異世界転生6周した僕にダンジョン攻略は生ぬるい ~異世界で千のスキルをマスターした男、もう疲れたので現代でお金貯めて隠居したい~
第1306話 【エピローグオブ猫と猫・その4】どら猫、レポートを提出す ~やったぞ、無事に単位取得!! 猫たちの日常はこれからだ!!~
第1306話 【エピローグオブ猫と猫・その4】どら猫、レポートを提出す ~やったぞ、無事に単位取得!! 猫たちの日常はこれからだ!!~
少しばかり時は流れて、7月の末。
今年の梅雨明けは早かったのでもう夏本番、夏全開。
日須美大学のキャンパスも人はまばらで、試験を受ける者以外は日陰に避難する事もなくとっとと帰宅。
昨今の夏は日陰でどうこうできる次元を突破して久しい。
ひさし、木陰、屋内だって外に近ければクソ暑い。
「ちょっとそこで休もう」が熱中症とのファーストコンタクト。
用事がなければ家から出ない。
大学生にはこれが出来る。
しかし、どういう訳か見慣れた乙女たちが炎天下のキャンパスを闊歩していた。
「あ゛つ゛い゛に゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ー」
「ぽこ。瑠香にゃんの体は常に魔動力炉が暴走しなうように適温が保たれています。けれど、その上に人工皮膚があるので外部から接触するとただの人肌です。ステータス『瑠香にゃんは快適』を獲得。勝ち誇ります。にゃーです」
「けどにゃー。マクロ経済学のレポート出さなきゃならんかったもんにゃー。あたし、ギリギリまで迷ってたぞなー。けど、頑張ったにゃー」
「端的モード。このぽこ野郎。瑠香にゃん、徹夜に付き合わされた。しかも代筆とかしてない。ただぽこが寝落ちする度に瑠香にゃん砲を撃ってた。ご主人マスターにうるさいと怒られました」
閑散とした大学の構内を可愛い猫とダイナマイトボデーの猫が行く。
そして2匹は経済学の准教授の研究室へ到着し、ドアをノックした。
「ああ。椎名さんね。レポート書けましたか?」
「……すっ。書けました……」
「軽く拝見。……うん。よく頑張ってますね。探索員、大変なんでしょう? 私の知り合いにもいるんですよ。任務を単位にしてあげるくらいしか私たちには応援できないけど、頑張ってね。では、また後期に」
「……っす。あじゃじゃした」
ドアが閉まった。
「にゃはー!! やったったぞなー!!」
ちょっと前まで相手の顔もろくに見ないでぼそぼそ喋っていたのはクララパイセンである。にゃーとすら鳴かなかった。
彼女が頑張ったのには当然だが、理由があった。
と言うよりも、理由がなければ頑張らない。
少々の理由でも頑張らない。
とても大きなすごい理由があればちょっとくらい頑張る。
怠惰を極め勤勉からほど遠い、大学生という人生において貴重な4年間を無限定に拡張できる乙女、それが椎名クララ。
大学時代に頑張った事はと就活で聞かれても「ソシャゲのランクマで2ヶ月ずっと1位でしたにゃー!!」とリクルートスーツだけ着て答えるであろう未来が見えるものの、それは陽炎。
探索員としてはちゃんと優秀なので、大学生の終わりが近づくと「俺はニートするんや!!」という傾奇者以外は絶対にエンカウントする就活すらクララパイセンには訪れないので、いよいよもって大学生という肩書だけを愛している、このどら猫。
経済学の准教授と会話をしてからおおよそ2分。
とても元気であった。
スキップまでしちゃう。
ちゃんとスポブラしているので胸が大惨事にはならない。
小鳩さんチェックは週に4度、今でもちゃんと行われている。
それでは、パイセンが如何なる理由で頑張ってレポートを提出したのか。
それも、3日もかけた超大作である。
理由の開示といこう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
同日。
早朝5時前。
スーツ姿の男性がホビーショップの前に並んでいた。
彼のお目当てはウマ娘のフィギュア。
1体のお値段は3万円弱から高くても5万円くらいであり、これまで買い続けて来た羊羹を思えば氏にとってこの程度の出費は痛くもかゆくもない。
ただし、今回の極秘イベント。受注販売のフィギュアやイベント限定品、果ては知る人ぞ知る職人が作ったワンオフの逸品まで。
その筋の情報通でなければこのホビーショップにたどり着くこともできない、穴場の中で行われる超レアイベント。
氏は知っていた。
「あー。これ、朝の4時には並んでおかないときついっすよ。次はいつこんな機会来るか分かんないっすもん。椎名さんに約束しましたもんねー。フィギュアくらい何個でも買ってあげるよ! って。やー。大変っすねー」と、ある筋の情報通からタレコミがあったのだ。
だから並んだ。
先頭だったので並ぶというか、列の形成に一役買った。
2人目がやって来たのは8時過ぎだった。
開店は9時である。
トイレに行きたくなったら困るからと言う理由で、朝だろうとクソ暑い7月の末に水分補給もガン無視して、お腹が大きくなった妻に「どうしてスーツで行くのだ。短パンにアロハシャツとかで良かろう」と問われても「いえ……。その後にすぐ会議があるんです……。着替える時間が惜しくて……」と弱々しく微笑んだ、その男。
開店時間を迎えて、店主がシャッターを上げれば汗でべちゃべちゃの中年男性が立っていてギョッとした。
だが、店主もプロ。
リュックにポスターが刺さったチェックのネルシャツではなく、なんかカッチリしたスーツの男が相手でもきちんと応対する。
「いらっしゃいませ。何をお求めですか?」
「全種類ください」
「は?」
「全種類ください。今日売りに出されるフィギュア。ウマ娘のヤツ。全種類。もちろん、1つずつでお願いします。転売目的ではありません。本当です。贈答品として買わせて頂きたいのです。お願いします」
「ええ……。お客さん、熱中症になってませんか?」
「なっていません。お願いします」
「あの。ルール、ご存じですよね?」
「はい。『うまぴょい伝説』をきちんと歌える者だけに販売する、ですね。存じております。では、僭越ながら。お目汚し、失礼!!」
彼は歌った。
イントロからアカペラで、フルコーラス。
しかもダンスまで。
完コピである。
この日のために深夜に帰宅してから自宅で担当声優さんのライブ映像を見ながら振り付けを覚えた。
ライブDVDも買った。
身重の妻は怒るかと思ったが、「身体を労われよ……」となんか心配された。
「うー! Fight!!!」
踊り切った氏の後ろに成していた列から万雷の拍手が送られる。
店主はうっすらと涙を浮かべて「ああ……。あなたにならばお好きなだけ売りましょう。さ、どうぞ」と可愛いウマ娘たちをドンッと並べる。
そして氏は手に入れた。
部下であり、多分だが良き友人でもあり、恐らくだが教え子のような関係でもあるはずの椎名クララのために。
「ありがとうございました。これで面目が立ちます」
「あ。ちょっと、お客さん」
最後に店主が言った。
「あのー。『うまぴょい伝説』ね。あれ、サビを軽く歌ってくれるだけで良かったのに。あと、ダンスなんかいらないよ? いや、感動したけど。また来てね!!」
「えっ!? ………………………………えっ!?」
その男は「もう2度と来ない」と決意したという。
◆◇◆◇◆◇◆◇
そして時計の針は重なり、ミンスティラリア魔王城。
サーベイランスに映るのは、虚ろな目をした南雲さん。
ホビーショップに5時間並んでダンスして、その後で会議を3つこなしていた。
『はい。逆神くんに『
「にゃー? 南雲さん、南雲さん」
南雲さんは嫌な予感がしたという。
氏はのちに「私、習得したかもしれない。未来予知スキル」と語る。
パイセンが言った。
「20単位じゃないぞなー。2単位ですにゃー」
『……山根くん。コーヒーぶっかけて。私、これからすぐに失神すると思う』
ドサッと音がして通信は終わった。
クララパイセンの戦いはこれからも続く。
何と戦うのかは誰にも分からない。
これがその先にあるかもしれない未来。
その正しい見せ方である。
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