 六駆くんとノアちゃんがマリオカートしてた。



 阿久津浄汰という男、趣味は漫画、アニメ、ゲームと意外にもインドア派。

 これは「あぁ? 俺がゴミみてぇな悪行キメてたのまだ2年前だろうがよぉ。悪ぃヤツがほいほい外に出られっかって話なんだよなぁ。周りに申し訳ねぇだろぃ」というあっくん贖罪ムーブによるもの。


 そのうちの2割くらいは「日本本部を歩くとすぐに若い連中が集まって来てうぜぇ」というものが混じっている、若手に慕われる自称悪いヤツ。


 六駆くんが「このコントローラーは出来損ないですよ」と山岡さんみたいな事を言うのでゲームは一旦中断。

 代わりに有益な情報をもたらした。


「あっくんさん!」

「あぁ?」


「『金田一少年の事件簿外伝・犯人たちの事件簿』借りてたじゃないですか!」

「あぁ。さっきおめぇが返して来たヤツなぁ」


「殺される被害者の順番、キャラの頭の上に数字書いときました!!」

「……てめぇ。ぶち殺すぞ」



「あと! 小鳩さんが今晩、あっくんさんと致すって気合入れてました! 致すんですか!?」

「……ちっ。それを先に言えってんだよなぁ。おぃ。逆神ぃ。和泉さん、ノアもよぉ。ちっと知恵貸せぃ。逆神にはよぉ。次はアカギ貸してやらぁ」



 あっくんサイドも致すのか会議を開始。

 メンバーにやや不安があるものの、無事に致す事ができるのか。


 小鳩さんもあっくんも無事に致す事を目標にしている時点で、そいつら素っ裸にしてラブホテル兼住宅に閉じ込めとけぃ、とか言ってはいけない。

 当人たちは真剣なのである。


 小鳩さんはエピローグが始まりの物語。

 半年もあったというのに、まだ何も始まってねぇのであった。

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